第65話 三人の狩り(2)




 無言で顔を赤くしている二人と、森へ向かって歩いていった。


 テンション上がりすぎたことを恥じている。


 思い知ったか、という意地悪な気持ちもあるが、無言は恥ずかしさだけじゃない。


 横目で見る二人の表情は、これからに期待する目になっている。


 瞳が希望に満ちている。表情は時折強い笑みが浮かぶ。


『やってやる』


 なんて言葉が、気を抜くと意図せずに口から出てしまうだろう。


 これからヒジカと一緒に、強くなって、魔物を倒していき亜人を救う旅に出る。


 そんな想像が、頭の中を駆け巡っているはずだ。昂っている気持ちは、見ていてわかる。


 眼は遠くを見ていて、歩く姿にも力が入っている。それはとても良いことなのだけど。


 ……僕も一緒に行きたい、なんて言い辛いな。


 幼馴染の三人に、割って入る真似はしにくい。割って入って野暮なヤツと思われるのも怖い。


 まぁ、認められるように狩りで頑張ろう。






 というわけで、狩りを開始したのだけれど。


「……むぅ。今日は難しいな」


 結果は三連続失敗。一人減ったからというより、減った一人がヒジカだったことに問題がある。


 僕が昨日のヒジカの役。大回りしてのソジ君との挟み撃ちを狙っていた。


「くっ。追いつけませんでした」


 昨日の方が、ソージ君は1.2倍くらい速かった。


「いやいや。逃げられているのは、拙者の方からですぞ」


 イッサさんの圧も弱い。獲物が怖がっていない分、素早い狐から遠く、イッサさんの近いところを逃げている。


 さすがに野性は僕が何かを察しているようで、獲物は決して僕の方には逃げてこない。POWなどの能力が10分の1まで下がった今、こっちに来ても確実に狩れるかは微妙だけれど。


 ヒジカの勇者パーティになることの昂揚で、二人が舞い上がっているというわけではない。その気の緩みは、各自一回目の失敗で修正した。


 ……おそらくこれこそが《勇者》の職業補正というやつだろう。ヒジカがいたことで味方の能力を、飛躍的に向上させていた。


 これが正式になっていない《勇者適正》を持っているだけで現れている効果なのだから、末恐ろしい。


 ソージ君の素早さ1.2倍はえげつない差だし、イッサさんにおいては昨日使えていた圧のスキルさえ使えなくなっている。


「作戦を変えた方がいいだろうね」


 僕が言うと、二人は頷いた。自分の能力が落ちていることは、自覚しているだろう。


 以前だったら、僕一人で《隠密LV6》で近づいて《邪眼》からの《突貫LV5》《破砕牙LV4》をやれば終わるのだけれど。


 邪眼系のスキルはことごとく封印されているし、POWも落ちているので一人では倒し切れない。そもそも、魔物ではなく亜人として狩らなきゃいけないんだ。元々持っていなかったものとして、割り切った方が良い。


「役を変えよう」


「……どういうことです?」


「一人減ってる上に、調子が悪いんだ。上手く行きっこない」


 能力を上げられるヒジカがいるのといないのとでは、前提も違う。低い能力でさらに効率が悪いことをやれば、成功率が落ちるのは当たり前だ。


「じゃあー、どうしますかな?」


 イッサさんが、真っ直ぐに目を見て聞く。


「イッサさんに、半分ヒジカの役をやってもらう。僕は僕として跳ぶよ」


 圧はいつもより減っていても、僕たちに比べれば本来強いんだし。


「……なるほど。ボクの負担が大きそうですが、それしかなさそうです」


 察しのいいソージ君に苦笑いする。そもそも、それぞれの長所を最大限に活かす方法なので、中距離を駆けるのが得意なソージ君がそうなるのも当然だ。


「わかりませんな。どういうことで?」


 ブタゴリラの方は察しが悪い。確認のためにも、地面に指で描きながら説明した。


「つまりは、イッサさんは最初は圧を消して、タイミングを見て走って獲物へ向かってもらう。今までは一番最初に動いてたけど、今日は一番最初に動くのはソージ君になる」


 獲物に向かって、ソージ君が走る線を描く。走り出す経路は、獲物がイッサさんの方に逃げやすい道だ。


「獲物はボクに追われて逃げ出しますけど、途中でイッサさんの圧に気づきます。そこで方向転換をした瞬間に」


 ソージ君が僕を見る。


「僕が獲物を転ばせる。ソージ君は転んだ獲物の足を噛んで、動きにくくする」


「その後は、転ばせた蛇と狐でフルボッコです。イッサさんも間に合えば、加勢してください」


 つまり、ヒジカの挟み撃ちをする役割を、イッサさんにやってもらう。


 そして、ヒジカの止めを刺す役割は、僕とソージ君でやる。


 能力を高める役割は無理。ないものはないもん。


 僕も《勇者適正》は持っているのだけれど、持っているだけでは駄目みたいだ。


「承知ですぞ! じゃあやるとしますかな!」




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