第48話 それから




 二十日ほど、北へ南へ行き来した。五歩進んで二歩戻るように。


 顔を持つ木の魔物トレントは《魔炎の邪眼LV1》を手に入れてからは楽であった。


 相性はやはり重要であるようだ。スキルレベルの低い頃からよく燃えた。野菜炒めおいしいれす。


 熊の《鉄爪熊てっそうぐま》も《恐怖の邪眼》や《麻痺の邪眼》が効く。動けなくさせてから《握撃》で部位を欠損させると、すぐに勝負は付く。


 どれも巨体であるのに素早いのだが、稀に素早さに極振りしたような個体がおり、そ奴には少し手間取った。《邪眼》を使おうにも視線を避けるし、間合いを詰めるのも攻撃も一つ一つが速い。


 それでも、今まで近接戦闘で主に戦ってきた我ならば危なげなく勝てる。相手は腕二本、我には噛みつける牙が五つの頭の分だけある。


《思考加速》でゆるりと動きを見、余裕を持って殺した。それでも強力な個体には、時々目を潰された。


 小型恐竜ディンフジはどれも驚くほど素早く《思考加速》でも持っているのか、広範囲の《薙ぎ払う》でもぴょんと跳ねて間合いを詰めてきた。


 やたらと動き回りしかもその動きには無駄が無く、牙の攻撃はなお当たらない。仕方ないので、肉を切らせて骨ごと食う戦法で、攻撃を受けた瞬間の隙を突き《握撃》か《破砕牙》。


 それさえ避けるのだから驚いておったが、消化してみると《回避》というスキルを吸収できた。


《ディンフジ》との戦いの後は毎回傷だらけになったが、お陰で《命中》のスキルを獲得できた。


 苦労したのは《邪眼の巨蛇》であった。こいつはとにかく数が少ない。お陰で一番欲しかった《魔炎の邪眼》は、なかなか手に入らなかった。


 戦い自体は楽なものであった。おそらく同じ《邪眼》持ちの我には耐性も有り、効きが悪い。近接戦闘力も近接戦闘に持ち込む間合いを取る能力は、我の方が圧倒的に高かった。


 北上しながら、魔物を狩り続けておった。


 攻撃を繰り返し、受けるようにもなったので《強力》《強固》といったATKやDEFを向上させるパッシブスキルも得た。


 どの魔物も好戦的なことが、非常に好感が持てる。力量を見せると速やかに撤退するところも。


 逃げる者は素早い相棒が即張る《蜘蛛巣》に引っかかる。相棒は《感知巣》なるスキルを得たようで、引っかかった魔物の息の根を止めに行く。


 この層の魔物は相棒の《蜘蛛巣》からも自力で抜け出せるが、それにもある程度時間はかかる。


 相棒はそ奴らに悠然と《毒牙》を入れていくだけだ。


 余裕を少し持ちつつも、楽しき旅は終わろうとしていた。


 我は今日、レベル29になった。《超直観》が次で《存在進化》だと告げている。 


「そろそろ夕方やなぁ。南に行こかー?」


「そうだのう」


 相棒を背に乗せて、我の《突貫》で南へ飛ぶ。《蜘蛛巣》を破る魔物がいないところまで。


 そこで相棒が《蜘蛛巣》を張って、その中で夜を過ごす。


 さすがに夜眠る時は、安心して眠りたいのだ。相棒の《蜘蛛巣》も日に日に強くなっているので、夜過ごす場所も徐々に北へなってはいる。


 そして朝を迎えると、また我の《突貫》で北へ。前日の場所より少し北から北上を始める。


 そんな日常が、二十日間ほど続いた。


 身の危険を感じるのは、時折相棒から夜に襲われそうになる時だけだった。性的な意味で。


 ごめん我は大きいおっぱいが好きです。幼女は駄目。


 ……そんな日常は、楽しかった。


 夜に襲われる緊張感は要らなかったが、戦闘の緊張感は楽しかった。


 相棒との暮らしももちろん楽しかった。正直、迷うところだった。


 ヒトは停滞を好み、変化を嫌うのだという。前の生での知識にある。最早我は、ヒトを名乗れるような外見ではない。それでも、まだしばらくは相棒とこうしていたいとも思っている。


 数日前、あの《蛇》を喰わなければ、このまま相棒と北へ進んでいっただろう。





 初めて見る蛇がいた。白く輝く蛇だった。


 サイズは《邪眼の大蛇》くらいで、体感で体長10メートル程度で太さは直径50センチ程度。


 ただ、素早かった。最初に視認したのは、白い輝きが木々ですっときらめいただけで、何かの見間違いかと思った。


 ただ《超直観》が告げていた。追うべきだと。会うべきだと。


 彼女は素早かったが《瞬発LV9》が乗った俺のSPDには及ばなかった。《演算処理LV7》で進行方向を予測し、回り込んだ。


《三角蹴り》も《稲妻蹴り》も持っていなかっただろう。白く輝く蛇は、蛇に睨まれた蛙のように微動だにしなかった。


 正面から見た白蛇は、美しかった。俺のように明らかな魔物の外見をしておらず、アルビノのような奇跡で、前世の地球にもいる可能性があるような蛇だった。白く美しい鱗、金に輝く瞳。


 もしいれば、神の使いか神そのものとして扱われただろう。


 そんな思いからか、一瞬怯むように動けなかった。蛙を睨む蛇のように動けなかった。


 しかし、それも一瞬。


 動物としての本能か、魔物としての本能か。一瞬の後の、狩るためだけの最適解・・・



   《麻痺の邪眼LV2》《丸呑み》



 動けなくなった蛇を中心の頭でそのまま《丸呑み》。4つの頭は相手の回避に備えて待機させていたが、不要だった。


 そうして、呑んだ後に気が付いた。俺が食ったのが、母であったことに。




    スキル《魔王の母胎》を獲得した!

     《魔王の母胎》は《多頭の邪蛇》♂には適用されない!

      スキル《魔王の母胎》を獲得出来なかった……。

     《義ある多頭の邪蛇》は彼の重要人物【絡新婦】《アルケニー(幼)》と出会っています。

     【絡新婦】との絆は閾値を超えています。

    《アルケニー(幼)》はスキル《魔王の母胎》を獲得した!

     エピソード【絡新婦の慈愛】が干渉します。

     《アルケニー(幼)》はスキル《大魔王の母胎》を獲得した!


    《親殺し》の称号を獲得した!

    スキル《冒涜LV1》を獲得した!

     《冒涜LV1》は《冒涜LV2》に統合される!

     《冒涜LV2》が《冒涜LV3》に上がった!

    《母殺し》の称号を獲得した!

    スキル《冒涜LV1》を獲得した!

     《冒涜LV1》は《冒涜LV3》に統合される!

     《冒涜LV3》が《冒涜LV4》に上がった!




 その時、俺は我になった。


 その夜、我は僕の夢を見た。



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