第39話 劣等感




 ゴブエリゴブリンエリートはすでに、俺達にとって雑魚となっていた。


 最初に逃がしたゴブエリが伝えたのか、もう俺たちには寄ってこない。逃げ遅れるヤツやはぐれたようなヤツを、手持ち無沙汰というか口寂しい時に食う。



    《身体操作》《突貫LV4》《破砕牙LV3》×5

    《締め付けるLV3》《丸呑みLV4》



 この基本戦術も、最初に比べてかなりレベルアップしている。《破砕牙LV3》を三つの頭でやるだけでもオーバーキルだし《突貫LV4》が勢い余って、時々木を薙ぎ倒してしまうほどに。蛇だった頃とはスキル名さえ変わっているので、グレードアップと言ってもよい。


「なんや、第三層まで来たのに、案外歯応えないヤツばっかやのぅ」


 魔物をくちゃくちゃ食いながら、相棒は言う。


「まぁ第三層っていっても、入ったばっかだしなぁ」


 俺は俺で、腹の中の魔物を腹筋と背筋で押し潰しながら蛇行する。


 俺は見かける魔物を、基本戦術で食って戻って来る。


 相棒には、下僕蜘蛛が自分で狩った獲物を献上しにやってくる。


 美味そうなものを持ってくれば下僕は撫でてもらえる。薄味であれば、見向きもしない。


 おそらく狩りで死んでいる蜘蛛もいるのだろうが、どこからかやって来て一定数を保っている。


 進むに連れ、入れ替わりが激しくなっている気がするが、数はどんどん増えている。最初からいる蜘蛛には、レベルアップしても残るような傷跡を残す者もいる。


 ……かっけぇ、と思う。


 下僕蜘蛛が俺を見る視線も、様々だ。


 主の友として敬意を込めた視線を送る者もいれば、敵対心を込めて見る者もいる。


 相棒は奔放に振る舞わせている。蜘蛛が俺を攻撃しても謝らないだろうし、俺が蜘蛛を食っても怒らないだろう。


 正直、この幼女の姿をした相棒に、引け目を感じ始めていた。


 生前の俺が器の小さい人物だったのか、小狡い蛇であるからなのかはわからないが、俺は信頼し尊敬する相棒に劣等感を感じている。


 そしてそれを無視できない、自分の心に嫌気が刺している。


 そんな中で舐めた視線を送る下僕蜘蛛を、食ってやろうかと思ったこともある。しかしそれを、何も言わなくとも相棒はどう思うだろうか。


 狭量な男だと見損なうかもしれない。そう思うと《威嚇LV8》さえも使えなかった。


 ん。近くに《魔狼》の群れがいる。


《突貫LV4》で突っ込んで中心の頭で《魔狼の長》を《破砕牙LV3》で噛む。


 残る四つの頭で周りの《魔狼》を《握撃LV1》で体を捥ぎ取り行動不能にしていく。然る後に《丸呑みLV4》。


 食える口も胃も増えたので、9体ほどいてもすべてを食事できる。


 そんな狩り方を繰り返していると《思考加速LV4》《並列思考LV9》まで上がった。もう五つの頭を完全に制御できる。


 すでに数度のレベルアップと脱皮を経て、体感体長は20メートルを超えた。


 太さは一つ一つの頭が、太さ2メートル弱だ。RPGなら、どこぞのダンジョンのボスくらいは任せてもらえそうである。


 それでもなお、蜘蛛の下半身を合わせても身長150センチほどしかない幼女に、勝てるかどうかわからない。


 試してみたが、レベルの上がった《粘着耐性LV8》でも、相棒の《蜘蛛巣》から逃げるのに時間がかかる。


《蛇毒牙LV1》で糸を溶かせば、すぐ動けるようにはなるが。


「確かに美味いんだけど、本当手応えはねぇなー」


 ずりずりと相棒の隣に戻る。


「せやろ?」


 ため息を吐く。右手で頭をかくのは、蜘蛛の姿の時から変わらない癖だ。


 魔物の種族は強くなっている。ただ《魔狼》や《魔猿》、《突貫猪》や《魔狼の長》など、同系統の進化みたいなのが多い。


《突貫猪》はスキル的にオイシイからありがたいが、狩り方が同じなので強くなった実感が持てない。


 蛇が臆病な性格というのも、俺が落ち込んでいる理由なのかもしれない。臆病者の隣に強者がいるのはストレスだ。


「まぁでも、本番は夜だろ。そろそろ休もうぜ」


 まだ陽は沈んでいないが、そう時間も経たずに夜が来るだろう。


 さすがに森の第三層で初めて過ごす夜は、起きて警戒しておきたい。


「せやな」


 ほーい、とこともなげに《蜘蛛巣》を40メートル四方に張る。俺のサイズとしては広くはないが、とぐろを巻いているので問題ない。


 ……《蜘蛛糸》だけじゃないな。《操糸》もかなりレベルは上がっているようだ。


 鉄製フェンスのように格子状に張られた糸は強靭で、外を見れはするが上にも隙は無い。製作期間三分。


 さらには《蜘蛛巣》の内周に沿って点々と蜘蛛達が配備されている。


 いざとなれば戦ってくれるし、起こしてくれるだろう。


「ほんじゃ、一旦寝るか」


「「おやすみー」」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る