第14話 スライムと蜘蛛




 そういえば、一つ謎が解けた。


 雨も降っていないのに点在していた、水たまりの件だ。


 移動を速足で這っていると、少し範囲が広がった《第三の目LV1》に《?》が映るようになった。その謎の魔物は、すぐに俺の察知範囲から外れていった。


 それを追いかけていくと、すぐに見つけた。


 ぷる。


 ぷるぷる。


 ぷる。


「おぉ、スライム、か?」


 透明な液体が浮き上がっては音もなく着地し、ぷるぷると震えていた。


 がぶり。


《突進》+《噛みつき》で、即食う。食感はなく、水を飲んだみたいな感覚だった。


 当たり所が良かったのか、即死だった。芯を食ったというか、核を食った攻撃だったのかもしれない。


 スライム(?)を殺すと、死体は水となって地上に落ちて水たまりとなった。


 今まで俺が水浴びしていたのは、こいつの亡骸だったようだ。


 それから見つける度にスライム(二匹目を《解析》すると予想通りスライムだった。)を食っていき《察知LV2》《体液操作LV2》《念話LV2》を獲得した。


「しかし、弱いなこいつら」


 まぁご都合主義のように、弱い魔物から順に出てくるわけでもないだろうし、スライムといえば雑魚の代名詞ではあるが、いかにも弱かった。


 その弱さとぷるぷるは、ちょっとかわいらしくさえあるが。


 これまで見つけられなかったのが不思議なくらいだったのだが、スキルから何となく想像がついた。


 つまりはスライムは、察知能力が高かった上に、念話でコミュニケーションを取っていたのだろう。ジャンプしても地を這っても、移動速度自体は遅い。


 だから今までの、ゆっくりした蛇行ではスライムが俺を察知し、念話で仲間に知らせながら逃げていたのだ。


《察知》は持っているスキルとかぶるが有効そうだ。


《念話》も会話の機会があれば必要になってくるだろう。


 なかなか生態っていうのも面白い。


 そんなことを考えていると、罠にかかった。







 頭を前にやろうにも動かず、後ろにわずかにしか動かない。左右も。


 目をこらす。視覚も《第三の目》も、舌も。舌が直接、糸に触れた。


「あぁ、蜘蛛の巣か」


 さすがに魔物の巣だ。大きくなった俺の力でも、やすやすと抜けない。


『おっほー! 大物がかかっとるやんけ! 今日はご馳走やぁぁあ!』


 甲高い声が聞こえてきた。何かと思ったが《第三の目》で上から蜘蛛が降りてきているのが見えた。


 おそらく《念話》でこの巣の主の声が聞こえたのだろう。体長は体感50センチくらい。


 デケぇ。


 近づいてきている。視力の弱い目と蜘蛛の複眼が合うほどに、距離を縮めていた。



    《威圧LV1》《眼力LV2》《念話》



『ブチ殺すぞ』


 見つめ合う蛇と蜘蛛、もう言葉は不要だった。


『…………』


『…………』


『キェェェェェェアァァァァァ! シャベッタァァァアア!?』


 カサカサと顔まで近づいてきたそれは、近づいてきた時の3倍以上の速度で去っていった。速!


 ほぅ、と安堵のため息を吐く。わずかであっても、生きながら食われるなんて想像だけでもぞっとする。


 ぐいぐいと前後左右に頭を振る。


「お? これマジで頑丈だな」


 全然壊れない。蜘蛛の臆病さというか、慎重さのおかげですぐ去ってくれたが、ちょっと食われるどころか、完食される可能性もあったかもしれない。


 さすがは野性。武器と慎重さ、重要なものを合わせ持っている。速さも俺が負ける。去ってしまった蜘蛛を称賛した。


「そういえば、この姿になって初めてナニカと喋ったな」


 殺すぞ、喋ったぁぁぁあ! では、会話とはとても言えないけれど。


 ちょっと焦る。蜘蛛が気まぐれに戻って来てしまえば、食われてしまうし、もうすぐ夜が来る。


 この状況で夜の強者たちを出迎えるなんて、ごめんだ。今日はひっそり木の下で隠れるつもりなのだから。


「ふんっ!」


 渾身の力で頭を引き抜き、ようやく蜘蛛の巣から逃れられた。


「あぁー、しんどかった」



    《粘着》を克服した!

    《粘着耐性LV2》を獲得した!

    『耐性』の概念を発見した!

     すでに体験している耐性を得る!

    《恐怖耐性LV4》を獲得した!

     生まれ持った耐性を得る!

    《毒耐性LV2》を獲得した!



「おぉ?」


 なんか倒してもいないのに。天の声の言葉数が多い。


 耐性。《粘着》性の蜘蛛の巣を突破できたからか。そもそも今まで俺は耐性の概念を知らなかったらしい。


 にしても恐怖耐性が上がりすぎ。蜘蛛の巣は怖かったが、そこまで? 毒耐性は、蛇だから持ってるんだろうけど。


「あー、昨日の夜小便漏らしそうになりながら一睡もせず、ビビり倒してたからか」


 まぁ夜には間に合ったし、目を付けていた木の下には近いので、蜘蛛には感謝しよう。次見つけたら食ってやってもいい。


 水たまりがあったので糸を濡らして取り、寝床予定の木の根へ向かった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る