第27話 任務開始
眠ってしまえば、時間の流れなんてものは早く感じてしまう。
ついさっきまで、一元と話していたような気がするが、巡の体はベッドの上で横になっていて……、どうやら眠って起きた、ということが認識できた。
もう明日になってしまった――、その捉え方は、まだ巡の意識は昨日にあるからだった。
今は今なのだから、明日になったのではなく、今日になった、だ。
勢い良く立ち上がったせいか、立ち眩みがした。
ふらふらと体重が左右に揺れる感覚だったが、倒れることはなく、部屋の外に出ることができた。階段を下りて、居間に辿り着く。
昨日、一元と話し合ったあの場所だ。
居間に入ると、昨日のことが思い出された。
忘れてなんかいない。自分の役割を忘れることなんてない。
そして、今日もまた始まっていく。
―― ――
朝食を終え、寝転がっていた壱加は、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
目を開けてみると……、家の中には気配がなかった。
いつもは騒がしい花や巡がいない。時計を見てみると、とっくのとうに学生組が学校にいったあとの時間だった。そりゃ静かなはずだと納得した。
立ち上がり、台所へ向かう。
喉が渇いたので冷蔵庫の中にあるお茶をテキトーに飲んだところで、後ろに一元がいることに気づく。気配はなかったはずだが……、と自分の危機察知能力を疑ったが、分からないのも無理はない。一元だって、この裏の世界にただ突っ立っているわけじゃないのだ。
気配を消すくらい、眠りながらでもできる。
「オレが咄嗟に攻撃するかもしれねぇのに、危ない橋を渡るもんだな」
「そんなもん、危ないと感じやしないさ。
そもそもそんなものが俺の中で危険な部類に入っていないしよ」
馬鹿にされてる気がしたが、ここは抑えておく。
一元と喧嘩をしても得られるものはない。勝ったという達成感も得られないのだ。
一元は負けた、けれど、なにか裏があるのではないか? と思ってしまう。
「……で、なんの用だ?」
「色々と嗅ぎ回っていた仲間から情報が入った。
お前にやってもらいたいことがあるし、お前も聞きたいのかもしれないしな」
一元が不敵に笑って、言いながら、くいっくいっと手招きする。
「お前が昨日、襲われたって言ってただろ? 八本足の蜘蛛の兵器。そしてお前並みの運動能力を持っている、同じくらいの体格の『謎の敵』。そいつは虎組の奴だ。
しかも虎組のメンバーじゃない。取引された――、つまり雇われたってことだ」
「虎組はそこまで人員不足なのかよ。確かに、じじいばっかで戦闘向きとは思えないけどよぉ」
「そういう目的じゃないとは思うがな。戦闘に使うというよりも、そいつ自体が欲しかっただけなのかもしれない。結果よりも過程を知りたいように見えるな」
「そんで、なにをすればいいんだよ? 虎組の本部にでもいって、なにもかもを叩き潰してくればいいのか? そうすると本気で戦争になりそうだけどよぉ、いいのかよ?」
「お前が狙うのは虎組じゃない。雇われたそいつだけだ。それが無ければ、攻撃もなにもないだろ。鬼に金棒――なら、金棒を取っちまえばいいだけなんだからよ」
それに、と、一元は一呼吸をおいて補足を入れた。
「雇われたそいつは虎組の言いなりってわけじゃないな。なんだか、自分の独断で動いているようだ。そいつにも、そいつなりの目的があるのかもしれねえな。
虎組を利用するために、利用されているのかもな。
まぁ、思い切り裏切っているようだが」
今、そいつがどこにいるのかは、虎組自身も分かっていないらしい。仲間からの伝言であり、実際に見たわけではないのだから、一元にその情報が本当なのかどうかまでは分からない。
どちらにせよ、虎組の本部にはいかなくてはならないだろう。
結局、手がかりが残っているとしたら、虎組の他にないのだから。
大体を理解した壱加は、すぐにでも向かおうとした。虎組の本部くらいは知っている。ここから徒歩で言っても三十分はかからないだろう。
やる気満々、という様子の壱加だったが、しかし一元としては、失敗をしてほしくはない。なので釘を刺しておくことにする。
壱加の場合は刺していても、それを無視することが多いが、刺していないよりはマシだろう。
「いいか、お前のターゲットは雇われたそいつであって、他の奴らは関係ない。間違っても虎組のメンバーに拳を入れるんじゃねぇぞ?
お前がさっき言ったように、本気の戦争になるんだからよ」
「けどよぉ、もう起きちまってるんじゃねぇか? 戦争なんつうもんはよ。あいつらは現実問題、武器を買ったってことだろ? 兵器を手元に置いているってわけじゃねぇか。
それって戦う気満々、潰す気ありありっつうことじゃねぇか。
それでもこっちはなにもしないって言うのか? 本当に?」
「まぁ、そうだな。けど、だからだろ。戦争になる前に、その前で止めておこうというわけなんだから。武器が無ければ攻撃はできない。戦争には進まないってわけだ」
「そういうもんかねぇ」
壱加は少し呆れた様子だった。
言っていることは分かる。納得もできた。
しかし、そう上手くいくものかと、信じられない気持ちが勝ってしまっている。
それはどうしようもない感情だ。
「ま、お前に従ってりゃいいんだろ? 間違いはないもんな」
「少なくとも、戦争は起こらないな。
起こるとしたら、敵と定めるのは、まったく違うなにかだろうしな」
「…………?」
「なんでもねぇよ。ま、そういうことだから、さっさといってこい。
そんで蹴りつけて、
「ああ」という返事もせずに、
壱加は玄関からではなく、庭から出かけていった。
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