12:メスガキはヴァンパイアと戦う

 レッサーヴァンパイアが11体にヴァンパイアが1体。


 それがアタシを倒すためにやってきた数だ。範囲攻撃ができない遊び人に対して数で押すのはまっとうな判断だ。数だけで押さないのは銀色吸血鬼軍が攻めていることもある。そしてヴァンパイアが出てきているのは、


「聖女を結婚アビリティで呼び出せば、私の攻撃で一網打尽にしてやるザマス!」


 この数を範囲聖魔法で一掃しようとコトネを呼び出した瞬間に、ヴァンパイアの【コウモリ乱舞】で一気に倒すためである。直線にいるキャラ全員に10ヒットを与えるアビリティ。今のコトネがそれをくらえば瀕死確定。或いはHPMPを吸収する【精吸血】でMPを削り切るか。


 どちらにせよ、コトネを此処に呼べば負け確定だ。聖魔法を使える聖女を確実に倒すためにわざわざ壁の向こうから出てきたのである。じりじり削られるぐらいなら、数と実力で抑え込む。そういう意図だ。


 当然、アタシもコトネもそれは理解している。ここで合流するのは悪手。つまり、この状況をアタシ一人で突破しないといけないのである。


「きゃー。こわーい。怖いからコトネの所に逃げようかなぁ?」

「無駄ザマス! あちらには弓兵を送っているザマス! 逃げたところを一網打尽ザマス!」

「そ。じゃあアンタを倒してコトネを呼ばないとね」


 逆に言えば、厄介なのはヴァンパイアだけだ。レッサーヴァンパイアの攻撃なら耐えられるが、ヴァンパイアの3大アビリティは厄介なだけに過ぎない。ザマス吸血鬼を倒せば、脅威は消える。


「遊び人如きがヴァンパイアを倒す? 冗談はやめてほしいザマス! 無様に干からびて骸を晒すザマス!」


 ゴールドナイフを抜くアタシに牙をむくザマス吸血鬼。周りのレッサーヴァンパイアも包囲網を崩さない範囲でアタシに迫ってくる。


「食らうザマス! 全ての血を吸いつくしてくれる!」


 振るわれる爪。その先に宿るのは吸血鬼の力。傷つけた場所から命を食らい我が物とする【吸血】とそして【精吸血】。四方から攻撃を受け、同時に血を奪われる。嗚呼、可憐な少女の冒険はここで終わってしまうのか。


「血を吸う? もしかして蚊なの? かゆーい。オジサン達の攻撃かゆーい」


 当たり前だけど、そうはならない。ゴールドナイフと一緒に装備した金糸服。それに【カワイイは正義】の効果が乗ればタンクができるぐらいに防御力がアップする。そして【吸血】と【精吸血】は――


「バカな!? 血が吸えないザマス! まさか貴様、コウモリ王の守りを持っているのか!」

「いや、それよりもこの防御力の硬さは何だ! 相手は騎士でもない遊び人だぞ!」


 黒翡翠コウモリ。【出血】【吸血】のバステを無効化するお守りだ。持ってるだけでこれらの系統のバッドステータスを受けない。やっててよかったレアアイテム狩り。


 今のアタシはレッサーヴァンパイアの攻撃は微々たるものだ。合間を見てポーションを飲めば何とかなる。【吸血】も効かないし、この数なら脅威にはならない。問題は――


「お前たちは下がっているザマス! 私の攻撃ならそれなりには通るザマス!」


 レッサーヴァンパイアよりも一段階上のモンスター、ヴァンパイア。【吸血】は効かないけど、素の攻撃力はレベル相応に高い。ザマス吸血鬼に着られた場所がじくじく痛む。致命傷とまではいかないが、無視はできない痛み。


「おそらくは聖女に加護をかけてもらっているザマスね。時間が経てばそれも切れる。或いはそれまでに私に殺されているザマスかね!」

「あは、偉そうなこと言わない方がいいわよ。その後無様に死んだら目も当てられないし。あ、もう死んでるんだっけ? アンデッドって大変よねー」


 言ってヴァンパイアに迫るアタシ。アタシの幸運値が基準になったゴールドナイフの一撃はヴァンパイアにダメージを与えることができる。逆に言えば、これ以外の装備ではダメージを与えるのは無理だ。


「減らず口だけは一流ザマスね。だがこれまでザマス! 無限のコウモリに飲まれて死ぬザマス!」


 ザマス吸血鬼の姿が小さなコウモリに変化する。そのままアタシに向かって跳んできた。【コウモリ乱舞】。直線範囲にいる相手に無属性の10回攻撃。まともに食らえば金糸服を着たアタシでも立ってられない攻撃。


 笑みを浮かべるコウモリから除く鋭い牙。それがアタシを斬りきざむ為に飛来する。これに耐えられるかどうかが勝負の分かれ目。できるだけ引き寄せて――よし、この瞬間よ!


「ちっちゃーい。オジサン、ちっちゃーい」


 罵るように言って微笑むアタシ。【笑う】のレベル4で覚えることができる【微笑み返し】だ。相手を<困惑>させて、命中力を下げるアビリティ。命中の寸前で当たる確率を下げられるヴァンパイア。


「だだだだだ誰が小さいザマスか!」


 コウモリ化を解いて叫ぶザマス吸血鬼。バステ回復能力が高いのか、すでに<困惑>は解除されている。高レベルモンスターはバステにかかってもすぐに回復されるため、できるだけギリギリで【微笑み返し】を使う必要があったのだ。


「うーっし、耐えたぁ……」


 とはいえ、アタシの方も無傷ではない。<困惑>で命中を下げても当たるときは当たる。10回命中が5回命中になった程度だ。何度か繰り返されれば倒れるし、今だって7回ヒットしたら倒れていたかもしれない。


「所詮は遊び人。つまらないことを言って愚弄させる程度ザマス。今度はそんな下らない戯言に引っかからないザマス!」


 言いながら爪を振るうザマス吸血鬼。【コウモリ乱舞】を連発しないのはコトネが来た時ようにMPを控えているのか、あるいは弱ったアタシならこれで十分と判断したのか。


「じゃあこういうのはどうかな、ちっちゃいオジサン」


【笑裏蔵刀】+ゴールドナイフによるクリティカル攻撃。笑いながらナイフを一閃し、ザマス吸血鬼の胸を割く。


「がふぅ……!」


 一撃で倒すには至らないけど、かなりのダメージを与えることができた。のけぞるヴァンパイアを前にして【早着替え】でブラッドドレスに着替える。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★アイテム

アイテム名:ブラッドドレス

属性:ドレス

装備条件:【ドレス装備】

耐久:+30 抵抗:+30 【吸血】使用可能。


解説:吸血鬼の貴婦人が着るドレス。赤き血のごとき紅が目を引く。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アタシはブラッドドレスに着替えて、速攻で【吸血】をヴァンパイアに向けて使う。ザマス吸血鬼から流れる血がアタシに向かってきて、ドレスに染み込むように消えていく。そして、


「うっし、HP回復!」


 ポーションとブラッドドレスによるHP回復。ダメージはそれでほぼ完治する。その後すぐに金糸服に着替えるアタシ。


 攻撃力防御力に長けた金色武器防具と、ブラッドドレスを使っての回復。これがアタシの作戦だ。


「馬鹿な!? 我々と同じ吸血能力だと!? しかもそのドレスは貴婦人の証たるブラッドドレスザマス! 貴様のような遊び人の子供がなぜ持っているサマズか!?」

「まだわからない? アタシが強くてキレイで可愛くて高貴だからに決まってるじゃない」

「「いや、それはない」」


 胸を張って言うアタシの言葉を一斉に否定するザマス吸血鬼と周りのヴァンパイア兵士達。


「口悪いし胸もないし」

「貴婦人とは真逆の子供だし」

「馬子にも衣裳っていう好例だよな」


 よーしおまえらぶっ倒す。初めから倒すつもりだけど!


「ゆ、油断してはいけないザマス! この遊び人、かなりしぶとい上に一撃が重いザマス……!」


 さっきのクリティカル攻撃が痛いのか、あるいは状況を察したのか。ザマス吸血鬼が叫ぶ。


 相手の回復リソースは【吸血】だけだだ。だけどそれはアタシには効かないから、相手はHP回復もできない。金糸服+【カワイイは正義】の効果で攻撃してもダメージを与えられるのはヴァンパイアだけ。だけどそのダメージも回復される。


 回復できず削られるヴァンパイア側と、回復できるアタシ。どちらが有利なのかなんて言うまでもない。


「気づくのが遅いわよ。とっとと倒れてレアイテムおとしなさい!」

「だからレアイテムって何ザマスかぁ!?」

「ま、拙い!? レーゼン卿をお守りしろ!」


 必死になるヴァンパイア軍。だけど回復ができない時点でアタシに負けはない。ゴールドナイフを振るい、時々【吸血】してヴァンパイア勢を圧倒するアタシ。


「ま、ま、まさか私がこんなところでやられるなんて……無念ザマス……!」


 幾度かのクリティカルの後に倒れるザマス吸血鬼。レッサーヴァンパイア達も同じように倒れていた。


「さあ、レア寄越せ!」


 倒れたザマス吸血鬼の懐をまさぐり、アイテムを探す。【笑う門には福】の効果で確率は7%弱。ざっくり14回に一回の確率。アタシなら引ける。アタシなら引ける。引け―!


「よっし! ブラッドウィップゲット!」


 そしてアタシはその勝負に勝った。


 ザマス吸血鬼からドロップした赤いムチを手に、拳を掲げて叫んでいた。

 

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