9:メスガキは作戦を告げる
ジョブレベルを上げたアタシは…………。
「どうしたんでちゅか、トーカちゃんは?」
「ジョブレベルアップの余韻です。しばらくベッドで寝かしてあげましょう」
「コトネのせいなんだからね!」
枕に顔をうずめて全世界からの情報をカットしていた。恥ずかしすぎてもうやだー! アタシこのまま消えちゃいたい!
「そもそもあんな事する必要とかなかったじゃないの! なんであんなことしたのよー!」
「何度も言ったじゃないですか。あんな姿を私以外に見せたくないんですって。これで恥じらいを覚えていただければ幸いと思いまして」
「…………本音は?」
「トーカが可愛すぎて、つい」
「コトネのいじめっ子ぉ!」
やっぱりあんな事する必要なかったじゃないのー! わーん!
「見てなさい! コトネがレベルアップする時に同じ事してやるからね!」
「はい。楽しみに待ってますから」
「うぐ……!」
ニコニコして嬉しそうに言うコトネ。本当にその時を楽しみにしている顔だ。それを見てアタシは言葉を詰まらせた。正確に言えば、コトネの耳元で好きと囁く自分を想像して……それだけでいろいろ耐えられなくなって顔をそむけた。
「大体何があったか察しまちた。病気とかじゃなくてよかったでち」
「察さないで……! 説明しなくていいのは嬉しいけど、理解されるのも困る……!
なんでジョブレベルアップするたびにあんな感覚に見舞われるのよ!」
「これまでにない能力が使えるようになる肉体的精神的変化、それに伴う情報料を受け入れるために、心身ともに麻酔を行う必要があるからでち。
急激な変化を平常心で受け入れれば、精神が崩壊して肉体も慣れない感覚について行けずに脳が誤作動を起こしまちゅから」
「いきなり手が4本になるようなものですからね」
前にも聞いたことがあるけど、新しいアビリティを覚えるという事はこれまでなかった感覚や動きが身につくことだ。コトネの言うように、腕が一本生えただけで脳は混乱する。魔法の使い方を脳内に無理やりインストールされたり、剣技の体の動きが体に染みついたり。
そう言った情報を受け入れやすくするためにあの感覚で肉体と精神をいったん酔わせて、その間にアビリティを覚えるのだ。
せめてもーちょっと方法が……いや、その仕様が問題なのではなく、なんというかその仕様をこういうふうに使うコトネが問題なのであって……そのコトネの言い分も、
『こんなことは好きな人にしかしません。トーカの事が好きだからしたいんです』
そんなことをアタシのハートに向けてストレートにそう言ってくるのだから、もうアタシは完全降伏。為すがままだ。コトネに好きって言われるだけで、アタシはもう何もかも許してしまいそうになる。
「ふん。今はその辺はどうでもいいわ。準備も整ったし、さっそく攻めないと」
この件に関しては勝ち目なし。アタシはそう判断して話を切り替えた。……違うわ。本題に入ることにしたの。決して勝ち目ないから切り替えたんじゃなくて、大元の筋に戻しただけ。それだけなんだからね!
「そうですね。時は金なりです。準備は不十分かもしれませんが、待って事態が悪化するしかないのなら行動は早くするに越したことはありません」
「……そう思ってるのなら、さっきみたいな事はしなければいいじゃない」
「トーカが早く終わらせれば問題なかったんです」
アタシの文句にしれっと返すコトネ。この件を追及してもいいけど、時間も惜しいしやめてあげるわ。決して何言っても勝ち目がないとか何言っても恥ずかしい思いするだけだからとか、そんなことはないんだからね!
部屋を出て、廊下を歩く。吸血鬼メイドさんに聞いたら、銀色は執務室に戻ったそうだ。そちらに向かいながら会話を続けるアタシ達。
「とはいえ、賭けの要素が大きいのも事実です。ブラムストーカー伯爵とその兵士達が協力してくれたとしても、勝率は低いと言えるでしょう」
コトネにはすでに作戦内容は告げてある。コトネ自身はアタシの事を信用してくれているが、銀色吸血鬼は信じてくれるかはわからない。ついでに言えばレッサーヴァンパイアの兵士もだ。
「かといってこのまま城で防御しても勝ち目ないんでしょ? だったら賭けに出るしかないわよ」
「それを上手く説明して納得してもらえればいいのですが……戦うのは彼らも同じですし」
「何とかなるわ。無理ならアタシとコトネだけでどうにかするしかないわよ。ヴァンパイア5体とか、さすがに無理だろうけど」
「300人に囲まれるのもおしまいですよ。魔法の範囲外から攻撃されるか、こちらの力が尽きるまで力押しか。どちらにせよ2名では無理です」
言いながら執務室の前に来るアタシ達。ノックをして中に入れば、椅子に座ってペンを走らせている銀色がいた。黙って見ている分には普通に大人の仕事人っぽい。
「Hi Girls! BestConditionになりましたKA? 何やら用事があったようですがFinishでOK?」
まあ、口を開いた瞬間にいろいろアレな感じになるんだけど。なんだろうなぁ、この吸血鬼。
「はい、おかげさまで。準備はほぼ整いました。いろいろ相談したいのですがよろしいでしょうか?」
一礼してコトネが話を切り出す。アタシが提案した作戦を、コトネがかみ砕いて説明する。曰くアタシが説明すると端的すぎる上に、要らぬ誤解を生みかねないとか。短い言葉で要点だけ伝えてるんだからそれでいいでしょ。
「Wonderful!? Realy!? Amaaaaaaaaazing! そのような事が可能なのDESUか!?」
信じられないとばかりに驚く銀色。そんな銀色にアタシは胸を張って追加の説明をする。
「難しくないわよ。要はアタシがガーって攻めてコトネをポーンて呼んで、そこをだーって攻めればいいだけなんだから」
「トーカの説明は端的すぎます」
むぅ、短く要点だけ伝えてるのにそんな言われかたをされるとは。
「Uh……! 確かに可能であるなら状況をReversalできますNE。しかし最後は確実とは言えません。そのGambleに失敗すればGirlsは追い込まれMASU! 運良くRun Awayできたとしても、警戒されて二度目は無いでSHOW!」
銀色が頭に手を当てて大きく振りながら言う。実際、確実とは言えないし失敗したら対策を取られる。ぶっちゃけこんなのただの奇襲で、成否に限らず警戒されて二度目はない。
「だからこそ今使うのよ。それともほかに打開策がある?」
「正直言えば、不確実すぎて私も不安があります。ですが伯爵もおっしゃったとおり、状況を逆転できる作戦でもあります。
どうかご一考をお願いします」
アタシとコトネの言葉に銀色は沈黙する。
「GirlsがここまでDangerousを覚悟しているのDESU。ここでSafetyになるのはBadDecision!
But! Girlsの安全面はPerfectに考慮しMASU! 帰還アイテム、回復アイテム、FullShortageで作戦をGoするYO!」
悩んだ末にOKを出した(と思う)銀色吸血鬼。机から立ち上がり、アタシとコトネの肩を叩く。
「Girls……トーカにコトネ! 頼りにしMASU!」
「適当でいいわよ。アタシはアホ皇帝への対策アイテムが欲しいだけだし」
「トーカの言い方は問題ありますけど、お互いの為です。頑張りましょう」
こうしてアタシ達と銀色伯爵が共同する作戦が動き出すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます