3:メスガキは料理を食べる
【満漢全席】――ジョブ:コックのスキル【料理作製】レベル10アビリティ。
その効果はフィールド内全員の回復と、【満漢全席】を使ったキャラが生存している限り継続的なHPMP回復。能力バフはかからないけど、回復範囲の広さと回復量は高い。
無数の敵が攻めてくるなどのスタンピート系レイドイベントでは、いると居ないで難易度が大違い。それぐらいの強さだ。コックは【味付け】スキルにより料理効果を増すので、使っているだけで多くを回復できる。一回ごとに相応の食材を使うので、費用対効果がきついのがネックだ。
「お、おおおおお……」
目の前に並んでいるのはまさにその【満漢全席】。城の食堂に通されて銀色吸血鬼がそのアビリティを使ったのだ。白いテーブルクロスの上に現れる様々な料理。ゲームでは単に効果が表れるだけなんだけど、この世界では実際に出てくるようだ。
「前菜はイチゴとサーモンのCarpaccio! BestなSeasonのイチゴと取れたてのサーモンを組み合わせ、レモンとオリーブオイルを使いまSITA!
Freshnessな味わいをEnjoyしてくだSAAAAAAAAI!」
イチゴやサーモンは<フルムーンケイオス>にもあるアイテムだ。オリーブオイルも作ることができる。なのでまあこの銀色吸血鬼のパフォーマンス以外に驚くことはない。
「……美味しいです。イチゴの甘さとレモンの酸っぱさが絡み合って、サーモンもすごく新鮮ですっきりしています」
「うん。美味しいわ。かるぱっちょ? 初めて食べたけど凄いのね」
フォークを使ってパクパク食べるアタシとコトネ。
「満漢全席と聞きましたから中華系……こちらの世界ではヤーシャ系と思ってましたが、違うんですね」
「YES! 料理に国境はNothing! 生まれたCultureの違いとMaterialの違い! それだけYO!
Nextは玉ねぎとSoy Sauceを使ったsooooooooooup! GoodなSmellと玉ねぎのCrunchy! Simpleゆえの味わいDEEEEEESU!」
出てきたのは玉ねぎが入った少し黒いスープだ。湯気の温かさと同時に醤油の香りが鼻をくすぐる。スプーンですくって食べれば、シャキシャキした玉ねぎの食感としょうゆの味が口の中に広がった。
「凄いわね……」
なんというかこれ以外に感想が出ない。コトネも何も言わずに食べているけど、美味しそうに食べているのは間違いない。見た目はどこにでもありそうでアタシでも簡単に作れそうなんだけど、なんでこんな味になるのか全然わからないわ。
「Thanks! そしてここからがMaiiiiiiiiiiin! コカトリスの鶏団子! 素材の味をふんだんに生かしたVeryVeryな一品! Fluffyに仕上げたので、ChildrenでもNoProblem!」
誰がチルドレンよ、と叫ぶ気も起きないぐらいに美味しい。ふわふわなのにお肉がぎゅっぎゅしている感じ。ソースのあんかけも甘くてお肉に絡んですごくすごい。
「Stiiiiiiiill Maiiiiiiin! コチラはテッポウヒラメのムニエル! バターをたっぷり使ってオリハルコンフライパンで熱したモノDEEEESU! AcidityとFishのCollaborationTime!」
やばいおいしい。食べきるのがもったいないぐらいだ。ちっちゃい一切れなのに、十分に満たされる。お腹いっぱいじゃないのに味だけで脳が満足してくる。
「そろそろFinish! DessertはThreeCollarDumpling! 町内で取れたイモをこねて作った物DEEESU! Pink! Green! White! この城の旗に使われる色を使いました!」
イモなの? とか怪訝に思ってたけど口にするとそんな感覚は消え去った。めっちゃくちゃ甘くて、そしてすっきりする。そしてようやく自分がお腹いっぱいなんだと気づいた。ちょうどいいタイミングで甘味が出てきて、すんなりする。
「それでは最後にTeaTime! 温かいお茶を用意しました。ゆるりご歓談くださいませ!」
カップに紅茶を注ぎ、一礼する銀色吸血鬼。適度な温度で出されたお茶を飲むと、気持ちが落ち着いてくる。
「ごちそうさまでした」
「あ、ごちそうさま」
コトネが手を合わせる。アタシもまねるように手を合わせた。なんかそうしないといけないぐらい美味しかったのだ。……なんというか、食の暴力というか。おいしいがおいしいという形でアタシを支配したというか。
「ありがたきお言葉。食事を楽しんだお方からの心からの謝礼。それこそが、料理人としての最高の報酬でございます」
いつもの無意味な英語叫びではなく、静かな銀色吸血鬼の返答。心の底からそう感じているのだと分かる動作と言葉だ。
「Girlsに合わせての料理でしたが、満足してただけてMeはVeryHappiness! お望みであればゴールデングリズリーの手やデジョンスパローの巣やアイランドエレファントの鼻などの珍味もCookingできますYO!」
そしていつものノリに戻った。いや、なんなのそのラインナップ。クマの手とかツバメの巣とかゾウの鼻とかなんなの?
「いらないわ。お腹もいっぱいだし。普通の食事で十分よ」
「満漢全席でだされる高価な食材なんですけど、私も今は満腹ですので」
「YES! 興味が沸いたらいつでもPlease! お客様を満足させることがMeの満足DESU!」
お茶を飲みながら一息つくアタシ達。美味しい食事を食べて、オマケにレアなドレスまでもらって。いいことづくめだ。
「ところで、Girlsはカルパチアに何をしに来たのDESU?」
「レベルアップよ。レッサーヴァンパイア狩ってヴァンパイア狩って。レベル85になるまで籠るつもりよ」
「Brave! ただのPrettyなGirlsと思ってましたが、実にStroooooong! 三大神のBlessingがあらんことを!」
銀色吸血鬼の言葉に苦笑するアタシとコトネ。ついでにかみちゃま。三大神の一人がすぐそばにいるわ、その一人に色々邪魔されそうになったわ、いろいろあるので何とも言えない。
「あの、吸血鬼を倒すことにブラムストーカー伯爵は思う所はないのですか? 私達は貴方の同族を倒しているんですが」
「NoProblem! MeのCitizenやSoldierは城内に籠ってMASU! それに挑んで負けたのなら、それを恨むのは筋違いDESU!」
「籠る? ええと、ブラムストーカー伯爵は籠城しているという事ですか?」
「籠城してるのにボスが外に出てたとか、さすがになくない?」
話題を変えたコトネ。それに帰ってきた言葉にさらに疑問を重ねるコトネとアタシ。籠城の意味ぐらいはアタシにもわかる。防御に徹しているのに、ボスが出ていくとかチグハグじゃない。
「コトネGirlの質問はYES! 恥ずかしながらMeの領は押され気味なのDESU! 数多の領土を奪われ、今まさに風前のLight! そこに現れたのがGirls!」
「なに? じゃあアタシ達に助けてほしいからボス直々に出てきて接待したって事?」
あ、そういう事なのね。納得するアタシ。レッサーヴァンパイアを容赦なく狩っていたアタシ達を見て、戦力として引き込もうとしたのだ。ボスが軽々に出るのはどうかと思うけど、強さ的にボスがレッサーヴァンパイアなんかに負けるはずもないし。
「NONO! むしろ関わり合いにならないでほしいとお願いしたいDESU! VampireWarに無関係なGirlsが巻き込まれるのはBAD!
血の皇帝<フルムーン>のおかげで戦争はAggravation! DangerでDeathが重なりDarkRitualは加速中! レベルアップは別の所で行ったほうがBESTPLANね!」
よくわからない英単語交じりの喋りだけど、危険だからどっか行けっていうのはなんとなく理解できた。
そしてもうひとつ理解できたことがある。
「ちょっと待って。あのアホ皇帝と何か関係があるの?」
皇帝<フルムーン>。
アタシのレベルを奪ってコトネをイジメたアホ皇帝の名前が出てきて、アタシは銀色吸血鬼に問い返した。
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