31:メスガキはダンジョンで狩りをしてもらう

 エルドラド。そしてシバルバー。グランチャコにあるダンジョンでも、屈指の難易度を持つダンジョンだ。


 エルドラドはうっそうと茂る森と縦横無尽に走る川で構成されており、<毒>系のバステを付与する霧が噴出されたり、不意打ちで槍が飛んでくるトラップ付き。当然中のモンスターのレベルも80代と高い。


 シバルバーは地下に潜る形式。こちらはフィールドトラップは何もないけど、とにかくコウモリ系のモンスターが多い。徘徊するボスのカマソッツがいきなり表れて即死級のダメージを与えてくるなどとにかく気が抜けないダンジョンだ。


 とはいえ、目的はダンジョン攻略でもボス攻略ではない。レアアイテムをゲットすることだ。アタシ一人だとレベル不足で無理なんだけど、協力してくれる人たちがいる。その人に感謝しながら二大ダンジョンを攻略中だ。


「――ってなわけで頑張ってねー」

「ふざけんなガキんちょ! アイドルをコウモリ塗れにするとかどんな探検隊番組だ!」

「ぬぅ。厳しいとは聞いていましたがここまでとは」

「はふぅ! 命令だけして見下す幼女は素晴らしい! トーカさんのメスガキオーラがビシバシワタシの脳を刺激します! それはそれとして生産職には厳しいんじゃないすかね、ここ!」


 まずシバルバーに挑むのはアイドルさん、四男オジサン、そしておねーさん。魔法カウンターと投げカウンターと物理魔法反射武器持ち。そんなカウンター壁三枚組だ。ひっきりなしに襲い掛かるコウモリをカウンターで撃退。楽な仕事ね。


「70レベル級のコウモリとかアタシじゃどうしようもないのよ。数も多いんでカウンターしてもらうのが一番楽な攻略だしね。

 あ、そいつ魔法攻撃だからお姉さんは魔法反射に切り替えて。アイドルさんはそのまま火属性の魔法カウンター維持。オジサンは右からくるコウモリ軍団に備えてね。MPは4割以下にならないように維持。不意にボスのカマソッツが沸くから、それだけ注意して」


 秒単位で切り替わるコウモリの構成。倒したら倒した分だけ別のコウモリがやってくる。これがシバルバーのデフォルト。そして不意を突くようにボスが通りかかってくるのだ。


「ファンに殺到されるのは慣れてるけどコウモリがここまで沸くとかさすがに聞いてないぞ!」

「ちぎっては投げ、ちぎっては投げとはまさにこのことですな。ぬぉ、音波による物理防御無効化。筋肉を鍛えてなければ即死でした」

「幼女に命令されるだけの人生……。いろんな意味で至福でしゅ!」

「次のコウモリは土属性弱点だからアイドルさんは衣装と魔眼切り替えて。音波は連発できないからHP回復は後回しで。後お姉さんは変なトランスにならない!」


 シバルバーを攻略する最適パーティは大きく二つ。強力な全体攻撃を持つ者を多くそろえた火力型か、アタシ達みたいなカウンター主体でコウモリを処理していく防御型。物理と魔法のカウンターキャラ完成系が2名と、カウンターアイテムを持っているテイラーがいるんだから使わなきゃウソでしょ。


 なお、アタシは指示を出しているだけだ。的確な指示を出す人がいないとカウンターパーティは意味をなさない。コウモリの攻撃方法と属性をきちんと把握し、それに適したカウンター方法を出す。わずかな穴から崩壊するのだから、正しい判断は超大事である。


「流石シバルバー。<フルムーンケイオス>5大難関ダンジョンなだけあるわ。推奨レベル95は伊達じゃないわね」

「おいまてそこまで厳しいとか聞いてないぞ! ちょっと大変だけど、ぐらいしか聞いてないからアミーちゃん了承したんだけど!」

「この世界でも5指とは……確かに動くのも難しいですな。吾輩もまだまだ修行が足りぬという事ですか」

「あの……何度も繰り返しますけど、ワタシ裁縫師ですよ。戦うとか論外なんですけど」

「はいはい。愚痴ってる余裕はないわよ。アイテムゲットするまで頑張る頑張る! 0.2%だから5000匹倒せば手に入るはずよ。あくまで確率論だけど」

「うわあああん! ギルド長とアムちゃんと一緒に帰ってればよかった! やっぱりがきんちょは生意気で性格悪いクソガキだ! 友情なんか感じるんじゃなかった!」

「これもトーカ殿の為……とはいえ、その数はさすがに心が折れますな」

「なんという理不尽。そこに痺れる憧れる! トーカしゃま、踏んで!」


 ――そんなカオスな状況の中、アタシ達はシバルバーでレアアイテム狩りを続ける。HPMPが尽きて撤退しては休憩後に再開。おおよそ2日の行程の後に、ようやく『黒翡翠コウモリ』を手に入れる。


「うっし、予想よりも早くゲットできたわね! これもアタシの日ごろの行いの賜物よ!」

「何か言いたいけど……言い返す気力もない……このクソガキぃぃぃぃ……」

「流石に……堪えましたな……。コトネ殿にギリギリまで働かされると聞いていましたが、ここまで、とは……」

「ああ。久しぶりのワガママトーカさん。完全復活ですねぇ……がく」


 喜ぶアタシに、疲労困憊で倒れるアイドルさんと四男オジサンとおねーさん。


「そんじゃアタシはコトネの所に戻ってからエルドラドに行ってくるわ。アンタ達は自分で帰還アイテム使って帰ってね」

「次会ったらバケツかぶせるぞがきんちょ! おぼえてろー!」

「元気なのはよろしいのですが、些か礼節にかけるのがトーカ殿の欠点ですな」

「人を道具のように使って見下すような目で、あのメスガキ笑顔。100億点満点です!」


 結婚アビリティを使ってコトネの元に帰還するアタシ。去り際にいろいろ言われたけど、聞こえないふりをした。っていうかバケツって何よ? ……考えた瞬間に脳が真っ白になりそうになったので、やめた。考えたら多分ヤバい事だ。


 そして待ってもらってたパーティを連れてエルドラドに向かうアタシ。パーティは天騎士のおにーさんと夜使いの鬼ドクロ。そんでもって斧戦士ちゃん。それぞれ火力特化、即死使い、スピード戦士ってカンジね。


 エルドラドは森フィールドのダンジョン。金色の武器で武装した仮面部族が襲い掛かってきたり、ゴールデンと名のつく動物が襲い掛かってきたり。それだけならレベルをあげれて物理で殴るだけでいいんだけど、


「あ。そこから槍が飛んでくるから気を付けて。その角に落とし穴。丸太が脇からくるから飛ばされないようにして」

「なんという絶妙な罠! これが黄金郷を阻む者達の砦という事か!」

「黄金の衣を纏いし戦士たち。それぞれが何たる手練れか。光速でこぶしを放たぬのが救いだな」

「罠の向こうから矢を射ってくるトカ、卑怯ダゾ!」


 とにかく罠がイヤらしい。アタシは罠を全部把握しているからいいんだけど、知らなかったら罠にはまってパーティ分断。各個撃破されるのがオチである。気付いていても、仮面部族は安全圏から攻撃してくるのでウザったい。


「安全が確保できた? じゃあ進むわよ。次はあそこの木まで移動かな。HP高い戦士系ばかりだから、多少の罠は踏み抜いていくわよ」

「確かに貴方の剣になると誓ったが……これは少し違う気がする!」

「騎士に二言はなかろう。屍は拾うゆえに死なぬ程度に奮起するがいい。貴殿が倒れれば次はワシだろうしなぁ……」

「突撃したいのにできないトカ、イライラするゾ!」


 とにかく罠に足止めされるのがこのエルドラド。そこをアタシの知識でカバーして、連れてきた人たちには戦ってもらう。思うように進まなかったりして大変だろうけど、まあそう言うダンジョンだ。


 なお、言うまでもなくアタシは指示を出す役。シバルバーほどじゃないけど、ここのレベルのモンスター相手だとアタシは即やられるし。なんで肉壁……頼りがいのある戦士が必要なのだ。


「よーし、ここに枠ゴールデンスパイダーの『黄金糸』を採取するわよ。数は400個! ドロップ率が10%だから大体4000匹倒す計算ね。罠の位置に気を付けて狩ってちょうだい」

「これも騎士の務め……! 剣を捧げた者の笑顔のために、身を削るが騎士……!」

「ふ、推しの新衣装の為に戦う。そう思えば悪くもあるまい。課金で済ませれるならそうしたいがな」

「毒沼トラップがなけレバ、アイツラ倒せるノ二!」


 天騎士おにーさんと鬼ドクロと斧戦士ちゃんは、そんな気合いのこもった声と共に戦い始める。いろいろ不満があるような気もするけど、気のせい気のせい。アタシの為にがんばれ、がんばれ♡


 こっちは運要素は低く、数を狩ればどうにかなる。魔物殲滅能力に長けたパーティなので、ゴールデンスパイダーがいい感じで沸いてくれればすぐに終わるだろう。戦い続けること8時間――


「よーし、400個目ゲット! 帰るわよー! アンタ達も自前のアイテムで帰ってねー」

「騎士は不満を言わない……心に留めるのが騎士たる存在……!」

「なんという暴君。しかしそれがいい」

「トーカ、借り1ダゾ! あとで返してもらうからナ!」

 

 そして結婚アビリティを使ってエルドラドから帰還するアタシ。ううん、高レベルの人達の協力があったおかげで想像以上にアイテムがゲットできたわ。


 ――後にコトネがみんなに謝って回ったらしいけど、気にしすぎよ。

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