23:メスガキは皆と話をする
草原に並ぶ大量のテント。その数は確実に50は超える。
「なんだってこんなに人が来てるのよ!」
「トーカさんとコトネさんの結婚式ですからね。そりゃ来ますよ」
「だからその結婚式自体はあくまで挑発の為であって……その、本当に結婚するわけじゃ……!」
何度も繰り返すが、この結婚式はあくまでじじいに対抗するためにアタシが『箔』を得るためのモノだ。そして王という立場に立たないと、あのじじいを負かしても負けを認めないからに過ぎない。
当然その辺の事情は知っているはずだ。いくら何でも子供で女性同士が結婚とかありえない。その辺を『王様がこう決めたからOK!』という理論でクリアしているとはいえ、無理やりにもほどがある。
「あのじじいを倒したら王様はおしまい。レベルだってまだ全然上がってないんだからね」
「その辺りはいつものトーカさんで安心しました」
アタシの言葉にロリコンおねーさんはうんうんと頷いた。
「そういうわけであくまでフェイク。ごっこ。真似事の結婚式なの。だからこんなに人が集まる必要なんてないの。あくまで格好だけなんだから、それこそ黙って適当にやればいいのに」
「そうはいきません。黙ってそんなことされたら本気で怒ります」
アタシの言葉に、少し怒気を込めた口調でおねーさんが言葉を返した。
「たとえ嘘、たとえ仮とはいえ、ワタシ達がお二人の幸せを祝いたい気持ちは嘘ではありません。それを蔑ろにされるのは腹が立ちます」
「そういうわけじゃないんだけど」
「分かっていますとも。ですがここに集まった方々は皆、同じ気持ちです。事情を知りながら、それでもお二人に幸せになってほしいと集まったのです。それを理解してください」
「その通りですぞ、トーカ殿。吾輩を含め、トーカ殿に救われた者達は皆祝福しております」
おねーさんの言葉を継ぐように、太い男の声がかけられる。四男オジサンだ。ゴルド……なんとかさん。アホ皇帝が悪魔と契約して暴れたおかげで街を失い、今はヤーシャ近くで街を作っているとか。
「可能であればオルストシュタインから避難した皆様全員で来たかったのですが」
「やめて。どれだけ人がいるのよ」
「復興も最中のため全員参加と言うわけにもいかず、代表者だけでの参列となりました。吾輩と元教会司祭達のみとなりました」
教会司祭と聞いて少し陰鬱な表情になるアタシ。確か身長体重とか武器マニアとかおっぱい教とかそんなんだったよね?
「参列できなかった方々からはお祝いの言葉を預かっています」
「いやだから、何度も言うけど本当に結婚するわけじゃないからね」
「はい。事情は全て理解しております。ですがそちらの貴婦人のおっしゃる通り、我々がトーカ殿とコトネ殿を祝いたいのです。未来ある子供に幸せになってほしいと大人が願う事をお許しください」
言って大きな体を傾けて一礼するオジサン。……むぅ、そこまでされると怒るのが馬鹿みたいだ。
「そ。勝手にしたら? 言っとくけど交通費なんか払わないからね」
「いえすいえす。勝手にするよー! 今日の主役は二人だけど、宴を彩る歌と踊り! 友人代表を妖精と共に華麗に決めてみせるよ。今日のアミーちゃんは普段の三倍カワユイのさ。ぶいぶい!」
「またうるさいのが来たわね……。アイドルってヒマなの?」
両手でピースしながら現れたのはアイドルさんだ。ムジーク復興のためにチャリティコンサートをやってるとか聞いたけど、実は人気ないから弾かれたとか?
「んなわけねーよ。スケジュール無理やり調整して時間作ったんだよ。いろいろ頭下げて大変だったんだからな、がきんちょ。結婚するのを三日前に言うとかバカなの? 計画性ないの?」
ヒマ、の一言に反応するアイドルさん。アタシのおでこに拳を当てて、ぐりぐりやってくる。キャラづくりをしていない素の声だ。
「なんでそこまでするのよ。そっちの方がバカじゃないの?」
「そこまでする価値があるからやったんだよ。キミとあの子の門出を祝わなくて、何がアイドルだ。アイドルの先輩として、一緒に戦った友人として、そんな不義理だ出来るかってーの!」
びしっ、とアタシを指さし叫ぶアイドルさん。その背後にはムジークで出会ったジプシーさんと音楽ギルド長のメガネ女がいる。
「ええ。苦労したわ。おかげで興行にかなり穴が開いたものね」
「ですが、どうにか間に合いました。ご結婚おめでとうございます」
メガネ女は愚痴りながらもアタシに笑顔を向け、ジプシーさんも頭を下げる。大人な女性の笑顔だ。
「トーカ! コトネと結婚するノカ! やったナ!」
そして子供の登場だ。斧戦士ちゃんことニダウィ。遠慮なく空気読まずにバンバンとアタシの背中を叩く。
「だからこの結婚は別に本当の結婚じゃなくて」
「? ウソの結婚なノカ?」
あ。コイツ事情をあまり理解してないわね。ため息をついて説明しようとして、
「でもコトネと結婚したいっていうのは本当なんだロ?」
「…………っ」
いきなりクリティカルなことを言われて言葉が止まった。
「いきなり何言うのよ!?」
「ニセだろうがホントウだろうが、トーカがコトネ以外と一緒になりたいなんて思わないカラナ!」
「うああああああああ、この、この! 見当違いな勘違いでわけわかんないこと言ってんじゃないわよ!」
「イタイイタイ! 照れ隠しはヤメロ!」
「照れてない! 照れてないんだからねー!」
斧戦士ちゃんをヘッドロックして拳をぐりぐりする。自分でも顔が赤くなっているのはわかっている。なんでこの子にまでバレバレなのよ!? キャラ的にもジョブ的にも頭良くないはずなのに!
「ついに己の気持ちを認めたかと思いきや、そこは変わらぬか。それもまたよし。素直になれない少女にも、萌えるモノが在る」
そしてもっと頭悪くてわけわかんない奴がのっそりやってくる。ドクロヘルムに和服という見るからに怪しさ大爆発。鬼ドクロだ。……そう言えば本名聞いたことないわよね、コイツから。うん、だから知らなくて当然。
「なによ、アンタも百合とかその辺から養分を得る植物なの? 中二病とロリコンて共通点でもあるの?」
「烙印をつけて他人を定義すること自体が愚行だな。しかしそれも子の宴に免じて許そう。
一つを極めようよする者は常道から外れゆく。万人に理解などされずとも、求道者は突き進む。そういう事だ」
「どういう事よ?」
「修羅道など知らずとも幸せになれる。婚姻もまたその一つ。夜を歩く者からの祝福など不要であろうが、その歩みを見守らせてほしい」
「相変わらずわけわかんないわね。適当言ってるだけでしょ、アンタ。あとこの結婚は……あー、もう。好きにしなさい」
事情を説明しようとして、めんどくさいから諦めるアタシ。言ってもどうせいろいろ勘違いして勝手なことを言うのだ。
「然り。推しが結婚する程度で愛が覚めるなど三流。二流ならばその愛を認めて祝福し、一流ならその式典に参加し身銭を切り貢献する。愛憎逆転する者は地獄に堕ちるべし。
グッズを買い、SNSで宣伝し、ブログや動画で広め、その汗一つ一つが推しへの間と感じるのだ。これは義務ではない。愛ゆえの行動。汝欲するなら、まず捧げよ!」
なんか感極まったかのように胸に手を当てて叫ぶ鬼ドクロ。ちょっと怖い。なんか変なシューキョーはいってない?
「アサギリ・トーカ」
呆れるような顔をしているアタシに声をかけてきたのは、天騎士のおにーさんだ。いつもの無駄に元気な叫びではなく、静かで何かを吹っ切ったような声。
「イザヨイ・コトネとの結婚おめでとう。心から祝福する。
俺は変わらず、貴方の剣であることを誓おう」
膝をつき、そう言い放つ。
その姿にアタシは何も言えずにいると、おにーさんは立ち上がって背を向けて歩いていく。え、そんだけ? 他の奴らみたいにアタシの事をからかうとかするかと思ったけど、そういうのはないの?
「この幼女は罪作りですからねぇ」
「ままならないのも、人生です」
「なるなる。そういう事なのね。男だよ。うんうん」
「黙するのも、愛。姫を守るために役割に徹する騎士もまた、男というものよ」
おねーさんと四男オジサンとアイドルさんと鬼ドクロが何かを理解したように頷いていた。どーいう事なのよ?
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