28:メスガキは蚊帳の外
休憩と作戦を重ねておおよそ2時間後、アタシ達は再びエンジェルナイトを突破してジプシーさんと厨二悪魔の元に戻ってきた。いろいろぶっつけ本番なところもあるけど、これ以上は待ってられないわ。
アイドルさんと鬼ドクロもエンジェルナイトとの戦いに慣れたもので、躓くことはない。なんの問題なく戻ってこれたわけだけど……不満がある。
「あたしにばっかり攻撃が集中してるのは何なのよ、もー!」
「推測ですけど、アンカーを攻撃した影響と思います。かなり怒りの言葉を投げかけられましたし」
エンジェルナイトはアタシを見るや否や思いっきり攻撃を仕掛けてきた。アタシは聖属性攻撃を完全に無力化できるのに、それでもかまわずにだ。おかげでカウンター戦術のアイドルさんがほぼ空気。
「別に別に。アミーちゃんは魔眼で追撃攻撃できるから問題ナッシング! むしろMP温存できてよきよき!」
「攻撃された方が殲滅速度速いでしょうがアンタは」
「まあねまあね。でもアミーちゃんのヘイトよりもキミに向かうわけだし。よくわかんないけバグ技の産物だし普通じゃないってことだよね。ガンバガンバ!」
確かに一理あるんだけど、目を血走らせて唾飛ばして攻撃してくるやつらとかマジ鬱陶しいんだけど。
「ジプシーさんに憑りついたヤツがアタシを恨んでるんだろうけど。でもさすがに酷くない?」
召喚したモンスターは召喚主にコントロールされる。そいつがアタシを憎んでいるのなら、指示通りに襲うだろう。厨二悪魔がエンジェルナイトをコントロールできなかったのも召喚されたものだからか。ちょっと心の根底にある者をつついただけで怒るとか大人げないわよ。
アンカーと言えば、エンジェルナイトにもアンカーはあった。しかも召喚した司祭と同じアンカーだ。つまり、天使と召喚した奴は同じ精神ってことか。同じ穴のなんとかってことね。
ともあれアタシに集中攻撃してくるおかげでアタシだけMPとか精神力とか削られた状態だ。レベルが低いアタシがリソースを削って本命にたどり着いた、っていう意味では最良の結果なんだろうけど、なんかムカつく。
「ふ。こんなことでお兄ちゃんのハーレム計画を阻めたなんて思うでないぞ! もうすぐ杭が解除できるからのぅ。そうなればこの町全てを支配してくれようぞ。
妾が手助けすればこのデミナルト空間も広げることができる。いずれ世界中もお兄ちゃんのハーレム傘下になるのじゃ!」
「やだなぁ、こんな世界の危機」
こいつらをぶつければあのアホ皇帝をどうにかしてくれるかもしれないと思いながら、でもこいつらが勝利した世界はやだという生理的嫌悪が勝った。
「……最終確認だけど、本当にアイツどうにかできるの?」
アタシは厨二悪魔を指さし、アイドルさんに問う。
あいつはアホだけど、悪魔だ。魔王を生み出し、それをアホ強化させたのだ。レベル80のエンジェルナイトが殴っても傷つかないのである。レベル云々を無視してダメージを与えられないのが悪魔。アイドルさんもそれを理解しているはずなのに。
「おけおけ。問題ないよ。何度も言うけど、キミは見ちゃダメだからね。アミーちゃんと約束約束!」
そしてその方法を聞こうとしても、教えてくれないのだ。しかもそれを見るなとまで言われた。アタシ以外の人間には教えたみたいだけど、その後で一様にアタシは知らない方がいいというのである。
『トーカさんは知らなくていいし、見ない方がいいです』
『闇の同胞よ。知らぬ方がいい事もある。全知全能の神も知ることで選択肢を失うこともある。知らぬことがよき未来を生み出すこともあるのだ』
『あい。これは貴方は知らない方がいいでち』
とか言って教えてくれなかったのである。見るな、とまで言われたし。
「トーカさんはアンカーの方に集中してください。そちらを見ないように私がサポートしますので」
と、聖女ちゃんが壁になるほどである。
「なんださっきのメスガキか。謝罪する覚悟は決めたか? 今ならバニーガール衣装は選ばせてやってもいいぞ。黒ウサミミ赤ボディも捨てがたいが、白一色もまた良し。胸は小さいから背中丸明で尻尾とお尻フリフリポーズだな。涙目になって許しを請う表情をするならまあ許してやらんでもない」
そんなわけでアタシはジプシーさんとなんかが憑依したのを見るんだけど……なんかこっちも見たくないわよね。
「うるさいわね。何でもかんでもあんたの思い通りになるとか思ってんじゃないわよ。チートとかバグとかルール無視していい気になってるとか恥ずかしくないの? 真面目に努力するとかしたことないとか人として終わってない?」
適当に辺りをつけて罵ってみる。最後のアンカーは未だにわからないけど、そういうのは無視してチート使う奴に言いたいことだ。
「ままままま、真面目に努力するとかザコのすることなんだよ! おおお、俺は選ばれた人間だからいいんだよ! そもそもチートの何が悪いって言うんだ! バグだって見逃すやつが悪いんだよ! ラノベだってみんなチート使って強くなってるじゃないか! 俺がそれを使って何が悪い!」
鼻で笑った後に大声でまくしたてられた。アンカーじゃないみたいだけど、そこそこ気にして居たっぽいわね。
とかやってる間にもアイドルさんが厨二悪魔に近づいて何かしてるみたい。聖女ちゃんが壁になって何も見えないけど。見ようとしたら手で遮ったりしたんで、諦める。ただ声だけはばっちり聞こえてきたわ。
「お、なんじゃそれは? バケ……バ……おい、やめろ。それを近づけるな? なんかよくわからんが、それはなんかまずい気がするのじゃ!」
「うんうん。あのがきんちょと同じで短期間で歌唱力が上がったってことはこっちと同じことしたんだろうね。デミナルト空間? それを使った時間圧縮訓練。これを被った音痴の矯正方法。でもこんな副作用があるなんて思いもしなかったかな。残念残念」
「悪魔よ、汝も精神を持つのなら当然恐怖も感じるはず。肉体の強さは無限に上昇すれど、正気はただ削られるのみ。如何なる存在も恐怖には勝てぬと知るがよい」
「アンジェラ……さすがにメンタルケアはちまちゅので、今は大人しくしてくだちゃい」
は? なにしてんの? 気になるけど聖女ちゃんが見せてくれない。
「ちょ、それ近づけるのやめてくれ! あわわわわわわ! にょおおおおおおおお! くらい、せまい、こわい! らめらめらめえええええええええ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! わらわがわるかったのじゃ! あうあうあうあうあうあうあうあうあう………おかあさまおかあさまおかあさまあああああああああああ!」
ものすごい絶叫音。え。なんなの!? 何が起きてるの!? しばらくごもった叫びが聞こえる。たとえるなら、ヘルメットを被せられた状態で叫んでいるような、そんな声。
「あー……やりすぎたかな。ちょっとかわいそうになってきた」
「同意だ。しかしこれが最適なのは間違いない」
「アンジェラ……安らかに眠るでち」
そして厨二悪魔が静かになり、地面に倒れた。なんか白目向いてぴくぴく痙攣してる。それを囲むアイドルさんと鬼ドクロとかみちゃまは沈痛な声を出してた。アイドルさんが青い容器を持ってるような気がしたけど、すぐに<収容魔法>内に戻したのでわからない。
「……ねえ、本当に何をしたの?」
「トーカさんは知らなくていいです。それよりもアンカーをお願いします」
ものすごく気になるけど、完全拒絶とばかりに聖女ちゃんは首を横に振った。
……完全に蚊帳の外なのはアレだけど、これを追求しちゃいけない気がするわ。何故か高まる心臓の音に従うように、アタシは目の前に意識を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます