27:メスガキは作戦タイム

 エンジェルナイトの邪魔をかいくぐって避難所にたどり着くアタシ達。かみちゃまの言葉が正しいのなら、2時間は猶予がある。削られたHPやMPといったリソースをポーションとかお菓子で回復させた後に、


「もう逃げよっか」


 アタシは一番いい方法を提案した。あんなのに付き合ってらんないし、逃げ出したい。アタシ何一つ悪いことしてないのに何なのよこの仕打ちは。


「本気かよ、おい」

「ふ、場を和ます冗談としては悪くない。だがそれができぬことなど理解しているはずだろうに」

「そうですね。アムさん……に憑りついた人はトーカさんに強い恨みを持っています。アンジェラが手を貸しているのだから、何処に逃げても追ってこれるでしょう」


 アタシの言葉に一斉にみんなの声が返ってくる。……鬼ドクロの指摘が正しいのは認めたくないけど、アタシが恨まれているのは事実だ。逃げるにも逃げられない。ほーんと、美人薄命ね!


「そんなこと言ったってわかんないことだらけよ。バグ技使ってるのは間違いなさそうだけど、なんであのジプシーさんがあそこにいるのかとかわけわかんないし」


 状況から察するに、あのジプシーさんがバグ技を使ったという事だろう。


『いいえ。お願いしたのは『ネズミの尻尾』です』

『伝説を語る為……とだけ言っておきましょう。それでは』


 ゴーストミュージアムで交わした会話を思い出す。


 バグ技を使うには512個にまとまったアイテムが必要だ。大漁に収取可能な『ネズミの尻尾』を合計1024個手に入れて二分割したのだろう。ネズミの尻尾なら時間はかかるけど集められない数じゃない。


「それでMPポーションを使ってバグ技を使ったとして……そもそもシェヘラザードにそこまでMP必要なアビリティってなかったわよね? そりゃリソースはあるに越したことはないけど……そもそもステータスは司祭になってたわよね? あれ?」


 あの時覗いたステータス。名前はアムとかだったけど、ジョブは司祭だったしアビリティも司祭のモノだった。……そう言えばアンカーも見えたけど、あのジプシーさんらしくないアンカーだった。どっちかっていうと口の悪い天使に似てる……っていうか全く同じだったわよね?


「アミーさん、アムさんですがどういうお方なのでしょうか? 私は一度ゴーストミュージアムで出会っただけで、トーカさんの話を聞いただけしか知りません。

 何かに悩んでいたとか、そう言ったことはなかったでしょうか?」


 アタシがうんうん悩んでいる横で、聖女ちゃんがアイドルさんに質問していた。


「そうよ。あのジプシーさん何者なの? アイドル戦線に出てたってことしか知らないし」


 アタシの言葉に、アイドルさんは頬をかきながら答える。


「あーあー。アムちゃんはアイドルじゃないんだ。ただの語り部で、実況とかレポーター的な役割なんだよ。うんうん」

「は?」

「然り。かの語り部はアイドルに非ず。アイドルの戦いを盛り上げるための言の葉の使い手。その献身により大会を盛り上げる存在だ」


 アイドルさんと鬼ドクロの答えに、アタシはジプシーさんの事を思い出す。そう言えば、ジプシーさんがステージで歌ってた記憶はない。忙しくて他人の事を見てる余裕はなかったけど、あの人はアタシにいろんなアイドルとの関わりを教えてくれただけだ。


「そうそう。アムちゃんは音楽ギルドに所属こそしてるけど、アイドルじゃない。最初はアイドルを目指していたらしいけど、デビューできずに一線を引いたんだ。自分にはサポートの方が性に合ってる、って言ってたけど……。悔しくはあったと思うよ。辛い辛い」


 シェヘラザードは音楽系ジョブではない。言葉を使ったサポーターだ。バステを振りまき、言葉を聞いた人を鼓舞するジョブ。端的に言えば、サポート職。聖女や司祭みたいな回復役として必須ではないけど、いると便利なジョブ。


 逆に言えば、必須ではないジョブ。戦闘でも、そしてアイドルでもその立場。


「もしかしてそれで悩んでたんじゃないの? 主役になりたーいとか。アイドルになりたーいとか。その辺りを厨二悪魔に利用されたとか」


 とかばっかりだけど、ありえない話じゃない気がする。


「ないない。アムちゃんは本当に語り部を楽しんでいたもん。そりゃそういう気持ちはあったかもしれないけど、ここ数日見た感じではそんなのはなかったかな? アミーちゃんが気付いてなかっただけかもだけど。ないない」


 アタシの案を否定するアイドルさん。アタシよりジプシーさんを知っている人の意見だ。あてずっぽうのアタシよりも正確だろう。


「それにアンジェラの態度はあきらかに異常です。少なくともアンジェラはアムさんを操っている人に利用されています。悪魔同士で同士討ち、と言うわけでもなさそうですし」

「なのよねぇ……」


 ついでとばかりに聖女ちゃんも指摘する。その意見には同意だ。自分で言っておいてなんだけど、厨二悪魔も利用されているようにしか見えなかった。アホ悪魔が主犯と言うには無理がある。


「そうそう。どっちかっていうとアムちゃんの懸念はここの所その悪魔の事だったね。おろおろして青い顔してたかと思うと、少したってからネズミの尻尾を取りに行きましょうって言ってきたし。きたしきたし」


 そのくだりでネズミの尻尾を取りに来て、アタシ達と出会ったわけだ。


「……厨二悪魔を見て、おろおろしてたってこと?」

「我が同胞からすれば悪魔など怖れるに値せぬだろうが、力なき者からすれば悪魔の存在は脅威。幾度となく歴史に介入し、人類の存亡を揺るがしてきたのだからな。物語を多く知る語り部が恐怖するのも止む無き事よ」


 あの厨二悪魔を見て怯えるとかアタシの感覚的にはあり得ないのだけど、鬼ドクロが言うのが一般的な感覚なのだろう。……こいつに一般論を言われるのは、ちょっと屈辱だけど!


「……つまり、アムさんはアンジェラの存在に怯えてネズミの尻尾を集め、そのバグ技? に手を出したという事でしょうか?」

「かもかも? 伝承とかに詳しいアムちゃんだから、ダメ元でその辺に頼ったのかも。音楽ギルドがその場所を示してるって読み解いてそこでポーションを使って。……で、なんでか分からないけどああなった? なんでなんで?」

「分かんないけど、そこにいたなんかと結びついちゃったんでしょ。それがバグ技使った司祭なんだろうけど」


 バグ技を使ってこの世界からBANされた司祭。それがあの場所に留まっていて、それがあのジプシーさんがバグ技の条件を満たしたから復活した。……なんでか知らないけど、厨二悪魔もそれに巻き込まれてた。


 原因とかはともかく、状況はそれで間違いはなさそうだ。


 そして憑りついている何かをどうにかするという事を、アタシは少し前にやったことがある。メイスおててとか変態処女馬ユニコーンオッサンとかだ。


「とりあえず憑りついてるんだから、アンカーを攻撃すれば解けるんじゃない? どうなのかみちゃま?」

「む……。ちょれは……」


 専門家(?)のかみちゃまに意見を聞くと、かなり言いよどんだ後で首を縦に振った。


「たちかにアンカーを媒体に繋がってる可能性は高いでちゅね。リーンたちの『契約』ほど強固に結びついているわけではないので、憑依元と憑依されている人間に共通するアンカーを揺さぶれば解除はできまちゅ。

 ただ……同じアンカーを持つ以上は再び憑依ちゃれる可能性は捨てきれまちぇん。一度結びついた『縁』は断ち切れまちぇんから、アンカーを変えない限りはまた憑りつかれるでちょう」

「つまりどういうこと?」

「アムさんがどうして憑依されたかの心の原因を探って、それを変えない限りはまた同じことが起きるという事です。アンカーはトーカさんとシュトレイン様にしか見えませんから、お任せするしかありません」


 アタシの問いかけに応える聖女ちゃん。あー、めんどくさいわね。


「尊き哉尊き哉。シュトレインの問いに間髪入れずに聖女に問い、それを予測していたように答えるその関係性。互いの信頼以上の関係が見て取れる。尊きでご飯が進むとはまさにこのことよ」

「ごはんはないかな。でもまあ、仲良きことはいい事だね」


 アタシ達のやり取りを見て、鬼ドクロとアイドルさんがそんなことを言い合っていた。相変わらず何言ってんのかよくわからない。


「どうするかは決まったけど、どっちにしてもアホ悪魔が厄介なのよね。絶対なんかしてくるだろうし。おにいちゃんとかマジキモ」


 アタシがアンカーを攻撃しようとすれば、あの厨二悪魔は絶対邪魔してくるだろう。そして現状、悪魔に対抗する手段はない。


「あーあー。聞きたいんだけど、前にアンちゃんと出会った時は歌とか歌ってなかったんだよね? アイドル活動してたとか、そういうキャラ性はまるでなかった? どうどう?」


 悩むアタシに問いかけてくるアイドルさん。


「なかったわよ。厨二成分は変わんないから病みカワとかその辺の趣味はあったけど、歌とかアイドルとかはなかったわ。アイドル戦線に出てたのもパッションエナジー? そういうのが欲しかっただけみたいだし」

「ふむふむ。それならもしかしたらだけど、悪魔封じはできるかもしれないよ。確証はないけど、イケるイケる!」


 ピースサインをするアイドルさん。信用していいのかどうか。


「本当に大丈夫? 言っとくけど、悪魔って向こうから殴ってくることはないけどこっちから殴ってもダメージとか与えられないのよ」

「知ってる知ってる。リーンの時と同じだよね。でもその場にいてこっちがやることに反応するってわけだし何とかなるなる!」


 不安に問うアタシの質問に、妙に自信満々な答えが返ってきた。


 じゃあ任せるか。失敗してもアタシが痛い目見るわけじゃないし。

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