26:メスガキはチートに憤る
冷静に考えればすぐにわかることだけど――
MPポーションがバグで消えないという事は、それを飲み続ければMPが尽きることはないわけである。
そのまんまなんだけど、要するに向こうのリソースは尽きることはない。加えて言えば【天使兵召喚】を使えるという事はジョブは司祭だ。回復魔法系ジョブも習得していてもおかしくない。ダメージを与えてもすぐに回復する。
そして厨二悪魔だ。なんでコイツがこうなっているのかは全く分からないけど、お兄ちゃんを守るとか言って思い切り悪魔の力を使ってサポートしている。人間に攻撃はできないんだけど、何とか空間を使ってめんどくさい事をしてくる。
無限リソース。こっちのルール外のサポート。チート行為のオンパレードよ。
「勝ち目ないわ。撤退!」
アタシは言ってきた道を走り抜ける。あんなの無理無理! アタシの言葉に聖女ちゃんを始めとしてアイドルさんと鬼ドクロも続く。
「ちょっとちょっと!? ここで逃げるのはなくない!? なんて言うか妄言振りまくアホっぽいヤツだったじゃない! 逃げるの悔しくない!? まじまじ!?」
「マジ逃げよ。アタシの戦術はデータ重視なの。データのない相手には挑まない。これ鉄則!」
アイドルさんの言葉に振り向かずに返すアタシ。確かにアホっぽいけど状況はアタシ達に不利だ。妄言ウザったいけど、お兄ちゃんとかキモイけど。とにかく今ここで戦うのは無理!
「そう言いながら、幾度も薄氷を踏む戦いを乗り越えてきた我が闇の同胞だ。その口ぶりからするに、勝利の糸口は掴んだと見た。ワシにも案があるがあえてその策に――」
「だからアンタと同胞とか絶対ないから。ついでに言うと糸口なんてなんも掴んでないわよ。案があるなら聞きたいぐらいだし」
「――乗ると……ふ、我が案はまだ話す時ではない。だが貴公ならいつかはたどり着くだろう。それを待つのも先達の役割よ」
鬼ドクロの戯言を無視し、走るアタシ達。案なんてないくせに、なんて悪態付く余裕はない。音楽ギルドを出たその先に、
「ふ、瞬間転移は主人公の特権だからな。貴様らのようなパンピーとは違うのだよ」
「お兄ちゃんカッコいい! お兄ちゃんクール! お兄ちゃん……えーと、なんかすごい!」
空間が揺れたかと思うと、ジプシーさんと厨二悪魔が目の前に現れた。あとジプシーさんに憑りついているヤツも。とりあえず厨二悪魔の語彙力の無さは一旦置いておく。実際、そんな余裕はない。
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★アム=ナディム
ジョブ:司祭
Lv:99
HP:99999/99999
MP:99999/99999
筋力:999
耐久:999
魔力:999
抵抗:999
敏捷:999
幸運:999
★装備
なし
★ジョブスキル(スキルポイント:9999)
【信仰】:Lv10
【天使降臨】:Lv10
【聖言】:Lv10
【聖魔法】:Lv10
【聖水作製】:Lv10
★アビリティ
【天の囁き】
【静謐な祈り】
【清き詠唱】
【念じる想い】
【奇跡の言葉】
【御使いの言葉】
【天使の祝福】
【守護天使】
【天使兵召喚】
【聖戦発動】
【福音】
【私は門】
【主の翼】
【赦しの言】
【隣人を愛せよ】
【ヒーリング】
【天使の盾】
【神の鉄槌】
【主、憐れめよ】
【クルセイド】
【清めの水】
【聖水強化】
【マグニフィケーション】
【聖なる泉】
【水の物語】
★トロフィー
なし
アンカー
嗜好:他人を罵る
矜持:天に選ばれし者
??:???
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なんなのよ、このステータス!? あからさまなチートじゃないのー! バグもチートも使うとかサイテーじゃない!
これが元からなのか厨二悪魔が介入した結果なのかはともかく、見た瞬間にズルしたの見え見えだ。アイテム増殖バグもそうだけど、存在自体が反則よ。スペック差も含めて、まともに戦う気が起きないわ。
だけど逃げても追いかけてくる。アタシ達を逃がすつもりはないときた。余裕ぶって攻撃を仕掛けてこないけど、あのステータスで攻撃されたらアタシはもちろんアイドルさんでも回避できないわ。
「主人公とかお笑いよね。ズルしていい気になってるだけじゃない。ぼくのかんがえたさいきょうのきゃらくたーとか、鼻で笑うわ。妄想がかなっておめでとー。努力とか無しで強くなって嬉しいの?」
だからって頭下げて許してもらうとかアタシのキャラじゃない。むっかつくんで思ったことを素直に言わせてもらう。
「だだだだだだ黙れ! 努力なんて無駄なんだよ! 俺はもうモブじゃなくなったんだ! 強くなったんだ! お前達とは違うんだ!」
そしたらジプシーさんの背後にいるヤツから顔を真っ赤にして反応された。うわ、煽り耐性ゼロじゃん。
「ええええ、選ばれた主人公にそんな口をきいて、楽に終われると思うなよ! おおおおお前の未来は散々だからな!
おおおお、俺に無様に負けた後に『なんで勝てないの!?』って最後まで自分の愚かさが理解できず、逆恨みで挑もうとして魔物と融合しようとして乗っ取られて、誰にも同情されないまま死んでいくんだからな!」
興奮していろいろろれつが回らない幽霊。うわぁ、なんか逆に可哀そうになってくるぐらいに動揺してるわ。
とはいえ、このままだと本当に負けかねない。少なくとも負ける理由は明白だから『なんで勝てないの』とかは言わないけど。
むしろ何しても勝てない。攻撃アビリティが少ない司祭だけど、単純なスペックだけで圧倒できる。素手で殴られるだけでオーバーキルされるわ。
「そうじゃ! オマエなんかお兄ちゃんにズタボロに負けてしまえばいいんじゃ!」
加えて厨二悪魔だ。アホだけどコイツもスペック高い。というか別次元でめんどくさい。アタシ達とは違う次元で物事を動かすのだから厄介だ。アタシ達が必死にHP削っている間に最大HPを改造して増やすとかやりかねないし、そもそもこいつをどうにかしないと空間移動とやらをされて攻撃が当たらない。
「ねえかみちゃま。あのお兄ちゃんお兄ちゃんってうるさいヤツ、どうにかならない?」
「アンジェラにかけられた洗脳はかなり強いものでち。バグ技とかが正しいなら、強度はお母様レベルとみてもいいでちょうね。仕掛けた本体を消すしかないでち。
空間干渉……いったん消えて回避するのは止められちょうにありまちぇんが、座標移動……あの場所に留めるだけならできまちゅ。でも2時間が限界でち」
「オッケー。移動できなくなるだけでも大分話が変わるわ」
小声でかみちゃまと相談するアタシ。とにかく今は仕切り直すための時間が欲しい。それでどうにかなるかと言われると、全然見通しは立たないけど。
「だだだだ、だが俺は慈悲深いからな。土下座して謝るなら許してやらんでもないぞ。敵が改心して仲間になるのもお約束だからな。もっとも許してもらうためには謝罪だけではなく媚びも必要だな。
具体的にはロリバニー。薄い胸を気にしながらセクシーポーズと指でハートマークを作り、『おにいちゃま、ちゅきちゅき♡』と言うのだ。ポイントはくそ生意気貧乳メスガキが舌足らずに媚びること。当然『ちゃま』も舌足らず。語尾は若干上げ上げで。ハートマークははっきりわかるように。愛情表現を明確にすることで俺に完堕ちしたことを示すのだ。堕ちポーズがダブルピースではなくハートマークなのはギャップ萌えをしめしている。口の悪いキャラが主人公のより改心して愛に目覚める。180度反転したからこそ、これまで散々バカにしてきた行為に対する許しが得られるのだ。同時に俺がすっきりするね! それまでの所業を思い出して、なんだコイツって笑えるね!」
なんか早口でいろいろ喋ってる幽霊をガン無視するアタシ。襲ってこないなら今のうちに逃げるだけよ。
「改めて逃げるわよ。かみちゃまお願い!」
「あい。
生命の母シュトレインの名において、空間に楔を穿たん。オー・シュトレイン。バルバ、デミナルト。ケイオス・ハーフムーン」
かみちゃまの言葉と同時、空から厨二悪魔とジプシーさんの周囲に6本の杭が降ってくる。それが二人+幽霊の周囲を囲むように地面に刺さり、杭の中に淡い光が広がって厨二悪魔を包み込んだ。
「これでアンジェラの空間干渉は封じまちた。でも長くはもちまちぇんよ!」
「分かってるわ。一旦避難所に戻るわよ!」
追ってこれないならそれでいい。アタシ達は避難所に向かって走り出す。
猶予は二時間。その間に対策をたてないとあのキモいのにざまあされるとか、アタシってホント不幸よね!
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