25:メスガキは呆れる

 なんかよく覚えてない理由で脱力したアタシ。それから復活して音楽ギルドに向かうことになった。エンジェルナイトの群れを倒しながら音楽ギルドに向かう。向かっているのはアタシと聖女ちゃんとアイドルさんと鬼ドクロ。それ以外は防衛に回ってるわ。


「ああもうああもう! こんだけ倒しても経験点にならないのが悲しいよね。召喚された天使だから? 疲れる疲れる!」

「消滅のエフェクトが通常のモンスターと異なるのもそういう事だろうな。跡形もなく消えなければ、自分で倒して経験点とドロップアイテムを得るという永久機関が生まれることになる。βバージョンではありえたかもしれんな」


 倒しても倒しても経験点とドロップ品が少しも入らないことにイラつきながら、アタシ達は進んでいく。アンカーにダメージを与えたこともあり、かなり動きが雑になってきている。っていうか――


「このクソガキ! さっきの言葉を訂正しろコラァ!」

「天使は偉いんだ天使は偉いんだ天使は偉いんだ!」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」


 エンジェルナイトはやたらアタシを狙うようになってきた。アタシが属性防御でダメージ0だと分かっているはずなのに。なのに構わず圏で斬ってきたり聖光を浴びせたりしてる。


「むだむだぁ。聖属性攻撃しかできないアンタ達にダメージ受けるとかありえないのよ。頭悪いの?」

「うるさい黙れ。MPが切れるまで攻撃すればいいだけだ。そんなことも分からないのか頭の悪い子供め」

「世界を守る天使に逆らうなど悪人に違いない。その口の悪さと性格の悪さを矯正してやるからありがたく思え」

「私は正しい私は正しい私は正しい私は正しい私は正しい私は正しい私は正しい私は正しい私は正しい私は正しい! だからお前は間違ってる!」


 なんと言うか、おっそろしいぐらいにアタシに恨みを込めて斬りかかってくる。アイドルさんとか鬼ドクロが攻撃した奴もアタシに向かってくるぐらいだ。


「ちょっとアンタ達! ちゃんとヘイト管理してよ!」


 ヘイト。<フルムーンケイオス>にはヘイトと呼ばれる隠しパラメータがあり、そのパラメータが高い方を優先的に狙う。攻撃を加えた相手はどんどん増えるし、アイドルさんのアビリティでも上がる。要するに、攻撃対象の集中度合いはコントロールできるのだ。


「あれあれ? おっかしぃなぁ。アミーちゃんちゃんと【水の舞】使ってるよ。むしろ最初はこっち来てたのにすぐにそっちに流れるんだよね。不思議不思議?」

「そうですね。後ろで見ている感じですと、アミーさんや攻撃しているトバリさんには一旦向くのですが、トーカさんを見た瞬間にそちらに走っていく感じです」

「天の使いには見過ごせぬ闇の波動を感じたか。止む無き事よ」


 頭を掻くアイドルさんに、頷く聖女ちゃん。ヘイト無視してモンスターが動くなんて……とか思ってたけど、こいつらが召喚されたエンジェルナイトだという事を思い出した。召喚されたモンスターは、召喚したプレイヤーの命令を聞くのだ。


「つまり、アタシの可愛さに興味津々てことね。しょうがないわねー、もー」

「はいはい。そういうのはいいから説明よろよろ」


 ポーズを決めるアタシに呆れるようにアイドルさんがツッコミを入れる。ちょっとぐらいは褒めてくれてもよくない? アタシは気づいたことを説明する。


「よーするに、こいつらは誰かに操られてるのよ。その操ってる人間の思惑通りに動いてるってことね」

「なるなる。つまりその人間は口が悪いがきんちょに怒り心頭って所か。確かに教育しないといけないって思うよね。うんうん」

「口でも勝てず、攻撃も通じず。しかし数で押さえ込む。愚策ではあるが無限の兵があると慢心するなら心理としては納得。生意気なモノを蹂躙したいと思うのは道理よ。SNSでも見れる愚者の炎上殺法か」

「アンカーを攻撃するために必要でちたけど、そもそも普段の行動と言動がありまちゅからね」

「あの、トーカさんは、口が悪いですけど、いい人ですよ……その、擁護できない所も、ありますけど」


 アタシの説明に『あーね』とばかりにうなずくアイドルさんと鬼ドクロとかみちゃま。聖女ちゃんも何とも言えない言葉を返した。アンタら……。


「そのだれかっていうのも多分一人でしょうね。他に誰かいるならこんなバカな事止めるでしょうし。ま、バカばっかりって可能性もあるけど」


 それならそれで、まとめて罵ったら……じゃない、倒したらいいだけだ。ともあれ音楽ギルドに向かうだけ。無駄にアタシを狙うエンジェルナイトの群れを倒しながら、アタシ達は音楽ギルドにやってくる。


「あらあら? 扉が開いてる。施錠し忘れた? 不用心不用心」


 なぜか開いてたギルドの扉。緊急事態だし閉め忘れたのかな? そんなことを思いながら中に入る。ギルドに入ってすぐの部屋。そこにがあった。


「アムちゃん!?」


 最初に目に入ったのは、ジプシーさん。アラビアンな衣装を着た褐色の女性。瞳の焦点はあってなく、顔は少し俯いた状態で止まっている。何かしらのアビリティを使ったのか、巻物を手に両手を広げたポーズで止まっていた。生気はあるが、アイドルさんの言葉に応える様子はない。


 ジプシーさんの少し背後。そこに半透明の何かがいた。少し小太りの僧侶っぽい恰好の男性。その幽霊。そいつは意思があるのか、アタシ達の来訪に合わせて視線を向けてきた。どーやらバリバリ関係者みたいね。


 そして――


「ぬはははははは! お前達、お兄ちゃんのハーレム要員になれー!」


 ………………えーと、厨二悪魔がわけわかんないことを言ってた。お兄ちゃん? まあ、こいつは無視でいいや。どうせ人間に攻撃できないし。


「ロリ聖女! アイドル! ロリ属性がかぶるけど聖女だからヨシ! 可愛いアイドルはツンデレ属性に改造して好感度0からMAXになるまで楽しませてもらうぞ! そこの日本刀ドクロ鎧は……中身が実は美女という設定だな、ヨシ!」


 そしてもっとわけのわかんないことを幽霊が叫んだ。えええ、何なのコレ?


「そしてそこのガキ! おおおお、オマエはざまあ対象だ! 

 天使を通して俺に向かって散々生意気な事を言いやがったな! 主人公に生意気な口をきいたヤツはその高慢な態度のまま戦いを挑んで、実力の差を知って無様に逃げかえってボロボロの人生ざまあを送るんだ! おおおお、俺がそう望んだんだから、そうなるべきだ!」


 えーと? 本当に何なの?


「あー。待って待って。とりあえずこの天使騒動の元凶はアンタでいいの? そこのジプシーさんとどういう関係があるの? あとそこのアホ悪魔はなにトチ狂ってるの?」


 情報量が多すぎるのでいったん整理させて。頭抱えたくなってきたわ。


「だだだだ、黙れ! モブに説明する義理なんかない! おお、お前たちはゲームのNPCなんだから大人しく俺の都合通りにしてればいいんだよ!」

「そうじゃそうじゃ! お前たちはお兄ちゃんの言うとおりにしてればいいんじゃ!」

「βバージョンからやってるゲーム世界に転生したんだから、修正されたはずの無限アイテムチート使って楽しくハーレム作るぜ!」


 なんかどっかのWeb小説のタイトルっぽい事を言ってるけど、要するにこいつもアタシ達と同じこの世界に召喚されたクチか。バグ技の事も知ってるみたいだし、アタシの予想通りって所ね。さすがにこんな奴だとは思わなかったけど。


「よくわかんないけど、バグ技使ってるならそこから移動させれば終わるでしょ。【神の鉄槌】使って吹き飛ばして」

「むぅむぅ。アムちゃんちょっと我慢してね。コトネちゃんも優しくしてあげてね。手加減手加減!」

「やってみます」


 いろいろめんどくさくなってきたので、会話はもうやめた。無限アイテムバグの条件を解除すれば天使を維持するMPは尽きるだろう。そうなれば余裕も生まれるはずだ。聖女ちゃんは頷き、【神の鉄槌】を放つ。


「お兄ちゃんにさわるなー!」


 だけど攻撃が当たる寸前に厨二悪魔がそう叫ぶと、ジプシーさんの身体が蜃気楼のように揺らいで消えた。そして少し離れた場所に表れる。自分で動いて避けた……のとは少し違う気がする。外の天使騒動もまだ収まったわけでもなさそうだ。


「アンジェラがあの人を守ってまちゅ。あの人の周囲にデミナルト空間を形成ちて、空間ごと移動されたみたいでち!」

「お兄ちゃんには誰も触らせんのじゃ!」


 かみちゃまの言葉に胸を張る厨二悪魔。うわウザったい。こういうときに有能になるとかやめてよね。


「位置バグの弱点を克服した俺は究極の引きこもりハーレム王になる! 今更BANして御免なさいって言ってももう遅い!」


 そしてWeb小説のサブタイトルっぽいことを言う幽霊。あー、はいはい。黙ってて。鬼ドクロ以上に話が通じないわね。


「もー、何なのよこいつら」


 呆れるようにため息をつくアタシ。まったく、来るんじゃなかったわ。

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