22:メスガキは天使を罵り返す
「死ね人間。お前たちがいるだけで虫唾が走る」
「お前たちが息をしていると思うだけでストレスがたまる。資源の無駄だ」
「生きている価値などないのだから死ぬべきだ。それが分からないから生きているのか。無様だな」
叩き付けられる罵詈雑言。それと共に剣を振るい、そして魔法を放つエンジェルナイト。まさに言いたい放題だ。
「低俗な誘いだがあえて乗ってやろう。稚拙な計略を真正面から潰されて心砕けるがいい」
「即死攻撃など所詮ギャンブル。運に頼る時点で自分の実力がないことを証明しているようなものだ」
「後ろで傷を癒す卑怯者。手も足も出ないくせに小細工だけ上手な性根の腐った女め。卑劣な自分を自覚しろ」
アイドルさんのヘイトや鬼ドクロの即死、そして聖女ちゃんの後方支援をみてもそんな調子だ。徹頭徹尾、こちらを馬鹿にしてくる。
「白ゴシックとかお前のような腹黒に似合うわけないだろうが。自分が清楚と勘違いしているクソガキ。顔洗って出直して来い」
「よーし。こ・ろ・す♡」
当然そのセリフはアタシにも飛んでくる。アタシはいい笑顔を浮かべて【笑裏蔵刀】を叩き込んだ。レベルも低いのでダメージは軽微だけど、相手のHP自動回復バフを剥がして満足する。
とはいえ、戦略的にはこれは蛇足だ。バフはすぐに張り直されるだろうし、そもそもこっちのメイン除去法は鬼ドクロの即死攻撃。HPがどれだけ残っていようが関係ないわ。
「【天使の風】を解除していい気になったつもりか。低レベルの人間如きにできるのはその程度。すぐにアビリティを使って元に戻る。時間稼ぎにもならないな」
「弱い弱い。貴様ら人間は弱すぎる。そのくせ交尾して繁殖する能力だけは強い下劣な種族だ。汚物は潰して流さなくては」
「貴様らが作ったものは全て壊す。貴様らが築いたものは全て消す。細胞の一片たりとも人間の痕跡は残さんぞ」
少しずつ増えてくるエンジェルナイト。その数は見えているだけでも100は超える。見えない所にも降臨しているのを見たから、町中にあふれているのだろう。アイドルさんが回避盾になってるけど、それにも限界がある。鬼ドクロの即死攻撃もMPという限度がある。
「やばいやばい! 簡単には負けるつもりはないけど、適当なところで逃げないと囲まれて終わりだね! どっかんどっかーん!」
範囲攻撃の【妖精花火】を放ちながらアイドルさんが言う。今はまだ退路があるけど、それを塞がれたら立往生だ。しかしまわりこまれてしまった、なんて真っ平御免よ。
「ふ、臆したか光のモノ。死は何も恐れぬ。されどあえて足並みを合わせよう」
刀を振りながら鬼ドクロが鼻で笑うように言葉を返した。エンジェルナイトの数を見てビビってたのは見なかったことにしてあげるわ。あと今もちょっと逃げ腰なのも。
アタシもこの数に囲まれるのはパスだ。だけど生存優先で何の成果も得られませんでした、っていうのはゲーマーとして納得いかない。って言うか何のために戦ってるのかわかんないもんね。
アタシはエンジェルナイトに目を向け、そのステータスを見るように意識を映す。指を相手に向けてタップ。スマホも画面もないけど、イメージすれば展開されるエンジェルナイトのモンスターステータス。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:エンジェルナイト
種族:天使
Lv:80
HP:689
解説:降臨した天使兵。地上の汚れを祓う神罰執行者。
アンカー
嗜好:他人を罵る
??:???
??:???
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
見える。意識すれば見えるステータスの下の部分。三つあるアンカーのうち、一つしか分からない。……アタシと同じっていうのがなんかムカつく。こんなのと同じとかどーいう事なのよ!
「あは。ヒトを罵らないと自分が保てないクソザコが何か言ってるわ。そうやって他人を貶めないと自信が持てないなんて、天使のくせにちっちゃーい。コ・コ・ロ・ミ・ニ・マ・ム」
アタシの言葉と同時にアンカーの『嗜好:他人を罵る』がぐらりと揺れた。『契約』とかはないけど、アンカー自体を直接揺らすことはできる。そして、
「……ぐ、貴様……!」
攻撃的だったエンジェルナイトの動きが止まる。そしてノイズが走ったかのようにその姿がブレた。死ぬ直前まで嫌味たらたらだったクセに、今の一撃はその口の悪さを止めるぐらいに痛かったという事か。
「黙れガキ! 貴様のような人生経験の浅いヤツに何が分かるか!」
「俺達は天使だ! 偉いんだ! だから他人を罵って許されるんだ!」
「自信がないだと! 天使である時点でお前達より偉い事を教えてやる!」
顔真っ赤にしてアタシに向かって斬りかかってくる。【水の舞】+【フェアリーサークル】でかなりのヘイトを発生させたアイドルさんがいるのにだ。どうやらかなり効果があったみたいね。
ただ――
「なあがきんちょ。ブーメランて知ってる?」
「言の葉は刃。しかし忘れるな。それを己も聞くという事を」
味方と思ってたアイドルさんと鬼ドクロからフレンドリーファイヤーが飛んできた。ものすごく冷たい視線と声がアタシを突き刺す。
「アタシのどこがちっちゃいっていうのよ!」
「いやそっちじゃねーよ。口悪く罵るの方だよ。確かに小さいけど」
「小さい言うな! アタシは可愛いの! まだまだ成長する可能性はあるんだからね!」
素でツッコむアイドルさんに乙女の主張を返す。牛乳毎日飲んでるからまだ可能性はあるもん! ……あるもん!
「っ――今のは、アンカーへの直接干渉でちゅか……!? アンカー内容を正確に理解し、その上で言語を介してアンカーに干渉。偶然ではないみたいでちね……」
「うそじゃろ!? お母様の子供でもないのに
そしてかみちゃまと厨二悪魔はアタシのやったことに驚きの声をあげる。そういえばこいつらに見せるのって初めてだっけ? 知ってるのは……自称天才の五流悪魔だけか? あいつも理解していたとは思えないし。
気を取り直してエンジェルナイトを見る。今のでもう一つのアンカーも見えた。
「天使? 神の下っ端の分際で偉いとかバッカじゃないの!? 上からの命令をこなすしかない奴隷の分際で他人に威張るとかおかしくない? 名称も天の使いでしょ? へーこら従う下っ端確定の名前じゃない」
ががっ! っと今しがた分かった『矜持:天に選ばれし者』が揺れた。ここまで天使偉いを叫んで人間を下に見てるんだから、見え見えなのよ。エンジェルナイトの揺れ具合がさらにひどくなった。動きもだいぶ緩慢になってるし、目も血走ってるわ。
「黙れ黙れ黙れ黙れ! て、天使を侮るなクズが!」
「下っ端ではない! お前たちの方が下だ!」
「選ばれた俺はいずれ天下を取る! それが分からんとはな、このクズが!」
怒りのあまりどんどん集まってくるエンジェルナイト。なんかいろんなところから飛んでくるんだけど! もしかして町中のエンジェルナイトがこっちに来てるとか!?
「撤退するわ。これ以上は無理!」
アタシの掛け声にアイドルさんと鬼ドクロは頷いて踵を返す。エンジェルナイトをけん制しながら、避難所に駆け込んだ。
「やーん、子供一人に大人が必死になって無様ぁ。天使とか言ってるくせに子供の悪口否定できずに暴力で黙らせようとか。恥ずかしくないのかなぁ? アタシだったら自殺してるわ」
「貴様――!」
最後の最後に煽りを入れて、アタシも避難所に入る。防御系のアビリティを持つ重戦士や魔術師などが構築した防御陣になだれ込む。幾重にも重ねられた防御アビリティは、レベル80の天使でも容易には突破できないようだ。
「数が多い……! 天使全部がここに集中しているみたいだ!」
「だが、登場当初より強さは削がれている! これならしばらくは耐えられそうだ!」
防衛する人達はそう言って防御に専念する。ムジークの戦士や魔法使いが交代で守れば、しばらくは耐えられるという。
「強さが削がれてる……トーカさんがアンカーを攻撃したおかげですね」
「ふん。低俗だとかギャンブラーだとか、あと性根が腐っただとか言ってる罰が当たったのよ」
聖女ちゃんの言葉に、鼻を鳴らすアタシ。しょうもないこと言うから天罰が下ったのよ。
「あららあらら。お嫁ちゃんが罵られてたのを結構怒ってたんだ。かわいいかわいい」
「逆鱗に触れし者は報いを受ける。それが愛ならばなおのこと。古今東西、愛を否定する者は滅ぶということよ」
後ろでアイドルさんと鬼ドクロが何か言ってるけど、相変わらずわけわかんない。
「ありがとうございます。トーカさんは皆さんが言われたことも、かなり怒ってますよ」
あとなんで聖女ちゃんが嬉しそうなのよ。……まあいいけど。
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