21:メスガキは街の状況を知る

 ゴーストミュージアムから外に出たアタシ達は、その光景を目にする。


「うわ……」


 町の空に光が走り、そこからエンジェルナイトが降ってくる。その数は十や二十どころではない。数えるのもめんどくさくなるぐらいに天使が街に降りていた。


「天使!?」

「おい、襲い掛かってくるぞ!」

「逃げろー!」


 ムジークの町に降りた天使は街の人達に攻撃を仕掛ける。レベル80のモンスター相手に対抗できるはずがない。天使の攻撃は容赦なく人々を切り――


「……何あれ? どうなってんの?」


 切られた人たちは動かなくなる。逃げようと足をあげた状態や、悲鳴を上げた表情のまま動きが止まっていた。酷いものになると逃げようとして転びそうになった状態で止まっている。明らかに重力を無視した形だ。


「おそらくは時間停止能力。成程、切ったモノの時間を奪っているという事か。太陽を司る神の使いは時をも操作する。我が慧眼に見抜けぬ者無し」

「星関係を管理しているのはお母様でち」

「…………ふ。そう思わせるのが天使達の策。しかし神がこちらにいるとは思いもすまいて」


 なんか適当な事を言う鬼ドクロ。かみちゃまにあっさり看破され、それっぽい誤魔化しをする。


「トーカさん、助けに生きましょう! 町のみんなが!」

「めんどくさいわね、調査とかどうするのよ」


 聖女ちゃんに引っ張られるようにアタシは街に向かって走る。その後をついてくるアイドルさんと鬼ドクロ。聖女ちゃんに抱かれているかみちゃまと、


「わ、妾を置いていく出ない! べべべべ別にエンジェルナイトにまた囲まれてネチネチ言われるのが嫌なんじゃないぞ! ホントじゃからな!」


 あと厨二悪魔が付いてきた。こいつ、エンジェルナイトを処理できないから一人になるとまた嫌味言われるのよね。


「アミーさん! それに他の人も!」


 町中に入ったアタシ達に声をかけてきたのは、音楽ギルドの受付お姉さんだ。アイドルさんとその他大勢扱いされるのはちょっとムカッと来たけど、あのギルドで一番有名なのはアイドルさんなのだから仕方ない。


「あいあい。アミーちゃんだよ♡ どういう状況か教えてもらえると嬉しいかな。まさかとは思うけど、これもアイドル戦線のイベント? なわけないよね? よねよね?」

「当然です。原因はわかりませんが、エンジェルナイトが町中に発生しました。今は戦える戦力と共に避難誘導の最中です。

 エンジェルナイトにHPを削られた人たちは彫像のように動きが止まってしまいます。止まった人の回収と、そして動ける人の誘導をお願いします!」

「避難誘導先はどこですか?」

「アイドル戦線を行っている会場です。音楽ギルドだけではなく、戦士ギルドは魔法ギルドも総出で避難所防衛にあたっています」


 受付さんが言うには、今は原因究明よりも被害を抑えることを優先しているみたいだ。アイドル戦線の会場はそれなりに収容数が多い。それなりに頑丈なので、防衛にも向いている。


「おっけおっけ! じゃあアミーちゃん達は天使を引き付けとくよ! 別にあいつらを倒してしまってもいいんだよね! おおっと、これは死亡フラグかな? お口チャックチャック!」

「進むべき時に進み、退くべき時に引く。死の運命を打破するのはいつだって人の知恵よ。忘れるな、光の歌い手」


 エンジェルナイトに対抗できるアイドルさんが笑みを浮かべ、鬼ドクロがに頷く。冷静に軍師っぽいこと言ってるけど『戦うのはいいけどヤバくなったら逃げようね。調子に乗って引き際間違えないでね』と言っているのである。ちょっと足震えてるし。


「トーカさん、私達も頑張りましょう」

「アタシらはレベル低いから待機したほうがいいわよ。避難所避難所」

「行かせるか、キミも来るんだよがきんちょ。盾になりやがれ」

「ひどーい! 男のくせにか弱い幼女を盾にするなんて、さいてー!」


 これ幸いと休もうと思ったけど、アイドルさんに引きずられていく。


「まあまあ、この事件を解決しないとレベルアップもできませんし。そもそも大会も中止になりかねないんですよ」

「でもアタシが出なくてもいいじゃない。エンジェルナイトだったらこの二人でどうにかなるって」

「トーカさん的には避難所にいるのと天使を観察するのとでは、どちらが事件解決に有用だと思います?」

「……それはまあ、確かに天使の方よね」


 聖女ちゃんの意見に納得するアタシ。まあ『白蝶オーバード』もあるし、負けることはないからいいや。


「あらあら、なんていうか、お嫁ちゃんにいいように操られてるなぁ。アミーちゃんちょっと心配。どうなのどうなの?」

「他人に尖っているが、親愛なる存在には逆らえぬ百合。これもまた尊し」


 そんなアタシ達のやり取りを見て、アイドルさんが苦笑していた。そんでもって鬼ドクロは変わらず意味不明だった。


「何なのよ。言いたいことあるならはっきり言いなさいよ」

「別に別に。二人が幸せならそれでいいんじゃない。らびゅらびゅ」

「罪人の争う闘技場で出会い、数多の冒険を駆け抜けた絆を語る言葉はない。地面をけり上げ、何処までも飛び立つがいい。いと尊い花に祝福あれ」

「はい。ありがとうございます」


 アタシの言葉にアイドルさんと鬼ドクロはわけわかんないことを言う。聖女ちゃんは理解したのか、ものすごくいい笑顔で感謝の言葉を告げた。……まあ、この子がそれでいいならどうでもいいわ。


 そんな流れでアタシ達はまたエンジェルナイトと戦うことになった。アイドル戦線参加者のアイドルも駆り出されているみたいね。


「クナイ抜刀、【五月雨】!」「この動きを見切れるか、【分身切り】!」

「アイヤー! 【飛翔蹴り】!」「【チャクラ開放】アル!」

「我がゴーレムは世界一ィィィィィィ! 【ゴーレム大行進】!」


 忍者アイドルだったり、チャイナアイドルだったり、魔王系ゴーレムアイドルだったり。いろんなアイドルがエンジェルナイトと戦っている。


 でもさすがにレベル80のモンスターを相手するのは容易ではない。一グループでで天使1体を相手するが精いっぱいだ。3体に攻められれば撤退するしかない。


「忍者? 時代に消えた化石じゃないか。大体そんな恰好で町中歩くとか恥ずかしくないか?」

「素手で武器に勝てるわけないだろうが。バカか? ロマンとかつまらないこと言ってるぐらいなら武器買えクズ」

「ゴーレムに頼る他力本願のくせに偉そうに。命令するだけのモヤシ野郎。それで世界一とか厚顔無恥も甚だしい」


 エンジェルナイトは相変わらず口悪く罵りながら、戦うアイドル達を押し返していく。動けなくなった人たちの回収は何とかうまく行っているけど、このままだと押し切られるだろう。


「お待たせお待たせ! アミーちゃんが来たよ! 交代交代!」

「闇と光。相容れぬ者同士為れど、今はあえて手を結ぼう。死出の旅に導くは我が刃なり」

「ダメージは癒します。みなさんこちらに」


 そんな場面に颯爽と現れるアタシ達。アイドルさんとかを見て、笑顔が戻る。


「はん。真打は遅れてやってくるのよ。前座は下がってアタシに任せなさい。こんなザコの攻撃なんか、アタシに全然通じないんだからね」

「ウソじゃないですけど、そこまで威張らなくてもいいじゃないですか」

「ウソじゃないからいいのよ。っていうか、威張るだけの事をすればいいんでしょ」


 厨二悪魔は言った。こいつらにもアンカーがある。それを理解すれば操作もできる。


「アタシに歯向かったことを、後悔させてやるわ」

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