20:メスガキは悪魔を問い詰める

「暴力とか野蛮か貴様らふざける――」

「子供を正しく導いてるだけだ。俺は悪くな――」

「都合が悪くなると力づくとか間違いを認めた証拠――」


 厨二悪魔に攻撃を仕掛けていたエンジェルナイトをあっさり倒すアタシ達。……正確にはアイドルさんと鬼ドクロなんだけど、アタシ達なのは変わりない。アタシは何もしてないとか、気にしちゃいけない。


「なにやってんのよアンタ」


 頭抱えている病みカワ悪魔に向けて、呆れたようにアタシは問いかけた。【乱れ切り】とか【ホーリーライト】とかいろいろ攻撃を食らっていたのに、ケガ一つないみたい。だけど精神面はボロボロだ。


「大人だからってマウント取るとか間違っとるじゃろ!? っていうか妾はあいつ等よりもずっとずっと年上なんじゃぞ!? なんでここまで言われんといかんのじゃ!」

「精神的に子供だからじゃない」

「ぐうはぁ!? テンマと同じようなことを……! 順番的には妾はお母様の三人目の子供なのに!」

「トーカさん、手加減してください。アンジェラさんは落ち込んでいるんですから」


 嘆く悪魔にアタシは正論を言ってやる。頭抱えるポーズが四つん這いになった。聖女ちゃんがアタシを窘めるけど、現実は残酷なんだから仕方ない。っていうか聞きたいことはそこじゃない。


「アンタが年上とかどうでもいいわ。とっととこの騒動終わらせてよね」

「は? 何を言っとるんじゃ?」

「だからアンタがやったんでしょ。こんなところにエンジェルナイトが出てきたり、何とか空間を作ったり。アンタ以外に誰ができるのよ」

「いや、妾がこんな事するわけないじゃろうが。大体エンジェルナイトは修行マニアのリーズハルグの眷属じゃぞ。妾関係ないわ! 胸と一緒で脳みそも小さいのかこの遊び人は!」

「誰の胸が小さいっていうのよ。アンタだってそんなに変わんないくせに!」

「トーカさん、話がズレてます」


 厨二悪魔に殴りそうになるアタシを止める聖女ちゃん。止めないで、乙女の威信にかけてやらなくちゃいけないことがあるのよ! アタイの方が大きいもん!


「デミナルト空間は神か悪魔にしか作れないと聞きました。この場にいる神と悪魔はシュトレイン様とアンジェラだけです。

 繰り返しの質問になりますが、貴方ではないのですか?」


 アタシを止めながら問いかける聖女ちゃん。その質問に、厨二悪魔は目に涙を浮かべて否定した。


「知らん! 妾もシュトレインの奸計と睨んで問い詰めに来たんじゃ! 赤ん坊形態の端末を地上に送って形態で無力なフリをしながら力を蓄積し、一気にデミナルト空間を形成するとはな! 

 どうせ本体は妾の手の届かぬところでほくそ笑んでおるんじゃろうが! 分かってるんじゃぞ!」


 この赤ん坊は本体です。すごく言いたいけど、かみちゃまがものすごく微妙な表情しているのでやめてあげた。


 とはいえ、いろいろややこしいことになってきた。ちょっと確認が必要みたいだ。


「どういうこと? この状況は50年成長しない予定のかみちゃまでも病みカワ承認欲求中毒の悪魔でもないってことなの?」

「……そのなんとか中毒ってもしかして妾の事かえ?」

「……とことん口の悪い子供でちゅねぇ」


 繰り返しのアタシの的確な描写に、神と悪魔はものすごく不満げに答えた。とっとと質問に答えろっての。


「妾がこんな空間作るわけないじゃろうが! やるなら闇の炎が地面からあふれ、黒き城を中心としたものにするわ! 4つのオーブを集めないと城に入れず、四天王がオーブを守っているとかそんな感じじゃ!」

「なにそれ。めんどくさい設定」


 こぶしを握り締めて主張する厨二悪魔。どこのRPGに出てくる設定なのよ。いやここゲームを模した世界なんだけどさ。


「その四天王同士に関係を持たせないとはもったいない。城主を慕う者、城主の妹、主人公の父、そして裏切り者……。オーブをめぐる際にそれぞれの主張が入り混じり、身も心も削られながら最後の戦いに挑むのだ」

「そしてこっちはこっちでもっとめんどくさいわね」


 何故か偉そうにアドバイスする鬼ドクロ。どうせ倒すんだからどーでもいいじゃないのそんなの。


「そのファッションセンス。よもや闇の眷属かえ?」

「否、我は闇に光る死刃。死は誰にも仕えることはない。ただ歩み寄り、そして斬るのみよ」

「…………」

「…………」


 なんか厨二悪魔と厨二ドクロがセリフを交わし合い、


「どうやら人間にもマシな存在はおるようじゃのぅ」

「相容れぬ存在為れど、心通じることもある。それもまた運命」


 そして握手した。何か通じ合うものがあったらしい。何やってんのよ。


「アンジェラでもないという事でちか……? でもこの出力はアンジェラ以外には考えられまちぇん。デミナルト空間の規模的にはかなりの大規模でちゅよ」

「あのさあのさ。天使が出たってことだから他の神様とかじゃないのかな? さっき言ってたリーズハルグとか? 違うの違うの?」

「それこそありえまちぇん。リーズハルグがこの規模のデミナルト空間を作るだけの力があるなら、自分で降臨して人間の身体能力を鍛える方に使いまちゅ。エンジェルナイトを派遣するなんて事をする性格じゃないんでち」


 アイドルさんの質問に首を振るかみちゃま。その何とかって神様は性格的にこんなことをするのはあり得ないという。


「リーズハルグがやるなら服に重力負荷をかけて日常生活で筋肉を鍛えさせたり、祈りのポーズをウェイトトレーニングのポージングにしたりするでちょうね」

「いやいや、あ奴なら溶岩の上に闘技場を作って戦わせたり、爆発する岩が転がってくる坂道トレーニング場を作ったりの可能性もあるぞ。一定の筋力がなければ開けれない扉とかな」

「どんな神なのよ。いや大体わかったけど」


 ため息つきかねない口調で語る神と悪魔。とりあえずどんな神様なのかはよくわかったわ。


「じゃあ誰なのよ、この状況を作ったのは?」

「さあ? 少なくともお二人がウソを言っているようには思えません」

「むぅむぅ。情報が少なすぎるよ。とりあえずその空間がどうなっているのか街に戻って調査してみない? もしかしたら何かわかるかもよ? かもよかもよ?」

「深淵を覗く者は深淵に覗かれる。しかし覗かねば真理は見えぬ。禁忌に近づく意味を理解しながら人は真実を求める者なり。人は破滅しながら知恵を得るのだ」


 アタシと聖女ちゃんとアイドルさんと鬼ドクロ、その人間同士で話し合う。実際問題として情報が足りなすぎる。悪魔を殴って謝らせておしまい、なんて単純な話じゃないようだ。……鬼ドクロはそれをさらにわけわからなくしてるけど。


「もー。アイドル戦線の為にレベルアップしないといけないのに何なのよ。これで優勝逃したら責任取って『ティンクルスター』取ってきてもらうわよ、そこの悪魔」

「なんで妾が!? むしろ妾は被害者じゃぞ!?

 大体なんじゃあの天使ども! コントロールはできんししかも口悪いし! 攻撃許可さえもらってたら一掃しておったわ!」


 エンジェルナイトに言われたい放題だった厨二悪魔。お母さんの許可を得ないと攻撃できないんだっけ? 人間だけかと思ったけど、モンスターに対してもそんな感じらしい。


「……あれ? あの天使ってマッチョ神の部下とかじゃないの? アンタは命令できるんだ」

「リーズハルグです、トーカさん」

「ふん、当然じゃ。妾を始めとしたお母様の子は貴様らがステータスと呼ばれる概念に干渉できる。アンカーさえ理解しておれば操作は容易いんじゃ」

「容易にできてないじゃん」

「うっさい! ……アンカーの干渉がいつもと違うんじゃ。人為的に変更されておる可能性が……妾たち6子以外の主がいるとかか……?」


 アタシの言葉にぶつぶつ言う厨二悪魔。その後で何かに気づいたのか、マウントを取るように鼻を鳴らしてアタシを見た。


「おおっと、おぬしにアンカーなどと言ってもわからぬか。すまんのぅ、賢しいところを見せつけて。愚者には理解できぬ事じゃな。ほっほっほ」


 アタシの質問に胸を張る悪魔。そして高笑い。アタシにもがアンカーを見えるなん思ってもいないようだ。


「……アンタ、ひたすら残念属性ね」

「なんで!?」


 アタシの同情を含んだ言葉に、厨二悪魔は理解できないと声をあげた。

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