19:メスガキは天使の群れを突破する
「おい、あんなところに人間がいるぞ。殺そう」
「仕事したくないなぁ。まあ憂さ晴らしするか」
「とりあえず死ぬまで刻めば死ぬか。メンド」
やる気があるんだかないんだかよくわからないことを言いながら、剣を向けてこちらに近づいてくるエンジェルナイト。その数は10体。……今11体になった。光が集まって、そこに天使が生まれる。
「ねえかみちゃま。リーズ何とかっていう神様の部下っぽいこと言ってたけど、教育がなってないんじゃないの」
「リーズハルグでち。4文字以上の名前は覚えられないんでちか、貴方。
たちかに見た目はリーズハルグの部下にいるエンジェルナイトでちけど、あんな愚痴吐く性格じゃなかったでち。『リーズハルグ様の訓練、死ねる……』『構える……斬る……構える……斬る』『魔法詠唱は1秒以内。10時間繰り返し、体に染みつかせるべし……』とか死んだような目で言っていたのは知ってまちゅけど」
あまりの口の悪さにかみちゃまクレームを出すけど、帰ってきたのは別方向の愚痴だった。碌でもないわね、神。
「心を殺し、鍛錬に没頭する。常道を外さねば得られぬ物事もある。真なる戦士であるならば、その鍛錬も血肉となろう。そしてその結果は上役に奪われていく。
そしてなんだか血を吐きそうな声で呟く鬼ドクロ。何よ、そんな経験でもあるの? なんか妙に実感籠ってたけど。
「どうします、トーカさん?」
アタシの後ろで聖女ちゃんが問いかけてくる。この子の今の状態だと、エンジェルナイトに一撃食らっただけで死んじゃいかねない。後ろに控えて、回復に徹してもらう方針ね。
「どうもこうもないわよ。ここを突破して厨二悪魔の所に向かう。どーせどっか高い所とかでふんぞり返ってるんでしょ。
何しようとしているのか尋ねて、気に入らなかったらぶっ飛ばすだけよ」
「その方針に異論はありませんけど、目の前の天使達をどうするかです。このまま数が増えていくなら、突破は容易ではありません」
包囲網を狭めてくるエンジェルナイトを見ながら、聖女ちゃんは緊張した声をあげる。
アルビオンで同レベルの敵であるデーモンの群れを相手したときは、かなり時間がかかった。その時はアタシもこの子もレベル90近くで、同行したおにーさんは悪魔退治に特化した装備。それでも殲滅には時間がかかった。
今のアタシとこの子はレベル40に届くかどうか。戦力的にはあの時の半分以下だ。エンジェルナイトには手も足も出ない。そしてこのメンバーは天使の弱点属性である闇属性攻撃を持っているキャラもいない。
でも問題はない。何せ――
「大丈夫よ。ここに天使ホイホイがいるし」
「おいがきんちょ、それアミーちゃんの事か?」
「集まった天使を即死してくれる処理機もあるし」
「死を告げる刃を軽視するか。いずれ罰が下るだろう」
アタシはアイドルさんと鬼ドクロを指さしながら説明する。ちょっと声に怒りを感じるけど、作戦は理解しているみたいだし問題なし。アイドルさんがヘイトで集めて、鬼ドクロが即死で高HPモンスターを処分。余裕余裕。
「なによ10レベルアビリティ持ってるのに情けないわねー。しょーがないからアタシも壁になってあげるわ。
か弱いアタシを囮にするなんて、男としてはずかしいと思わないの?」
「むしろ属性防御でノーダメージなんだから率先して前に出ろ。こっちはよけ損ねたら痛いんだからな」
「貴様がか弱いなどこの世の誰も思わぬであろうよ。特にその神経の図太さと毒舌はな」
「なんでわざわざ煽るんでちか、この子。悪態付かないと死んじゃうんでちか?」
「トーカさんなりの信頼というか……いろいろすみません皆さん」
アタシとアイドルさんと鬼ドクロの会話に、何故か頭を下げる聖女ちゃん。
「いいよいいよ。口悪いのは知ってるし。そのくせ本気で拒絶したら泣きそうになる寂しがり屋なんだから。メンドイメンドイ」
「ふ、いらぬ謝罪よ聖なる乙女。子供のワガママを受けるのが先達の務め。斬るしかできぬわが身が未来を切り開けるのなら、それもまたよし」
「誰が泣き虫で寂しがり屋で子供でワガママだっていうのよ」
「アンタでち。パーソナリティ全部バレてまちゅよ」
そんなことないもん。アタシはつよつよで大人なレディだもん。ちょっと成長が遅いだけで。そう思って聖女ちゃんを見ると、否定も肯定もない微妙な顔をしていた。
「…………トーカさんは、いい人ですよ」
あ、これ気遣われてる。アタシの味方できないって顔してる。
「ふん、行くわよ。とっとと厨二悪魔とっちめないと。レベルアップの時間が無くなっちゃうわ」
これ以上何かを言ってる時間はない。アタシはそう言って話を終わらせた。
アタシとアイドルさんが壁。鬼ドクロが即死でエンジェルナイトを攻撃。聖女ちゃんが回復。そんな構成ね。MP消費がものすごいことになるけど、突破できない相手じゃないわ。
「子供が鬱陶しいんだよ。黙って大人にしたがっとけ」
「男のくせにそんな服着て。常識考えろクソカス女男」
「いい大人がドクロとか非常識なんだよ。いい加減卒業しろオタク」
なんか口悪いエンジェルナイトが斬りかかってくる。アタシは【カワイイは正義】を使って聖属性防御を増し、その攻撃を受け止めた。
「きゃー。口悪く罵られながら殴られる―。暴力でしか子供を黙らせられないクズ大人とか、時代遅れ。価値観のアップデートしてきたら?」
「時代など関係ない。私のいう事が正しい」
「暴力を振るわれる方にも問題がある。反省するのはお前だ」
「罵倒ではない。教育だ。暴力ではない。教育だ。それが分からないヤツが偉そうに言うな」
アタシの言葉に聞く耳持たないとばかりに言葉を返すエンジェルナイト。うわ、頭硬いわね。言いながら連続で斬りかかったり魔法撃ったりするのはちょっと狂気。効かないけど。慣れっこだし。
「女装とか変態か。似合ってないんだからやめろクズ」
「異常なんだよ気づけバカ。ああ、バカだから女装するのか。はい証明完了。女装はバカがすることだ」
「そんな恰好で可愛いつもりか? チヤホヤされて嬉しいだけの承認欲求モンスターのくせに。妖怪並みのキモさだぞ」
「はいはい。きもいきもい」
見るとアイドルさんも同じような事を言われている。口撃と攻撃を避けながら適当に相手していた。事務的に範囲攻撃魔法を放ち、カウンター+魔眼の追撃でエンジェルナイトにダメージを重ねていく。
「ドクロがかっこいいとか本気? 常識ないんじゃない?」
「女にモテない。コミュニケーションできない。それって生きてて楽しいのか」
「趣味がオタクとか、いい年して恥ずかしくないのか。俺なら自殺するね」
「ぐぉ……。これが精神攻撃か。過去の再現とは恐るべし天の騎士。言の葉は人類が得た最古の武器。それを此処まで研ぎ澄まして突き刺すとは……!」
そして鬼ドクロにもそんなことを言っている。トラウマをえぐられたのか、胸を押さえて荒く呼吸を乱している。別段アビリティとか使われたわけじゃないんだけど動きがかなり鈍っていた。
「こらメイン除去要員! アンタが動かないと天使がどんどん増えてくるんだからね。はよ動け!」
「ふ、よもやこの毒舌に癒しを得る日が来るとは思いもせなんだわ。痛みの中にある信頼、確かに受け取った」
「あっちは自分が上でこっちを下だと見ての罵倒だもんね。がきんちょはアミーちゃん達を認めた上での毒舌なだけ、大分ましだよ」
なんかアタシの言葉と天使の言葉を比べられているみたい。なんでよー。
ショックというかトラウマから立ち直った鬼ドクロは、次々と相手を即死させていく。アイドルさんの範囲魔法攻撃+カウンターもあって、少しずつエンジェルナイトは駆逐されていった。
「クソが、即死とか反則だろ――」
「カウンターとか卑怯者が。正々堂々と――」
「はいはい。ヒキニートだから属性防御しかできないんですね。ザコすぎて相手できませ――」
消える間際までこっちを見下していたのは、もう処置無しなんだけどね。
「はん。勝負なんて勝てばいいのよ。口先だけ偉そうでも実力が伴ってないとか、そっちの方が恥ずかしいと思わないの?
アンタらなんか、アイドルさんや鬼ドクロの足元にも及ばないんだから」
「んだとコラこのクソチビガキが――!」
最後の一体が消える間際に、そんなことを言ってやる。悔しそうな顔になりながら消えていく天使。あー、気持ちいい。
「そういう所がツンデレなんだぞ、がきんちょ!」
「死を告げ、孤独を生きる我が刃。されど汝なら我を御するだろう」
なんかアイドルさんと鬼ドクロが嬉しそうにそんなことを言ってくる。ツンデレでもないし、ストーカーを御するつもりもないわよ。
ともあれ、見える範囲にエンジェルナイトはいなくなった。アタシ達は急ぎゴーストミュージアムを出るために走る。
舞台を出てエントランスに。とっととあの悪魔捕まえて、何企んでいるのか聞かないと。アタシ達は一気にエントランスを駆け抜けて入り口に向かい――
「包帯とか絆創膏とか同情引きたいのか? 仮病、騙し、軟弱、そのまま死ね」
「子供が偉そうに知識を振り回して。大人の方が正しいんだからそれに従え」
「大人が立てた計画に従っていればいいんだよ。子供は何も考えず、大人に従え」
「子供が大人に口答えするな。『はい、そうです』。それ以外は禁止だ」
「理解するまでご飯抜き。家にも帰さないぞ」
ゴーストミュージアムの入り口近く。そこでエンジェルナイト数体に囲まれて蹲っている病みカワ系幼女を見つけた。
「にょあああああああ!? 大人大人うるさいのじゃああああああ!」
病みカワ幼女は剣で斬られたり聖なる光が叩き込まれたりして、見事なぐらいにフルボッコになってる。それでも痛いというよりは悪口が鬱陶しという感じで耳を塞いでいた。
レベル80のモンスターに囲まれて、ノーダメージでいられる痛々しい恰好の幼女など、世界を探しても一人しかないだろう。その名を告げたのは、かみちゃまだった。
「…………アンジェラ、でちね」
「悪魔ってモンスターを統率できるんじゃなかったの?」
かみちゃまの言葉に、アタシは何とも言えないため息をついた。
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