21:メスガキはいろいろピンチになる
「トーカさん、大好き!」
「んなぁ!?」
戦闘開始と同時に聖女ちゃんが抱き着いてきた。首に手を回して、体を押し付けるように。拘束するほど強くもなく、かといって軽くもなく。この子なりの全力で抱きしめられた。
「いきなり何を――」
「好き」
耳元で優しく、だけど熱い想いを込めて囁かれる。その瞬間にアタシの脳ががっつーんてシェイクされた。精神的バステとかそんなんじゃなく、体の芯から蕩けそうな感覚。吐息が熱く耳にそよぎ、声が確かに感情を揺さぶる。
「好き、好き、大好き。好き、好き、大好き。好き、好き、大好き。トーカさん大好き」
「好き、好き、大好き。好き、好き、大好き。好き、好き、大好き。トーカさん大好き」
リズミカルに、だけど一言一言に思いを込めて。繰り返される言葉。耳をくすぐる吐息。抱きしめられて感じる体温。その一つ一つがアタシを揺るがす。熱く、そして水のように意識が崩れそうになる。
「トーカ」
斧戦士ちゃんが語り掛けてくる。その声で冷静さが戻ってきた。今戦闘中なんだからふざけるな。そんなツッコミを期待して、
「トーカに教えてもらっテ、ダーはこんなに強くなっタ。ダーが強くなるきっかけを作ってくれたノハ、トーカだ。感謝してる」
ぎゅ、とアタシの手を握ってそんなことを言ってくる。いやいやいやいや、そうなんだろうけどそれ今言う事!? そんなこと言われたら、思わず泣いちゃうじゃないの!
「トーカさん、私を見てください。私を感じてください」
聖女ちゃんのアタシを抱きしめる力が強まる。首に回っていた手がアタシの背中に回り、体を強く密着させようと力が籠められる。抵抗なんてできない。むしろ力が抜けていく。アタシと聖女ちゃんの体は更に密着して、心臓が跳ね上がる。
「トーカと共に戦える日が来テ、ダーは嬉しカッタ。トーカの戦いに貢献できテ、ダーは幸せダ」
言葉とともにアタシの手をつかむ斧戦士ちゃんの手が強まる。その硬い手は努力していた証。何度も何度も斧を振るい、戦い続けた手。アタシと一緒に戦う。それを目的にこの子は頑張ってきたのだ。それが伝わってくる。
「トーカさん、好き」
「トーカ、ありがとウ」
右と左からサラウンドで責められる。演技じゃない、本気の気持ち。思いが嘘じゃないと伝える体温とハグと握手。心臓がドクドク鳴り響き、アタシの理性を溶かしていく。今こんなことしてる場合じゃない、なんて冷静な判断はすでに溶かされていた。
「びゅーてふー。処女同士の愛。純粋で清らかな思い。これこそが至高。これこそが守らなければならないモノ。そう、神が宿るにふさわしい。汚らわしい非処女や男どもに触れさせやしない」
感極まった
「これアンタの仕業ね! ステータス操作してなんかしたんでしょうが!」
「私は清らかな処女と守りたいだけ。しかし愛を知らない乙女は可哀そうという思いもある。処女を守るには男性から遠ざけねばならず、しかし愛のすばらしさを知らぬのは悲しいこと。
しかし私は目覚めた! それならば、処女の乙女同士で愛し合えばいいのだと! そして私はそんな彼女達を守ろう! そのための力を、この杖は与えてくれたのだ!」
自分の性癖を声高らかに叫び、赤い杖を掲げる
「すみませぬ、トーカ殿。吾輩にはとても立ち入ることなどできず」
「素晴らしきかな、乙女たちの愛!」
「穢れた我らが立ち入れる空間ではない!」
「この素晴らしい世界を守らなくては……」
四男オジサンを始め、変態三司祭や他の僧侶たちはこの状況を崇めるように遠巻きに下がっていた。うあー。わかっていたけど、アタシ以外は全員ステータス操作された感じか!?
「トーカさん……」
背中に回っていた聖女ちゃんの手が腰に降りる。腰同士がさらに密着し、そのまま足を絡みつけてくる聖女ちゃん。すり合う互いの太もも。あ、やばい。このままだとマジヤバい。語彙力無くなりそうだけどそうとしか言いようがない。
「あ……ば、かぁ……そんな熱くささやかれた、らぁ……」
密着し、触れ合う頬と頬。動作一つ一つに込められた聖女ちゃんの想い。アタシが好き。アタシが欲しい。言葉にせずともそれが伝わってくる。いつの間にか溜まっていたつばを飲み込み、アタシは聖女ちゃんの抱擁と手の動きに翻弄されてた。
アタシの全部を撫でまわそうと聖女ちゃんの手が優しく動く。抵抗なんてできない。できるはずがない。アタシだって……すべてを受け入れるために聖女ちゃんを抱きしめ――
「やだやだやだー! 落ち着けアタシー!」
最後の最後の理性を振り絞って、聖女ちゃんを引きはがして斧戦士ちゃんの手を振りはらう。ギリっギリ、セーフ。こんな変態にこの子をステータス操作されて流されてとか、絶対ヤダ! 他人の思うままという嫌悪感がアタシを正気に戻してくれた。
「何だと、わが愛の導きを跳ね返したというのか!? 愛を信じぬ愚か者め。如何に処女とはいえその精神は穢れているぅ! みっちり教育せねばならんな!」
「うっさい、アンタの性癖と愛を一緒にするな。この処女厨」
「はぐぁ……!」
アタシの叫びに、なんかダメージを受ける馬。ネタじゃなくわりとリアルに痛がってる。あ、これってもしかして? アタシは相手のステータスをもう一回確認する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:
種族:魔武器
Lv:3
HP:10
解説:か弱き夜の赤き姫。されどそれを手に入れることは誰にもかなわない。
アンカー
信仰:シュトレイン 「なので」「愛で満たす」
目的:処女を神格化させ、世界を救う 「なので」「処女を守る」
守護:清らかな乙女 「なので」「穢れた者を排除する」
契約:「愛で満たす」「処女を守る」「穢れたものを排除する」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
うん。アンカーっていう項目が見えた。そんでもってそこから延びる線が聖女ちゃんやら斧戦士ちゃんやらに繋がっているのも。いきなりこんなことになった原因はやっぱりこれか。そう思うと怒りが込み上げてきた。
アンカーやそこから延びる線は遠くから見た時は見えなかった。だけど見えるようになったのはおそらく相手の心の底とか願望が理解できたからだろう。……イヤなぐらいにわかりやすかったっていうのもあるけど。
「うわ、かみちゃま信仰者って変態しかいないのね。愛と自分の性癖ごっちゃにするとか、サイテー。そんなんでかみちゃまに顔向けできるの? ねえねえ、かみちゃまの前でそれ言えるの?」
「うぐぅ!」
『信仰:シュトレイン 「なので」「愛で満たす」』に、128のだめーじ!
「処女厨キモイ。その子が子供産んだらポイするくせに、愛とか言うのマジ信じらんない。女の一部しか見てない変態が『守る』とかキモキモすぎ。女の肩書き見て愛するか否かを決めるとか、サイテー」
「キモイって言うなー!? 違う、違うんだぁ!」
『目的:処女を神格化させ、世界を救う 「なので」「処女を守る」』に、176だめーじ!
「結局自分の性癖サイコー、なだけじゃない。清く正しい処女が神を宿して世界を救うとか、お子ちゃますぎるわ。あ、もしかして処女以外は愛せないとか? もしかしてそうじゃない女性との交友でトラウマあるの?」
「トラウマなど……トラウマなど……うううううううう! 私以外の男に触れられたとか、我慢できなかったんだぁ!」
『守護:清らかな乙女 「なので」「穢れた者を排除する」』に、256だめーじ!
「どんな性癖持ってても自由だけど、世界の事を考えるなら部屋に籠って鍵かけてから妄想してたほうがいいんじゃないかな。アンタが世界で一番汚いから。
そんぐらいわかってるんでしょ? へ・ん・た・い」
「う、うわあああああああああああああん!」
アタシの言葉と同時に
「何なのだ、今のは……」
「何か、酷い夢を見ていた気がする。おっぱいこそ至高なのに……」
「おれはしょうきにもどった!」
……一部ステータスいじられたままだったほうがよかったって思ったり、なんとなく信用できなさそうな感じだったりするけど、とりあえず終わったみたい。
「……いろんな意味で、ピンチだったわね……。
って、こっからボス戦なんだからアンタらしゃきっとする!」
ステータス操作は解除したけど、
「あ……その、私は……」
「あれはステータス操作されたんだから仕方ない! そういうことで気持ち切り替える!」
顔を赤らめていろいろ何か言いそうな聖女ちゃんに、びしっと言い放つアタシ。頷き、立ち上がる聖女ちゃん。そのまま戦闘に移行する。アタシも頬を叩いて、少し熱い顔を立て直す。
…………ここでうやむやにしとかないと、また変な気持ちになるんだからっ! アタシだって、アンタの事が……とか絶対口にしないんだからね!
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