9:メスガキも狂信者に出会う

 わけもわからず宙を舞うアタシ。上下左右もわからなくなり、ゴロゴロと地面を転がった。全身を襲う痛みが襲ってきたのはその後。


 背後から思いっきり攻撃されたと気づいたのはその後。体を動かすのが億劫なぐらいの痛みだけど、何すんのよって怒りが勝る。どうにかこうにか顔を動かしてみれば、ガッチガチの騎士っぽい人がアタシがさっきまで立っていた場所にいた。


 騎士鎧とメイスと盾。騎士なんだけど、あれは聖女ちゃんが持っている聖武器の類だ。となるとジョブは聖騎士パラディンあたり。アタシはあのメイスに殴られたのだろう。意識すると背中の一部がガンガン痛くなってきた。


「トーカ、無事カ!? 死んだカ!?」

「こういう時は生きてるのか、って尋ねるもんじゃないの?」


 倒れてるアタシに近づく斧戦士ちゃん。視線はその騎士の方を向けながら、アタシを引き起こす。


「だってトーカ、死んでモ生き返っタじゃないカ」

「そうなんだけどさ」


 あれはかなり特殊な状態だったわけだし。っていうかいきなり殴られるってどういう事よ。


「宣言無しに婦女子に武器を振るうとは騎士の風上にも置けぬ所業。如何なる理由でこのような事を行ったのだ!」


 アタシが怒るより前に四男オジサンが声をあげた。


「口を閉じよ、神に歯向かう魔なる存在。我らはオルスト皇国第二聖堂騎士団。そして我は騎士団長アウレリオ・ロレンソ! この行動は剣と戦の神、リーズハルグ神の為と知れ!

 この集落は神の降臨を妨げる意図がある! そこに現れた汝らこそ何者だ!」

「我が名はゴルド・ヘルトリング。オルスト皇国防衛騎士の一翼を担う家系だ。

 そして汝が今無礼を働いたのは魔王<ケイオス>を倒した英雄、アサギリ・トーカなるぞ! 平和を導いた存在に対して何たる所業! いや、そうでなくとも騎士たる存在が幼き子に武器を向けたことを恥じよ!」

「なるほど、聞きしに勝るヘルトリングの四男か。その活躍は我が耳にも届いている。

 なればこそ、我らが使命も理解できよう。神と一体化して世界を救うために、魔を打ち倒すこの歩みの重要さ。魔王を伏しても混乱は収まらない。世界を真に救うのは神を宿す我らなのだと!」


 お菓子を口にしてHPを回復しながら、アタシは四男オジサンと聖堂騎士? の話を聞いていた。どうやらあの聖騎士がこの集落を囲んでいた奴ららしい。見れば遠くにトカゲっぽい乗り物に乗った騎士の群れとかがいる。


 集落自体はアウタナのふもとにあり、山頂に向かう道の途中に作られている。周りや岩山で登ろうとしたら丸見えだ。そこに誰かが潜んでいる様子はない。少なくともトカゲっぽい馬が登れるようなもんでもないし。


 なんで騎士達に囲まれてると言っても集落の出入り口をふさぐ形だ。集落自体は簡易だけどバリケードっぽいものが組まれていて、その奥に斧を持った集落の人達がいる。籠城って言うんだっけ? そんな状態でにらみ合ってたところにアタシ達がやってきた感じだ。


「そうだ! 神をこの世界に!」

「剣と戦の神を降臨させ、世界に平和を!」

「我らが神に祝福あれ!」


 メイス騎士が武器を掲げると同時に、背後の騎士達が鼓舞されたかのように大声をあげる。宗教に洗脳……というよりは体育会系のノリ。どっちにしてもアタシ的には近寄りたくない相手だ。


「……とりあえず、アンタとあのメイス騎士がにらみ合ってるところにアタシ達が現われたって感じ?」

「アア、決闘に応じねば集落を攻めルと言ってきたんダ。ダーがそれに応対していたんだケド」


 あの騎士からすれば、まさに一触即発。これから決闘するぜと言う空気のところにアタシが現われたのだ。しかも斧戦士ちゃんの味方であることを隠そうともせず。


 魔王<ケイオス>が再出現リポップしない世界だから『旅の追憶』なんて知る人はいない。なんでいきなり現れたアタシに驚くのは仕方ない。思わず殴っちゃったてへぺろごめんね――って許せるわけないでしょうが!


「剣と戦の神のくせに使うのがメイスとかどういう事よ? っていうかメイスってダサくない? 打撃武器ってゴブリンとかオーガとかが使う原始的武器じゃないの。

 あ、もしかして予算不足? お金ないからメイス使ってるの? ごめーん、トーカお金持ってるから気づかなかった。貧乏人は大変よねー。あ、貧乏騎士だったか、ごめんね」


 ムカついたんで思うままに罵ってやる。


「ふ、打撃武器の良さが分からぬとはな。魔王を倒したとはいえ所詮は子供よ。

 剣や槍は斬ったり突いたりするする関係上、そこに幾分かの技量が存在する。正確さや緻密さが関与する部分が大きくなる。

 しかし! 打撃武器は純粋にパワー! 力を込めてぶん殴る、その比率が高い! すなわち、鍛え上げられた力こそがパワーとなるのだ! 単純であるがゆえに覆らなぬ法則がここにあるのだ!」


 そしたらそんな言葉が返ってきた。うわ、脳筋だ。思いっきり脳筋だ。


「剣と戦の神、リーズハルグ神は言われた。『常に切磋琢磨あれ』! 己を鍛え上げることだけが大事なのだ! 強さイズパワー! パワーイズストロング! 打撃武器

はその究極の形! そしてこのリーズハルグ神が人に当たえた聖武器ラウガはその象徴なのだ!」


メイス騎士は言って自分のメイスを掲げる。聖武器ラウガ。メイス系の聖武器だ。スタン効果を持つ聖武器で、片手武器なのに結構な攻撃力補正があるわ。まあ、弱くはない。


「強さイズパワー! パワーイズストロング!」

「強さイズパワー! パワーイズストロング!」

「強さイズパワー! パワーイズストロング!」


 そしてそのメイスを讃えるように背後の騎士連中も叫ぶ。アタシならざるとも、こういいたくなるだろう。


「バッカじゃないの」

「集落を囲んデ、自分の体は神を宿すのに適していルと叫んでいたンダ。父様達はそれは違うと説得していたんダガ……」

「聞く耳持たなかったのね。察したわ」


 相手の馬鹿さ加減に肩をすくめるアタシ。もう少し剣呑とした状況を想定してたけど、思ってたより相手がアホだったわけである。ヤーシャの壁を越えてこの集落に着くぐらいには強いんだろうけど。


「アンタらが神格化とかを目指して暴走しているふざけたやつらだってことは理解したわ」

「我らはふざけてなどない! 真に世界を救うため、神を世界に宿すため、日々体を鍛える信徒なるぞ!」

「ホント、ふざけてるとしか思えないんだけど……」


 筋肉に神が宿るとかないわよ。……まあ、迷子になる女神がいるんだからいるかもしれないけど。


「悪いけど、そう言うのはアタシが見えないところでやってちょうだい。勝手に筋トレする分には止めないけど、ここを攻めるとか言うんなら黙ってらんないわ」

「トーカ……」

「ここはサスカッチ狩る拠点にちょうどいいんだから! 『雪の結晶』強いんだから! レアアイテム狩りの為に攻められて滅ぼされたら困るのよ!」

「ダーたちの為じゃないのカヨ」

「助けると素直に言えないのがトーカ殿です。察してあげてください」

「ウン、知ってル」


 HP回復して復活するアタシはメイス騎士の前に立って啖呵を切る。後ろでいろいろ言ってるけど、無視。アタシ素直だもん。『雪の結晶』欲しいだけだもん。急いでここに来たのはそれだけだもん。だから黙れ。察するな。分かってる顔するな。


「我らが神の降臨を妨げるというのか」

「そんなつもりは毛頭ないわよ。だってもともと無理だもん。体鍛えるだけでかみちゃまが降りてくるとか、ないわ。子供にだってわかるわよ」

「やってみなければわかるまい。あくまで邪魔をするというのなら……」


 言ってメイスを構えるメイス騎士。後ろの騎士達も一斉にメイスを構える。聖武器じゃないけど、そこそこ強化されて攻撃力が高い武器だ。


「力押しとか、ほんと脳みそまで筋肉でできてるのね。野蛮で原始的なのはメイスだけにしときなさいよ」

「我らの力の象徴、我らの信仰を愚弄するとは。その言葉、宣戦布告と受け取った!」


 アタシの軽口が口火になったのか、一斉に動き出すメイス騎士団。アタシはもう少し罵り……会話して情報とか引き出したかったのに。


「うっえ! こんなの軽い冗談じゃないの。沸点低すぎるんじゃない!?」

「闘いが避けられぬ状況でしたが、最後の火をつけたのはトーカ殿かと」

「アタシ悪くないわよ! こいつらが筋肉バカなだけじゃない!」

「今更我らを褒めたたえたところで遅い!」

「褒めてないんだけど!?」

「来るゾ! 戦えない者は下がってロ!」


 背後にいた集落の人達に指示を出す斧戦士ちゃん。アタシらが逃げれば騎士達が集落になだれ込むだろう。


 こうしてなし崩し的に戦いが始まるのであった。


 ……なし崩しよね? アタシが煽りすぎたわけじゃないわよ、ね?


 

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