7:メスガキはオジサンの強さを知る
とまあ、そんな感じで別れた2パーティ。
「よろしくお願いします。トーカ殿」
1つ目はアタシと四男オジサン。遊び人と投げ格闘家という<フルムーンケイオス>でもなかなか見ないパーティ構成。
「それでは参りましょう、聖女様。正しい体型が産む正しい世界のために」
「使い慣れた聖武器を掲げれば、皆も正気に戻りましょうぞ」
「まだ幼きながらも素晴らしき胸を持つあなたがいれば百人力です」
「意気込みは買いますが、できればそう言う教義抜きで普通に接していただけるとありがたいです」
メジャー司祭、聖武器司祭、マンマ司祭の変態三司祭に囲まれた聖女ちゃんパーティ。いろいろ不安はあるけど、困ったら連絡しろって言ってるから多分大丈夫だ。『旅の追憶』を使えばすぐにここに飛んでこれるし。
「普通。これは失礼。ジョブの敬称は不要という事ですね。ではコトネ様と。或いはコトネさんの方がよろしいですか?」
「奥ゆかしい。魔王を倒したのがトーカ様とはいえ、それを支えたコトネ様もその栄誉を受けてもいいというのに」
「ですがその謙虚さこそが聖女ジョブの品格を失わぬ一因なのでしょう。ええ、私どもは貴方を尊敬しています。子供だからといって軽視はしません」
変態三司祭達は聖女ちゃんを敬うように接している。なんというかアタシが出会ったしょーもない大人たちに比べれば確かに紳士的だ。でも変態。体重とか聖武器とか胸の話題を尊敬するように日常的に言うのだ。
「アンタ、我慢できなくなったら逃げてもいいからね」
「悪い人ではないんです。ええ、ただ信仰の対象が理解できない方向に傾倒しているだけで」
アタシの忠告に、自分に言い聞かせるように呟く聖女ちゃん。この子、明確な悪意には敢然と立ち向かうくせに、こういう善意からくる変態発言には弱いみたいだ。アタシみたいに思うままに罵ったりできない性格だもんね。
ともあれ2パーティに別れたアタシ達はすぐに行動を開始する。聖女ちゃん達は情報をまとめ上げ、方針を決める。アタシは必要な装備を補充し、『旅の追憶』を使ってアウタナに移動する。
言ってもアタシは回復用のお菓子を買うぐらいだ。オジサンは投げ格闘家なので両手が開くからポーションも使える。その辺りの消耗品を買いなおせばいい。
「そう言えばついてくるのはいいけど、今のオジサン、強さはどんなもんなの?」
「はい。吾輩このようなステータスになっております」
言ってオジサンはアタシにステータスを見せてくれた。仲間の情報確認は大事だもんね。
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★ゴルド・ヘルトリング
ジョブ:格闘家/重戦士
Lv:91
HP:336/336
MP:110/110
筋力:87+30(+105)
耐久:87+30(+68)
魔力:35
抵抗:29
敏捷:90(-50)
幸運:32
★装備
キャッチザレインボー
皇国騎士鎧『弐式』
★ジョブスキル(スキルポイント:0)
【投技】:Lv10
【筋力増加】Lv6
【耐久増加】Lv6
サブジョブ
【騎士道】:Lv6
★アビリティ
【投げる】:MP3消費
【当身投げ】:MP10消費
【投げ打ち】:常時発動
【CACC】:MP50消費
【柔の心】:常時発動
サブジョブ
【鉄の体】:常時発動
【重騎士鎧装備】:常時発動
【騎士の心得】:常時発動
★トロフィー
『【投技】を極めし者』
『第二の力』
『貴族の家系』
『英雄の第一歩』『駆け出し英雄』
『格上殺し』『勇猛果敢』『不可能を覆す者』
『トロフィー:ガルフェザリガニ』『トロフィー:オークエレメント』『トロフィー:ゴブリンアーツファイター』『トロフィー:ルビーアイヒュドラ』『トロフィー:フロストナイト』『トロフィー:ロータストータス』『トロフィー:フレイムバンチョー』
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れ、れべるきゅうじゅういちぃ……アタシより高いじゃないのよ……!
「あれから愚直に【投技】を鍛え続けただけです。第二の力に重戦士の【騎士道】を選んだのは、騎士の家訓であるがゆえ。当主にはなれず、トーカ殿の手助け無ければ流浪していた身だというのにこの浅ましさ。吾輩はまだまだ未熟という事です」
「そ、そう……。うっわぁ……こういうのもありか」
四男オジサンのスタイルは回避を捨てた【投技】によるカウンター投げスタイル。高いHPと防御力で相手の攻撃を受けて【当身投げ】。そして周囲の敵を【投げ打ち】で巻き込んでいく。乱戦の中ひたすら【投げる】をしていくのがベスト。
なんでそのスタイルに重戦士はマッチする。特に【騎士道】はがっちりはまるわ。【鉄の体】は肉体系のバステにかかりにくくなるアビリティ。【騎士鎧装備】はその名の通り『属性:騎士鎧』の高防御力な鎧を着れる。【騎士の心得】は【騎士道】レベルに応じた最大HP上昇よ。前に立って耐える系ね。
さらに言えば【投技】レベル8と10のアビリティも強い。
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★アビリティ
【CACC】:キャッチアズキャッチキャン。投げると同時に極める技法。その流れはまさに芸術的。使用後30秒間、【投技】による攻撃にジョブレベルと筋力に応じた追加ダメージが発生する。MP50消費
【柔の心】:力でつかんで投げるのではない。流れをつかんでそれを崩すのだ。如何なる大きさの相手も【投技】の対象となる。常時発動
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【CACC】は【投げる】などしたら無属性の追加ダメージが発生する状態になる付与。【柔の心】は【投技】の弱点でもあった人間大以上のモンスターも【投げる】【当て身投げ】ができるようになる。つまり魔王<ケイオス>第二形態のあのでっかいドラゴンも投げれるのだ。チートじゃん。
「何だってこんなに強くなったのよ。ボスも結構凶悪なの倒してるじゃない。フレイムバンチョーとかどこにいるか分からない彷徨う系ボスなのに」
「町の防衛をしている間に気が付けばこのような方に。事、魔王による魔物活性化の時は激戦でした。
フレイムバンチョー……彼とはまたやり合いたいところです。かろうじて勝ちを拾えましたが、あれは実質吾輩の敗北。乱入がなければ負けていたのは吾輩でした。生きていればいいのですが……」
オジサンのトロフィーを見て唸るアタシ。倒したボスを見るに、アタシと別れた後もかなりの戦いがあったみたいだ。
タンクの方向性こそ違うけど、聖女ちゃんに負けず劣らずの固さだ。聖女ちゃんが聖武器で耐えて聖歌で自分や周囲を回復していく回復タンクなら、オジサンは高いHPと投げカウンターによる攻防一体タンクってところね。
「足手まといになるようなら、容赦なく捨てていってください」
「ないない。一点特化型って強いって改めて知ったわ」
謙遜するオジサンに、素直に意見を返すアタシ。
アタシは遊び人のジョブをまんべんなく取っていってる。その分ステータスの数値は低い。やれることは多いけど、一点特化した相手にその分野ではまず勝てないわ。
器用貧乏? 違うわよ、あれもしたいこれもしたい。女の子は欲張りなの。……まあ、已むに已まれずジョブ上げたこともあるけど。主にあの子のせいで!
買い物を終えて、オジサンの家に戻るアタシ。聖女ちゃんと変態三司祭はアタシが返ってくるまで待ってくれた。……もう、律儀なんだから。
「そんじゃ、アウタナに行ってくるわ。そっちも頑張ってね」
「はい、行ってらっしゃい。トーカさん」
聖女ちゃんに手を振るアタシ。軽く微笑んで送り出してくれる聖女ちゃん。うん、こういうのも悪くない。
『旅の追憶』を開き、アウタナの集落をイメージする。ふっ、というめまいのような感覚の後に、アタシと四男オジサンは遠くアウタナに転移した。
「やっほー。久しぶり!」
「トーカ!? どうしてここニ!」
転移したアタシは、村入り口にいた集落の人に声をかける。アタシの返事に応えたのは、アタシと同じぐらいの背丈の斧戦士ちゃんだ。
ヤーシャの門からでも歩いてこの集落までは1週間はかかる。馬などを使っても悪路という事もあり大きく変わらない。さっき危機を伝えて半日も経っていないのにどうしてここに。そんな疑問の表情がありありと出てる。
「ふ、その表情が見たいからわざと直前に連絡しなかったのよね。魔王を倒した者だけが得られる『旅の追憶』っていうのがあって、その効果は――」
「危ないから下がってロ!」
……は?
斧戦士ちゃんが何を言っているのか確認するより早く、アタシは全身に激しい衝撃を受けて地面を転がった。
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