5:メスガキと聖女は親友の危機を知る
身長体重その他もろもろの健康診断的な目が優れたメジャー司祭。
聖なる武器と防具大好きオタクな聖武器司祭。
おっぱい紳士なマンマ司祭。
「……ねえ、本当にコイツラと一緒に行動するの?」
アタシは聖女ちゃんにそう問いかける。この子は人は皆善人だと思ういい子ちゃんだ。でも頭が悪いわけじゃない。ここまで変態だと怪しいとか身の危険を感じるぐらいはしているはずだ。
「トーカさんが私の事を心配してくれるのは嬉しいですけど」
「別に心配じゃないわよ。帰ってきたときにアンタが洗脳されてたらヤなだけだから」
「……さすがにそれは」
言ってから口うるさく身長体重を語ったり聖武器サイコーとか言いだしたり胸を強調するこの子を想像し、げんなりした。さすがにないと思うけど。無いと思いたいんだけど。
「洗脳とは失礼な。身体に対して正しくあろうと努力する者を褒めたたえる。これになんの悪があるというのか」
「平和を得るにはまず力。そのために神から授かった聖武器の知識を深めることに何の不都合があるのだ」
「包容力こそ人を救う。その象徴を大事に扱うことにどのような不満があるというのですか」
言ってることはまともに聞こえるけど、変態司祭が無理くり正論吐いてるってカンジしか聞こえないわ。
「うっさいわね。とにかくアタシは反対だから。説得したかったらアンタ一人でその人たちのところに行けばいいじゃない」
「そうはいきません。教会は組織で、その長を無視しての行動は新しい派閥が生まれかねません。最悪は私を旗に掲げた団体が生まれて、教会が分裂する可能性もあります」
「その通りです。故に我ら三神の司祭は結託し、この問題解決に挑むこととなった。要らぬ派閥を生み出さぬように一団となって」
「大事なのは信徒たちの安全。そのためには協力も辞さぬ。今内部分裂を起こしてしまえば、歴史に残るほどの傷が生まれかねない」
「聖女コトネの思想を司祭が受け入れ、それを伝達する。その形が最も被害少なく事態を丸く収めることができるのだ」
アタシの反論に、聖女ちゃんを含めて猛反発が来た。
良くも悪くも、神と合体した聖女ちゃんの影響力は大きい。言ってしまえばインフルエンサーだ。それがかってに動き回ってしまえばいらぬ考えを起こす人もいる。だから『これは教会も同意してる意見だよ』と権力で押さえつけて、クーデター的考えを抑制するのだが大事なんだという。
「……あー、もう! 分かったわよ、アタシも一緒に行くから」
胸のムカムカを解消するように、大声でアタシは叫ぶ。こんな変態司祭とこの子が一緒にいるとか、そんだけで不安が一杯になる。どうせこの子の説得なんか無理なんだから、一緒に行った方がいい。
「いえ、お断りします。貴方が来ると事態が悪化しかねませんので」
「聞けば貴方は神を悪し様に罵っているとか」
「貴方がいると神格者擁護派も反対派も敵に回しかねません」
だけど三人の司祭はあっさりアタシを拒否した。ちょっとカチンと来たけど、怒りを抑えて問い直す。
「アタシの何が悪いっていうのよ?」
「トーカさん、シュトレインさんのことを『かみちゃま』とか『赤ちゃん』とか言ってたじゃないですか」
「事実じゃないの。腕に抱えられる程度の赤ちゃん。思いっきり方向音痴な子供。オシメも自分で変えられない役立たず。ばーぶー。
大体あんなのと融合したいなんて信じらんないわよ。強くなりたかったら効率よくレベリングしろってーの。無駄な努力してばっかじゃない。ズルの為にグロとかリョナとかする馬鹿の為にアンタがこいつらと行動する必要なんてないわよ」
「そういう所です」
アタシの言葉に深くため息をつく聖女ちゃん。何か間違ったこと言った?
「トーカさんが私の事を心配してくれるのは本当にうれしいですけど」
「だからアタシはあんたの心配なんかしてないってーの」
「トーカさんが私が司祭様たちに変な形で持ち上げられて、モヤモヤしているのはわかりますけど」
「べ、別にアタシはモヤモヤなんかしてないわよ! アンタが変態達に囲まれるのが……アタシの知らない価値観で褒められたりするのが……なんかイラっとしただけだから!」
自分でも理解できない苛立ちを指摘されて、目を逸らすアタシ。違うもん。この子がチヤホヤされて別にモヤモヤはしてないから。アタシの方が長い付き合いだから、いきなりやってきてわけわかんない宗教的価値とかで持ち上げられるのがおかしいって思っただけだから。
っていうかコイツラ変態だから、心配……なんかしてないけど! ちょっと世間知らずなこの子だと荷が重いって思っただけだからっ! 別に取られそうとかそんな変な事想ってないし!
「トーカさん。私は貴方と一緒にこの世界を駆け抜けてきました」
いろいろ感情的になって叫びそうなアタシに、自分の胸に手を当てて静かに語り掛ける聖女ちゃん。その鈴のような声の音に、アタシの熱がリセットされる。
「いろいろ至らない部分もありましたが、貴方の信頼には応えたつもりです。その信頼に免じて、私の事を信じてもらえませんか?
貴方と一緒に歩いて成長した私を。共に歩んだ者として」
…………その、うん。そこまで言うんなら、まあ。
「ま、まあアタシとずっと一緒にいたんだし? ちょっとやそっとの変態相手じゃ染まらないわよね」
「はい。トーカさんの個性はかなり濃いですから」
「さりげなく言葉に毒混じってない?」
「自覚があるなら治したほうがいいと思いますけど」
「アタシは普通で優しくてかわいいから直さなくていいの」
そうですね、と言って笑う聖女ちゃん。……なんか誤魔化された気分。
「ま、あれよね。この程度ならアタシが出る幕もないってヤツ。まあ、なんかあったら助けてあげ――」
――るから、大船に乗った気分でいなさい。
そう言おうとしたとき、フレンドチャットから通知が届いた。送り主は斧戦士ちゃんだ。
『トーカ! コトネ! 一大事ダ! アウタナに入れろと言う奴らが沢山現れて、村が囲まれタ!』
……は? どういうこと?
「待って。囲まれたって、攻められそうな感じなの?」
『アア。鎧で武装して武器を構えてル。態度も威圧的ダ』
「悪魔やモンスターじゃなくて?」
『そうダ。なんでもアウタナの頂上で儀式をしたいと言っていル!』
儀式。今その言葉を聞くと、どうしても連想することがある。
「アウタナ……もしかしてですけど、その人たちは神との融合を行いたい方々なのではないでしょうか?
私がギルガス神と繋がったのはアウタナの山上です。聖地と呼ばれる場所をそう言った方々が目指したという可能性もあると思います」
あの頂上で、聖女ちゃんは神の1人と繋がってアタシと会話した。その事は誰にも言ってはいない。アタシと聖女ちゃんと斧戦士ちゃん。詳細を知ってるのはそれぐらいだ。
だけどあの場所を聖地と崇める部族がいるのは事実だ。その伝承をどこかで知った人がいるかもしれない。そしてラクアンの壁を越えて、アウタナ近くの集落に移動した……?
「いや待ってよ。あの壁を超えるのはラクアンの許可がいるでしょ。そもそもそこを超えてもあそこのモンスターは素人が相手できるもんじゃないわよ」
「逆に言えば、ラクアンの壁を超えて活動できるほど手練れという事ですな。教会の聖騎士レベルならあるいは」
アタシの疑問に答えたのは四男オジサンだ。聖騎士。回復と防御に依った前衛キャラだ。だからと言って攻撃力が弱いわけでもない。
「あの子が簡単に負けるとは思わないけど……でも数多いと押し切られちゃうしなぁ」
斧戦士ちゃんは強い。一対一で相手が人間なら、まず負けない。十人ぐらいでも避けまくって勝てるだろう。だけど集落の人全員が斧戦士ちゃんレベルで強いわけじゃない。『囲まれてる』レベルでの数となれば集落の人は無事じゃすまない。
「そもそも倒したところで解決とは言えません。根本である神格化の誤解を解かなくては同じことの繰り返しです」
今斧戦士ちゃんの村を囲っている連中は『世界を救うために神と一緒になる』為に行動している。自分が正義なのだと信じている連中だ。倒しても、同じ考えを持つ奴らがまた現れる。
「じゃあアンタもいく? アンタがいれば説得できるんじゃないの」
「あの場にいる人達はそれで説得できるでしょうけど、根本の解決になりません。命令を出した人がそこにいないのならまた別の騎士があの集落に来ます」
あの集落への移動は『旅の追憶』があれば一瞬でできる。それで今集落を囲っている騎士達は説得できるかもしれない。だけど、それで説得できるのはごく一部。また別のヤツがアウタナを目指そうとするかもしれないのだ。
匂いを立つなら根本から。DQNはアカウントを止めても別のアカウントで蘇る。要はそういう事ね。
「うわめんどくさいわねー。じゃあ、説得と防衛で分かれて行動するしかないのかぁ……。説得にはアンタが欠かせないし、アタシがあっちに移動して守るしかないわね」
パーティを2つに分けてください、ってコマンドが見えた気がする。言ってもアタシとこの子以外は変態3司祭と四男オジサンしかいないんだけど。
「……あ、そうだ。せっかく2パーティに別れるんだから、アレやんない? パーティ組みなおしの意味も含めて」
言ってアタシは紙にセリフを書いて、聖女ちゃんにそれを演じてもらう事にした。聖女パーティ追放ごっこの原稿だ。
「……えー。なんなんですか、これ?」
内容を見た聖女ちゃんは、思いっきり嫌そうな顔をしたけど。
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