25:メスガキは聖女ちゃんのいる場所に行く

 アズマアイランドで買い物をして、アルビオンに帰還。そのあと軽く休んだあとで、『時計大橋跡』の赤悪魔がいた塔に昇るアタシとかみちゃま。本当は帰ってすぐに行きたかったんだけど、


「おかえりなさいませ、皆様方! おお、その顔を見るに目的の物は手に入れられたようですね。努力が実り、そして結果を得る。それに勝る喜びはありません。しかし強い喜びは疲労を忘れさせかねません。適度な睡眠をとり喜びに満ちた脳をいったんリセットし、その後に新たな目的へと進んでください。起きた時すぐに飲めるように、茶葉は蒸しておきます。ゆるりとした時間をお過ごしください」


 なんてブラウニーが言うから休んで眠ってた。そのせいもあってか、頭の中ははっきりしているわ。体調に関しては申し分なし。おねーさんじゃないけど、あのブラウニー連れて帰りたいわ。


「俺は各地を回り、暴れるモンスターから人々を守ってくる!」

「私はこちらで待機を。こちらが新しいお召し物です」


 天騎士おにーさんは世界中で暴れているモンスターを退治してくると【天使の翼】を使って移動し、おねーさんはブラウニーの宿屋で待機。出立の際に、ニンジャを倒して得たシノビスカーフを材料にした服を渡してくれた。


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★アイテム

アイテム名:シノビスーツ

属性:ドレス

装備条件:レベル70以上。【ドレス装備】習得 

耐久:+10 敏捷:+25 回避率ボーナス:+20%


解説:闇に生きる極東の暗殺者が着る服。


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 顔を隠すマスクに桃色の和服。手甲っぽい腕の防具。そして足やお腹には黒い網状の防具が巻かれている。網で守られてるけどおへそとか出てて防具としてはどうなのって感じだけど、回避重視の服だから問題ないわ。


「オリエント! 顔を隠しておへそと足を隠さず! 幼女の魅力を損なうことなく、しかしニンジャとしての神秘性を前面に出す! 隠れるのではなく、あえて魅せて大事なところから目を逸らす! まさにジャパニーズな発想です!」

「おねーさんの中で日本はどういう印象なの?」

「アニメとかオタクとかヘンタイとか?」


 間違ってないけどいろいろ偏見はいってるからね、それ。アタシはそう言おうとして、どうでもよくなってやめた。偏見はあるけど間違いでもないし。


 あとまあ……普通にかわいいし。少なくとも全身黒ずくめとかよりはずっといい。


「ありがと。そんじゃ行ってくるわ」

「あたちはこれでお別れになりまちゅね。おふたりとも、頑張ってくだちゃい」


 戦いの結果がどうあれ、これでかみちゃまとはお別れだ。うまくいけば神格化を解除してかみちゃま同士で合体して天空にある城に帰るみたいだし、失敗したら逃げることもできずに聖女ちゃんと同化。最悪、それさえできずに悪魔に囚われてしまう。


「世話になった。生命の母シュトレイン。高き空から人間の事を見守っててくれ!」

「できるなら見るだけじゃなく神格化を進めたいのでちゅけどね」

「はい。それを望まれる方との融合をお願いします」


 そんな会話をして、おにーさんおねーさんとかみちゃまは別れを告げる。そしてアタシの方に向き直った。


「行きまちょう。先ずは時計塔の頂上でちゅ」

「そこまで連れていけば、後はやってくれるのよね?」

「あい。魔王<ケイオス>は任ちぇまちたよ」


 そうしてアタシとかみちゃまは『時計大橋跡』に入る。『悪魔のカード』で悪魔化して中にいるデーモンをスルー。MPが枯渇しそうになったらジュースを飲んで回復。戦闘とかやってる余裕はないとばかりに一直線に突き進んでいく。


「てなわけでやってきたわよ最上階!」

「ではいくでちよ。今のうちに準備を整えといてくだちゃい」


 そんなこんなでこのシーンに戻る。かみちゃまはこの塔にたまったエネルギーを集めるために集中する。宙に浮くかみちゃまの周りにいろんな色の魔方陣ぽい何かが絡み合うように生まれる。科学の教科書にある原子とかそう言うのに似てるわ。


「準備っていったって、やることはそんなに多くないわよ。装備を変えるだけだし」


 魔王<ケイオス>に勝つ。そのために必要なアイテムはすでに整っている。そのためのアビリティも習得済みだ。


『いや……きゃ……ぁ、だ、めぇ……やぅ、んっ! ああ……あ、らっ、め……ら、めっっっ……ええぇぇぇぇ!』


 ……さすがにレベル8アビリティはすごかったわ。しばらく動けなかったもん。10レベルのアビリティだともっとすごいのかな……?


「……最後になるから聞くけど、アビリティ覚える際のあの感覚はなんなの? 神の趣味?」

「ステータスによる高度な改変を行う際に、精神に影響を与えないように麻酔を施しているんでち。アビリティ習得は『普通』の人間から乖離していくんでちからね。あれがないと精神が狂ってしまうでちよ。

 高レベルになる程に密になっていくのは、高レベル程強い変化だからでち」


 確かに自分が普通の人間じゃ持ちえないアビリティをゲットするって、ゲーム感覚がないならかなり怖いかもしんない。それまで知らない魔法が使えたり、攻撃方法が増えたりするんだもん。突然前世とか存在しない記憶が生まれるぐらい気持ち悪い事かも。


「だからってアレはどーかと思うけど」

「人類が最も求めると思われる感覚を選出したんでちけど、間違ってまちた?」

「多分間違ってないけど」


 体が麻痺したり無痛状態になるよりは、の方が望まれるのは間違いないと思う。聖女ちゃんとは思いっきり恥ずかしがるけど。


「つまり神はエロエロだったってことね。強くなることを強要しといて強くなったらそう言うコトされて。そうやって無垢なアタシを調教しようとかヘンタイ以外の何物でもないわ」

「よくわかりまちぇんが酷い風評被害を受けている気がちまちゅ」

「エロいことを報酬にしてまで神格化? 強い人間を作らないといけないぐらいに追い込まれてるのね、かみちゃま陣営」

「報酬はともかく、追い込まれてるのは事実でちゅ」


 アタシの言葉に、そんな言葉を返すかみちゃま。赤ちゃんじゃなかったら、重い表情をしていただろう。そんな声だ。


「お母ちゃまから人類及び文化への直接攻撃は禁じられてまちゅが、それでもモンスターを用いた攻勢やステータスへの干渉と言った形での侵略は止められまちぇん。人類側も交戦はしてまちゅが、もって200年程度でち。

 最後の手段である英雄召喚の儀式を使える者も数を減らしまちた。何があったのか知りまちぇんが、今は召喚そのものがされてまちぇんし」


 ゴメンね、その儀式使える人はアタシが蹴って権力から叩き落しちゃった。心の中でてへぺろするアタシ。謝る気は毛頭ないけど。


「まあどーでもいいじゃない。ここでアタシが魔王を倒して、モンスター陣営を弱体化させるから。そしたらちょっとはこの世界の人間も盛り上がるんじゃない?」

「そううまく行くといいでちけどね」

「その辺は出たとこ勝負ね。臨機応変とか大事大事」


 行き当たりばったりで具体的な案がないけど、その辺は偉い人がどうにかしてくれるわ。


「デミナルト空間への移動およびアンカー用のエネルギーは確保できたでち。アンカー継続時間は12分。それを超えると空間からこちらに戻れなくなりまちゅ。

 覚悟はできてまちゅか?」

「覚悟? そんなの魔王と厨二悪魔に聞いて。今からアタシにボッコボコにされる覚悟があるかってね」

「あい。では移動するでち。

 生命の母シュトレインの名において、人の世とデミナルト空間の壁を開きまちゅ。オー・シュトレイン。バルバ、デミナルト。ケイオス・クレセントムーン」


 かみちゃまの言葉が耳に届くと同時に、めまいのような感覚がアタシを襲った。寝そうになって頭が揺れる。そんな感覚から覚めれば、そこは真っ白な空間だった。


「ついたでち。行きまちょう」


 アタシの視界の先には、魔王と厨二悪魔。厨二悪魔はメイド服じゃないけど、バラっぽい赤いドレスに眼帯をしたゴスロリ衣装になってた。吸血鬼ぽいといえばそんな感じだ。厨二病全開ね。


「――いたわね」


 そして、それに相対する聖女ちゃん。


 かみちゃまと合体した聖女ちゃんは厨二悪魔とにらみ合いながら攻防を繰り返していた。厨二悪魔と魔王が放つ魔法攻撃を聖女ちゃんの光の壁が止め、聖女ちゃんの放つ衝撃波が厨二悪魔を押し返す。


 その度に眼下の雲が揺れる。白の雲と黒の雲。それは神と悪魔が攻撃を仕掛ける度に揺れ動き、そしてそれに呼応して地上のモンスターたちが活発化したり弱まったりしている。……遠く離れた場所の事なのに、なぜかそれが理解できる。


「この空間はそう言うことが認知できるんでち。距離や時間を無視して、世界に干渉し、知ることができる。そんな神と悪魔の空間でち」


 良くわかないけど、ゲームデバックしている開発室みたいなもんかな? とりあえずそういうものだと納得した。あまり長居する気もないしね。


 さあ、あの子を連れて帰るわよ。

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