6:メスガキは青悪魔に挑む

「来たか、人間。数多の部下を倒しここまで来たその実力、先ずは見事とほめてやろう。私の名前はブルーバロン『ドグナデヴィア』! この双子時計塔の一角を守りし悪魔なり!」


 塔屋上にいるのはボスデーモンのブルーバロン。通常のデーモンを青くして、腕が4本になったやつだ。


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名前:ブルーバロン

種族:悪魔(ボス属性)

Lv:121

HP:1798


解説:青い肌を持つ悪魔。爵位は男爵。魔道に長ける魔将軍。


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 解説にあるように、魔法が得意なデーモンね。呪文展開速度も速く、一撃も強い。加えてHPもデーモンの約3倍。よく『赤くないのに3倍とは』とかネタにされるけど、なんのことか全然わかんない。


 デーモンの上位バージョンなので物理と魔法の防御力も高く、普通に難敵。普通のデーモンも沸いてくるから、生半可な構成ならここまで来ることすらできないわ。


「我が名は天騎士ルーク! ここに来るまで倒した相手は実に勇猛果敢で騎士道精神あふれるものばかりだった! その思いを剣に乗せて、いざ汝に挑まん!」


 言ってライトニングバスターを構える天騎士おにーさん。相手がうだうだ言ってる間に攻撃したらいいのに。もう慣れたけど。


「かつて魔道と騎士の象徴であったこの双子時計塔。ヒトにより作られた天への梯子ともいわれる人工の聖地を奪い返すその気概は見事なり。しかしそう易々とは奪い返せぬと――」

「え?」

「え?」


 てんのはしご? じんこうのせいいき?


「あー、ごめん。そんなの知らなかった」


 青悪魔の口上に、思わず口をはさむアタシ。場が沈黙して、微妙な空気になった。アタシのせい?


「さ……さすが悪魔の情報隠蔽! かつての歴史さえも闇に帰す見事な手腕だ!

 だがそれを話すということは、我々を生かして返すつもりはないということか!」

「む、むぅ。その通り! ここまで来た汝らに対する礼節を示すと同時に、この戦いにおける覚悟を語ったのだ!」


 持ち直すように天騎士おにーさんがそう叫び、青悪魔がそれに合わせる。


「どーせ殴り合うんだから、背後設定なんかどうでもいいじゃないの」

「まあまあ。彼らには大事な事なんですよ」


 呆れるようにため息をつくアタシ。なだめるような聖女ちゃんの言葉を聞きながら、早く始まんないかなぁと愚痴った。


 ちなみにアタシが攻撃しないのは親切とか空気読んでるとか、そう言うことではない。基本、先手必勝なアタシだけど青悪魔戦に関しては相手の出方を窺う必要があるのだ。


「神に祈る時間は終わりだ。いざ、死力を尽くして互いの正義のために戦おうではないか!」

「この剣、天と乙女に捧げよう! そして勝利をわが手に!」


 青悪魔の口上と共に戦闘開始。天騎士おにーさんが青悪魔に特攻し、斬りかかる。


「悪魔が神に祈るとか正義とかいうのはどーなのよ」

「まあまあ」

「神や正義を看板に掲げるテロリストもいるのですから、ある意味正しいのでは?」


 アタシのツッコミに応える聖女ちゃんとおねーさん。


「【ホーリー・クロス】!」


 天騎士おにーさんが放つのは【聖剣技】のレベル8で覚えられる【ホーリー・クロス】。聖属性攻撃の二連撃だ。単体攻撃としてもトップレベル。高レベルのステータスも相まって属性関係なしに有効打になる。


「天罰、覿面ッ!」


 弱点は技を使った後にわずかに硬直時間があるぐらいだけど、威力を考慮すれば問題ないレベル。っていうか硬直時間てわざわざポーズを決めてるからなの? バカなの?


「朝の赤光、昼の陽光、夜の灯。赤く紅く朱く世界よ染まれ。溶岩の蛇よ蠢き這いずり世界を包め」


 青悪魔もぶつぶつと何かを言い始める。同時に四本の腕に集まる赤い光。【メギドフレア】。デーモンが使う広範囲の炎魔法よ。アタシなんかが食らえば、一発で燃え尽きちゃうぐらいの威力を持ってるわ。


「稲妻は千里を走る。天より飛来し白き槍は夢幻を駆ける駿馬とならん。滅びの足跡をここに」


 腕に【メギドフレア】の赤い光を展開しながら、青悪魔の口は次の呪文を唱えている。雷属性の【雷霆槍】。三方向に雷を放つ貫通魔法よ。<麻痺>のバッドステータスがあるので、ガチガチ聖属性で固めたパーティもこれで雪崩れる可能性がある。


 これがブルーバロンの最大の特徴。【連続詠唱マギ・ライン】高レベルの広範囲魔法を連続で唱えてくるわ。一発一発が戦況をひっくり返しかねない威力だから、油断ならないボスよ。


「複数の腕による高速呪文展開! 聞きしに勝る魔道の妙!」


 とか言ってるのは天騎士おにーさん。だから喋ってる間に攻撃しろってーの。


「加減はせぬ。侮りもせぬ。魔道の極みを知り、圧倒的な戦力差を知るがいい。そしてあの世でこの戦いを誇るがいい。無限の魔力、夢幻の魔術。虹さえ霞む色とりどりの戦場を!」


 赤く、黄色く、青く。様々な魔術の光が乱舞する。塔の部屋内は青悪魔の魔法が乱舞し、その光が耐えることがない。破壊の爪痕は深く、巻き込まれれば並の人間など骨すら残らない。


「まあ、属性攻撃なんでアタシには効かないんだけどね」


 でも炎で雷で水で光で闇なら、アタシには関係ない。【早着替え】+おねーさんの【ランウェイ】で属性防御はばっちりよ。ナタの時と同じパターンね。相手の属性に合わせて服を着替え、ノーダメージ!


 ついでに言うと、青悪魔の攻撃パターンは決まっている。最初の攻撃が6種類あり、そこからは決まったパターンで魔法を展開する。だから最初の攻撃だけは待つ必要があったのよ。


「な、なんだと!? 属性相性に則った連続詠唱マギ・ライン。東洋の五行相生を取り入れた我が魔道式に防御を合わせるとは……!

 !?」


 まさかゲーム知識で知ってたとかわかる筈もないでしょうね。やーん、知識マウントたのしー。後は音ゲー感覚で服を【早着替え】しながら【まねっこ】でコピーした聖属性でぶん殴るだけ。


「厄介なのはこの娘か。者ども、全力をもってこの遊び人を止めろ!」

「させません。貴方達の相手は私です!」

「愛するパートナーを守るために果敢に魔に挑む姿! その心はまさに戦場の聖女! さあ、その姿をとくとご覧あれ!」


 青悪魔は配下のデーモンてアタシを倒せと命令するけど、それをさせじと聖女ちゃんがデーモンを止める。おねーさんの【光の演出】で聖女ちゃんにヘイトを集め、アタシに向かわさないようにしていた。


 戦術は単純。天騎士おにーさんはボスに全力突撃。あたしも服を入れ替えながら【まねっこ】した聖属性で攻撃。聖女ちゃんはおねーさんをかばいながらデーモンを抑える。


「右の柱に走った後で、次は後ろ! 青悪魔が黄色く光ったら全力で扉に向かって走って!」


 青悪魔の魔法攻撃範囲は熟知している。聖女ちゃんとおねーさんに矢次に指示を出し、その範囲外に移動してもらう。二人はアタシの言うとおりに移動し、アタシも服の効果で青悪魔からの攻撃は効かない。


 で、天騎士おにーさんは、


「おにーさんは自力で耐えて。信じてるから」

「信じてる……! うおおおおおおおおおお! 分かった! 貴女の信頼に応えよう! この剣にかけて!」


 天騎士の高HPと聖鎧の属性カット効果を信じての発言なんだけど、なんか妙に気合が入った答えが返ってきた。聖女ちゃんの『これだからトーカさんは……』的なため息があったんだけど、なんなんだろ?


 ともあれパターン入ったらもう一方的。さすがにバステ抵抗率が高くて、ウェンディゴの視線による<恐怖><喪失>はかからないけど、それでもアタシ達が負ける要素はないわ。


 天騎士おにーさんの高火力な聖属性攻撃もあってか、ガリガリ青悪魔のHPは削れていく。パターン崩したらそのまま負ける流れだけど、アタシがそんなヘマするわけない。そして――


「これで終わりだ、ドグナデヴィア男爵!」

「我が魔道、ここに潰えたりぃぃぃぃぃぃッ!」


 天騎士おにーさんのライトニングバスターが、青悪魔の胴を薙ぐ。その一撃を受けて、青悪魔は倒れ伏した。青悪魔の敗北と同時に、お供のデーモン達は消えていく。


<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>


 レベルも一気に上がったわ。やっぱりダンジョンとボスは経験効率がいいわね。


「ドグナデヴィア男爵……恐るべき相手だった。一歩間違えれば倒れていたのは俺だったかもしれない。しかし、紙一重となったのは仲間との絆――」

「よーし、そんじゃドロップタイム! レアアイテムこーい! ……よし『悪魔のカード』来たぁ! あとは――」


 なんか拳を握って涙してる天騎士おにーさんを無視して、青悪魔のドロップをあさるアタシ。確定ドロップの『青炎の角』はおにーさんに渡すとして、他のアイテムはいったんこっち預かり。分配は落ち着いた場所でやるとして、ドロップ回収を――してたら赤ちゃんがいた。


「ばーぶー」


 …………は?


 頭の中が疑問符で埋まる。青悪魔のドロップをあさっていたら、いつの間にか赤ちゃんを抱いていたのだ。まるで青悪魔のドロップ品とばかりに。


「あの、トーカさん、それは……」


 聖女ちゃんが赤ちゃんを指さし、尋ねてくる。どういうことか説明してください、ってことだろうけどあたしも説明が欲しい。


「アタシが聞きたいわ。……見なかったことにして、ここに置いていこうか?」

「さすがにそれは……」


 うん。言ったアタシも、それは酷いと思った。


「あたち、かみちゃまでちー」


 そんな赤ちゃん言葉を聞きながら、途方に暮れるアタシであった。

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