5:メスガキは疲れたり笑ったりする

 天騎士は名前に騎士とあるように、基本的には前に立って攻撃するジョブ。


 アタシと聖女ちゃんの二人が悪魔にダメージを与えれるのは、ひとえに聖属性を付与できるからだ。素のレベルもあるけど、属性による弱点攻撃がなければ遊び人や聖女と言った後衛職では歯が立たない。


 まあ何が言いたいかと言うと、きちんとしたダメージディーラーがきちんと相手の弱点を突くとどうなるか。


「刮目せよ、これが天の一撃! 【エデンスラッシュ】!」

「み、見事なり天騎士ルーク! 我が闘技、破れたりぃ!」


 天騎士おにーさんの一撃で倒れるデーモン。ホント、無双状態である。


「フラビゴリデ! 貴様もまた、戦友ともであった……! その闘技、我が天剣技の一部として生きるだろう!」

「経験点になるだけでしょ」


 剣を掲げて感涙する天騎士おにーさんに、冷たく言い放つアタシ。


「でもやっぱ天騎士いると楽ね。悪魔族との相性ばっちりだもん。聖剣だったらなおよかったんだけど」

「貴女から賜ったこの剣を聖なる剣にするために、頑張る所存! その際には、再び剣を捧げましょう!」

「えーと、うん。天騎士が聖剣持つのはいい事なんじゃない?」


 W聖属性攻撃でダメージマシマシになるし。そんな理由で頷くアタシ。その答えに深く頷くおにーさん。


 ここはアルビオンのダンジョンの一つ、『時計大橋跡』。その名の通り、かつて建てられた巨大な橋と時計塔が舞台のダンジョンよ。デーモンの沸き具合もダンジョン外より多く、複数に囲まれることもザラである。


 双子の時計塔とそれを繋ぐ橋。そのそれぞれの頂上に赤い悪魔と青い悪魔がボスとして陣取ってる。アタシ達がいるのは、青い悪魔のほう。そいつが落とすアイテムに用事があるのだ。


「ブルーバロンのドロップ品『青炎の角』はおにーさんにあげるわ。その他のレアアイテムはアタシ達が優先で」


 そう言う約束で結成されたパーティ。おにーさんもそれに了承し、今回のダンジョンアタックになった。言ってもパーティを組んでいるのはアタシと聖女ちゃんとおねーさんの三人だ。


『レベル差が15以上離れたキャラとはパーティを組むことができない』……そんな<フルムーンケイオス>の仕様がある。天騎士おにーさんのレベルは85で、レベル73のアタシと聖女ちゃんとはパーティを組める。だけど、おねーさんのレベルがこれに引っかかった。


「すみません、足手まといで……」


 おねーさんのレベルは60。いろいろ相談した結果、天騎士おにーさんはソロ。アタシ達三人がパーティを組むことになったのだ。


「むしろあの短期間で60まで上げたのはすごいわよ」

「がんばって服を作りましたから」

「主に子供の?」

「当然です!」


 冗談がてらに聞いた言葉に興奮気味に返されて、アタシはちょっと引いた。でも仕事になると『病気』がなくなるから、変な事はしてない、よね? きっと。


 ともあれ、ソロ+3人パーティの構成で時計大橋を進む。大橋を渡り切って、時計塔内に。ここから機械仕掛けの塔の中を登っていくことになる。


「よくぞここまで来たな、人間たち。我が名は時計塔の守り手ベベガボナド! 我が稲妻はまさに電光石火。それを恐れぬならかかってくるが――めぎょ」

「うっさいわね」


 うだうだ喋っているデーモンに【まねっこ】で聖女ちゃんの【聖体】を付与したアタシの攻撃が叩き込まれる。『ウェンディゴの視線』が光り、そこから<恐怖><喪失>が込められた呪いの光線が飛ぶ。当然【笑裏蔵刀】でクリティカル攻撃にして。


「でんこうせっかぁ? なにがはやいのかなぁ、オ・ジ・サ・ン。あ、人には言えないことが早いの? はずかしー」


 その後聖女ちゃんとフルボッコにした後で踏んづけるアタシ。うーん、絶好調。おねーさんの【ランウェイ】で聖女ちゃんの聖衣ローラも強化されてMP効率も上がってる。絶好調ね。


 まあ問題は、


「相手の名乗りの途中で攻撃をするのは騎士として――!」

「はいはい。アタシ騎士じゃないんで」

「ぬぬぬ。あと倒した相手を足蹴にするのは――!」

「敗者は身ぐるみはがられる運命なの。イヤならアタシに戦いを挑まなけりゃいいのよ」


 と、アタシの行動に口を出してくる天騎士おにーさんがいることとか。


「キッズデーモン! 礼儀正しく一礼した後で苛烈な一撃を加えてくる容赦のなさ! 優しく甘い声で死を告げられたら、それだけで昇天してしまいますぅ!

 そして久しぶりに見るトーカさん、生意気ぶりがパワーアップして大変麗しゅう……。宝石片手に見下すような視線で攻撃する様はまさに幼き女王! あ、クイーンオブハートに着替えてくれません? でもあの服であれをやられるとワタクシの理性ががが! しかしガチ女王姿のトーカさんも見て見たい! 踏んで!」


 と、鼻血を抑えながら息荒く興奮するロリコンおねーさんがいることである。


「狩りは絶好調なのに、なんで別のところで疲れてるんだろ」

「人が多いといろいろ問題も増えますからね」


 アタシのため息に応える聖女ちゃん。


「人の数だけ信念や価値観や思想があります。自分に合わないことと折り合いをつけることが多様性を認めるということですから」

「わかってるけど、疲れるのよー」


 別に天騎士おにーさんの考えが間違っているとか、ロリコンおねーさんが犯罪だとかいうつもりはない。……おねーさんは時々そう言ってもいいかもしんないけど。


 むしろ、アタシの行動の方が世間一般から見たら疎まれるんだろうことも自覚してる。なんで改めろとかアタシにあわせろとか、そんなことを言うのは筋違いだ。でも疲れることは疲れる。愚痴るぐらいは許してほしい。


「アンタはどーなのよ。価値観違う相手がうっとうしいとか思わないの? ここに来るまでも、結構不満げだったし」

「私と真逆の価値観を持つ人とずっと一緒に旅してきましたから。トーカさんて言うんですけどね」


 そーいえば、そうでした。この子とアタシの価値観正反対。


 ……でも別にこの子と一緒にいるのは別に不快じゃないのよね。最初は愚痴てたけど、一緒にいるうちに慣れたって言うか。むしろいないと困るって言うか穴が開くって言うか。……あくまで狩り効率の面で。


「今回の件も別にルークさんが嫌いと言うわけではなく、むしろ個人的には好印象ですし」

「たしかに真面目なアンタと騎士道精神まっしぐらなおにーさんはいい感じかもね」

「現実の騎士は領土を強奪して戦争で人質とって、それでお金稼いでいたんですけどね」

「何それ、蛮族じゃない」


 あはは、おかしー。けらけら笑うアタシ。


「勇気ある侵入者よ。よくぞここまで来た。このルヤドバアラがその勇気に応えよう。さあ、名誉ある一番槍は誰ぞ!」

「ルヤドバアラ! その名乗りに天騎士ルークが応えよう! わが剣はライトニングバスター。乙女より捧げられた雷光の名剣! この一太刀、騎士の思いが込められたと知るがいい!」


 とかやってると、またデーモンが沸いておにーさんがそれに相対してた。名乗ってる間に攻撃すればいいのに。


「ところでトーカさん。ルークさんの名乗りに思うところはありません? 『乙女より捧げられた』の件とか」

「別に。あの剣はあげたんじゃなくて売ったんだけど、ってぐらい?」

「……ホント、その方面には無関心なんですね」


 何か難しい表情をする聖女ちゃん。安心したのか、可哀そうなのかよくわからない顔だ。


「なんなのよー。どの方面?」

「気にしないでください。それこそ疲れる話なんで」

「ああ、変わらぬお二人の仲に尊死しそうです……!」


 追及するけど、聖女ちゃんは応えるつもりはないらしい。そして胸を押さえてるおねーさん。だからなんなのよ。


「ここは魔が支配する地。この地を奪い返さんとする猛者共よ、汝らの敵はここだ! このカドレニクァがお相手する!」

「ったく、わざわざやられに来るとかざこの頭はどうなってんのかしらね」

「彼らからしたら、私達が敷地内に乗り込んだんですけどね」


 現れたデーモンに向きなおるアタシ達。繰り返すけど、狩りは絶好調。負ける要素なんて、何一つない。


 このままレベル上げつつ、ブルーバロンまで一直線よ。

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