4:メスガキはパーティを結成する

「遊び人トーカ! それに聖女コトネ! これは何という運命! この魔が支配する地で二人に出会うなど偶然とは思えない! まさに神の導きだ! 正義を貫くこの俺に与えたもうた潤いに感謝の祈りを捧げる!」


 依頼人のおねーさんを迎えに来た天騎士おにーさん。アタシ達の部屋をノックしてはいり、アタシ達の姿を確認すると大声で再会を喜んだ。


「あ、うん。好きにして」

「お元気そうで何よりです」

「チャルストーンの完全復興はまだまだ先だが、順調に進んでいる! できれば二人も一度遊びに来てほしい。町の人達も二度街を救った君たちに会いたがっているぞ!」


 悪魔の誘いに乗って暗黒騎士になってチャルストーンを襲った天騎士おにーさん。その復興のために護衛を始めとしたさまざまな仕事をこなしているという。おねーさんの護衛もその一つだとか。


「悪魔が支配するアルビオンに向かうと聞き、彼女の護衛の為にはせ参じた次第。しかしその先でキミたちに出会うとは。天が定めた運命と言うのがあるのならあ、まさにこの事!」

「いや、単に聖属性攻撃できるからいい狩場なだけよ。運命とか神様とか知ったこっちゃないわ。アンタもそうでしょう」


 天騎士は【聖剣技】と呼ばれるスキルがある。そのレベルを上げることで得られるアビリティは全て聖属性攻撃だ。その剣技と聖属性武器と組みわせることで、聖属性が弱い悪魔族には絶大なダメージが与えられるのだ。


「でも、聖剣はないみたいだけど」


 チャルストーンでの事件の後、天騎士おにーさんは自分の聖武器を担保にお金を借りて街の復興に当てたのだ。残った武器はその際にアタシが売り渡した稲妻属性の両手剣、ライトニングバスターだけ。その大剣は今背中に担いでいる。


「うむ。なんとか聖鎧シャッセは買い戻した。しかししばらくはこれでいい! 貴女からもらったこのライトニングバスター! これを天雷剣タケミカヅチにすると誓ったのだ!」

「あげてないわよ。普通に売っただけだからね」


 天騎士おにーさんの武器は、アタシが売った雷属性の両手剣ライトニングバスターと、聖なる鎧シャッセ。天騎士にも【聖武器】スキルがあり、聖女ちゃんのように【加護】を持ってれば聖武器装備で防御力が跳ね上がる。武器も聖武器ならレベル6で手に入る【聖伐】で攻撃力も上がるのだ。


 要約すると、ガッチガチに聖武器で固めたら無茶苦茶強いんだけど、今は鎧しかない。なんでちょっと片手落ちなのだ。


「まあ、ライトニングバスターを天雷剣にして聖武器にしないと【聖伐】発動しないもんね。だからブルーバロン倒したいのはわかるわ」

「それだけが理由じゃないんでしょうけどね」


 アタシの頷きにため息をつく聖女ちゃん。この人はわかってないなぁ、というため息だ。


「なによ。何かアタシ間違ったこと言ってる?」

「いいえ。私もそこまで無粋じゃありません」

「? とにかくそんな状態でよく『時計大橋跡』に挑もうとしたわね。ふつう死ぬわよ」

「ああ、迫るデーモンたちと正々堂々と一騎打ちをし、何度か勝利したもののこれ以上は無理と敗走したのだ。しかし悔いはない! 良き戦いだったのだから……!」


 あー。確かに天騎士おにーさんとあのデーモンとは相性がよさそうだ。お互い名乗りあって、いざ尋常に勝負! ってな感じで殴りあいそう。そして倒れた後も健闘を称えあってそう。


「ガグドレッバ! ルキシエンア! ググワボイド! 名前を挙げればきりがない! 敵同士でなければ良き戦友ともとして肩を並べられて戦えただろう……!」

「相変わらず熱血ねー」


 体育会系のノリにはついていけないわね。まあ勝手にやってちょうだい。


「そう言えば、君たち二人はどうしてここに?」

「アタシ達はレベル上げよ。デーモン相手に経験値稼ぎ。レベル80になるまでデーモンがっつり上げるわ」


 アタシの言葉に眉を顰める天騎士おにーさん。


「むぅ。相も変わらず適正レベル以上の狩場で戦っているのか! 危険すぎるぞ!」

「大丈夫よ。聖女ちゃんもいるし」

「駄目だ! 君たちのようなかわいい子達を危険にさらすわけにはいかない!

 か、か、可愛いとか、そういう意味で言ったんじゃないぞ! いや、キミが可愛くないとは言わないが!」


 相変わらずのお節介&常識的な意見である。以前のタイマンもこれでもめたんだっけか? そしていきなりキョドるのはどういうこと?


「いやマジで大丈夫だから。あとアタシがかわいいのは当然だから」

「むぅ、いや、しかしだなあ……!」

「前の戦いで勝ったんだから、アタシのプレイスタイルに言及禁止。忘れたわけじゃないでしょ?」

「ぐぅ! しかし、騎士として……男として……!」


 手をひらひらとさせて言うと、閉口する天騎士おにーさん。


「いろいろあったんですねぇ、コトネさん」

「まあその、悪い人じゃないんですけど」


 その横でいろいろ察しましたよ、と言う顔のおねーさんとため息をつく聖女ちゃん。何をどう察したのかはわからないけど。


「そんなに心配ならついてきなさいよ。一度見れば安心するわ。

 なんなら一緒にパーティ組む?」


 いろいろうざったいので、安心させる意味でそういうアタシ。一度アタシ達の狩りを見れば、安心するだろう。ストーカーをするような性格じゃないだろうけど、このままうじうじされるよりましだ。


「ほ、本当か!?」


 アタシの言葉に一気に明るくなる天騎士おにーさん。


「……え?」

「あの、トーカさん。それはその……」


 そして一気に表情が変わる聖女ちゃんとおねーさん。


「え? なんかまずいこと言った?」

「いえその……まずくはないんでしょうけど。その、彼の気持ちを考えると、そして私もいろいろと許容できないことも、いえその、ルークさん自身が嫌いではないんですが」


 悶々とした表情で言いつのる聖女ちゃん。なんか歯切れ悪いのはなんなんだろうか?


「あー。えーと、そうそう。彼はワタクシの護衛ですから、二重契約と言うかそういうのはいろいろと問題があるというか」


 そしておねーさんは少し考えた後にそう言った。確かにおねーさんが雇った護衛を勝手に借りるのは問題あるわね。


「そっかー。じゃあおねーさんも一緒に来る? キッズデーモンっていう子供デーモンいるし」

「そそそそそそそのようなものにまどわされるわたわたわたわたくしでは!? ですがキッズデーモン……! 言葉通りの小悪魔な誘い! しかし百合幼女に挟まる男許すべからずの精神はその程度では!」

「久しぶりにおねーさんと一緒に戦ってみたいし」

「……はひゅ!? 今のはクリティカルヒット! あのトーカさんにそんなこと素で言われたら、ワタクシもう抵抗できません!」


 アタシの心からの言葉に、ずっきゅーんとなって陥落するおねーさん。


「一応聞きますけど、二人を入れる理由はそうすることでレベルアップの短縮をしたいとかそう言うことですか?」

「当然じゃない。ガチ聖属性の天騎士と服系サポートばっちりのおねーさんがいれば、ダンジョンだって行けるわ」


 二人をパーティに入れたい理由は、それ以外にはない。片手落ちだけど天騎士はデーモン戦では切り札になるし、おねーさんのサポートはアタシと聖女ちゃんにはがっちりはまる。


 もちろん、おねーさんと久しぶりに一緒に冒険したいというのも嘘じゃないわ。


「……だと思いました。トーカさんにその手の機微が分かるとは思っていませんし」

「どの機微よ?」


 沈痛な表情を浮かべて、もう何度目かになるため息をつく聖女ちゃん。だからなんなのよ、もー。


「気にしないでください。トーカさんの事ですから、ソレイユさんを危険に巻き込むような場所は選ばないでしょうし」

「当然じゃない。っていうかこのメンツなら『時計大橋跡』でも行けるよ。なんならブルーバロンたおしてもいいわ」

「そ、それは……貴女自らこの剣を天雷剣にする手伝いをしてくれるというのか! 貴女から剣を下賜してくれるということか!」


 アタシの発言に、妙に食いつく天騎士おにーさん。急に何なの? かし? お菓子のこと?


「あー。そうね。その方がおにーさんも強くなるでしょうし。聖属性と雷属性だから、かなり戦略にも幅が――」

「天騎士ルーク! 全身全霊をもって戦いに挑むと誓おう! 我が剣は貴女の剣。我が鎧は貴女を守る盾! 我が騎士道は、あらゆる艱難辛苦から貴女をお守りします!」

「お、おおう……。あー、うん。よろしく?」


 よくわからない熱血のノリと共に膝をつく天騎士おにーさん。全然ついていけないんだけど、何なのよこれ。


 自分で誘っといてなんだけど、もしかしたらいろいろメンドクサイことになったのかもしんない。ちょっと後悔し始めるアタシであった。

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