30:メスガキは集落でお願いをする
最後にいろいろあったけど、とりあえずはひと段落着いた。アタシ達は事の報告と安眠の為に集落に戻る。
男悪魔が撤退したことを集落に告げたアタシ達は、そこから感謝の言葉を受けた。念のためにこの集落はしばらく維持するが、状況を見て彼らはまた遊牧民として移動するようだ。
ちなみに鬼ドクロとは集落の前で別れた。村入り口のトーテムポール前で背を向け、背中越しに会話する。
「死神が人の輪に入るわけにはいかぬ。さらばだ、未来ある若人達よ。運命が交差する場所でまた会おう。
(訳:陰キャだから人がいる場所とか無理無理無理! またどこかで会おうねー)」
言ってアタシ達の返事を聞かずに去っていく。
「……結局、何だったんダ? あのドクロ」
「気にしたら負けよ」
斧戦士ちゃんの言葉に、肩をすくめるアタシ。
「適当なことを言ってその場に合わせてるだけの、知ったかぶりオジサンなんだから」
「あ。さすがに気づいてたんですね、トーカさん」
「まあね。悪い人じゃなさそうだから、適当に合わせてたけど」
呆れたように言う聖女ちゃんに応えるアタシ。言ってる意味はよくわからないけど、よくわからないから適当喋ってることだけはわかってた。指摘しなかったのは、盾の代わりになるかなぁ程度の認識だったけど。
「でもアレがいなかったら詰んでたし、結果論だけど居てよかったんじゃない?」
少なくとも鬼ドクロがいなかったら<死呪>の【まねっこ】はできなかったし、高レベルの即死キャラだからこそ死神を一閃できたのだ。そこは感謝しないと。……それ以外はいてもいなくてもよかったけど。
ともあれ、集落への凱旋はアタシと聖女ちゃんと斧戦士ちゃんだ。特に斧戦士ちゃんはもともとこの集落の子で、捕らわれた経緯もあるから特に心配された。帰還したときに多くの人に迎えられ、抱きしめられたりしてた。
「ニダウィ!」
「よかった! 無事だったんだな!」
いろいろもみくちゃにされる中、微妙な顔をしているレベル15重戦士が遠くから見てるのをアタシは見逃さなかった。輪に混ざりたいけど、どんな顔をしていけばいいのかわからない。そんな顔だ。
「恥ずかしがってないで輪に混ざってきなさいよ」
「うェ!?」
「いろいろあるのは察してあげるけど、そんなことで怖気づいてたらあの子の背中は追えないわよ。それともずっと遠くから見てるだけでいいの?」
うじうじしてる背中を叩くアタシ。いろいろ悩んだ末に、ソイツは斧戦士ちゃんの方に走って行く。好きな子に意地悪する男子とか、子供よね。
「ま、どうなるかはアタシの知ったことじゃないけどね」
「そうですね。でも素直になるいい機会だと思います」
今までちょっかいかけていたのも、行為の裏返しだったのかもね。実際知ったことじゃない。でも下手にこじらして、斧戦士ちゃんが困るのもアレだし。
そして集落の代表者として、斧戦士ちゃんパパがアタシに話しかけてくる。
「親として、我が娘を助けてくれて感謝する。そして悪魔の侵攻を止めて、この山を守ってくれたことは、この地に住む生命すべてを代表して感謝する」
言って集落全員がアタシに頭を下げた。ちょっとびっくりしたけど、そこに悪意はない。
「我らにできることなら何でもしよう。生涯かけて、この恩を返すと誓おう」
「そんな。そこまで感謝されることでも――」
「じゃあ、お願いがあるんだけど」
何でもするという集落の人たち。それを断ろうとする聖女ちゃん。だけどアタシはそれを止める。確認したいことがあるのだ。
「……まさかとは思いますけど、変な事を頼むつもりじゃありませんよね?」
アタシの言葉に、横からぼそりと問いかける聖女ちゃん。
「アンタ、アタシを何だと思ってるのよ。大体、変な事って何?」
「レアアイテム狩り? のために人員が欲しいとか」
「むぅ……。ちょっと、ときめいたわね」
人海戦術でレア狩り。確かに悪くない。この子、アタシの欲しいものを的確についてきやがるわね。
でも違う。そして聖女ちゃんの言うように、変な事ではあった。
「この山の頂上に行かせて」
アタシの提案に、ざわめく集落の人たち。
神、悪魔、そして
今回アタシはその一端に触れた。魂だけの状態で
あの男悪魔を捕らえた黒い手。あれが
誰も踏み込まない聖域。そこにもしかしたら神がいるかもしれない。ゲームでも入れなかった場所なら、可能性はゼロじゃない。そんな藁にも縋る可能性。
「それは――」
集落の人達からすれば、アウタナの山は聖域だ。踏み入れてはならない神の住む場所。その入り口を守るために彼らは結束したのだから、そこに入りたいというアタシの願いは受け入れがたいのは間違いない。
「いくら集落の恩人とはいえ……」
「悪魔を倒した英雄なのは認めるが……」
意見は基本否定的だった。アタシ達への感謝は在れど、それは許していいものかどうか。そんな空気。
「トーカなら、大丈夫ダ。ダーが保証すル」
そんな空気の中、斧戦士ちゃんはそう言った。斧戦士ちゃんだってこの集落の人間だ。価値観的には他の人と一緒で、山の頂上を守るべき聖域と思っているのに。
「確かにトーカは部族の人間じゃナイ。口も悪くテ、素行もあまりよくなイ。卑怯な戦いが中心デ、戦士の誇りなんか欠片もナイ」
「……ここぞとばかりにディスられてない、アタシ?」
「まあまあ」
集落の人達を説得する斧戦士ちゃんの言葉に若干の悪意を感じるアタシ。確かに真正面から戦うとかアタシのスタイルじゃない。安全を確保して相手を罵りながら余裕で勝つ。誇りとか確かにないんだけど。
「デモ、トーカはけして仲間を見捨てなイ。どんなことがあってモ、どんな目にあってモ、困っている人を助けようと手を伸ばス。ダーはそれで助けられタ。部族のみんなヲ、悪魔から助けてくれタ」
まっすぐにアタシを見る斧戦士ちゃん。濁りない目で見られると、ちょっと目をそらしたくなる。こういうのは、苦手なのよ。
「ダーはトーカを信じてル。決して悪意で山の上に登りたいと言っているわけじゃないことヲ。皆が大事に想っている場所を穢すような真似はしないと信じてル。
だから、トーカ達が山に入ることを許してほしイ」
真摯な斧戦士ちゃんの言葉に、否定的な声は消えていく。その空気を悟ったのか、斧戦士パパが笑みを浮かべた。
「いいだろう。それがあなたへの恩返しになるのならワンブリーの名において入山を許そう。
明日にでも我が娘と共に山を登るがいい」
「っ!? ダーも!」
斧戦士パパの言葉に驚く斧戦士ちゃん。
「そうだ。お前は今やミュマイ族を代表する戦士。いいや、この集落でも一番の戦士だ。悪魔に挑んだお前は肉体も心も聖域に足を運ぶに値する戦士と言えよう」
「そうだ。ニダウィはその資格がある!」
「若く強い戦士に祝福を!」
「我々の誇りだ!」
斧戦士ちゃんを讃える声で湧き上がる集落。まあ当然よね。アタシがみっちり育てたんだし。
「さあ、今宵は宴会だ! 新たなる戦士の誕生と、永遠の同胞への祝福だ!」
「ヒャッホオオオオオオ!」
それから宴会が始まり、騒ぎは夜中まで続いた。集落の人達からかわるがわる木の実のジュースを飲まされたり料理を運ばれたり。そんな騒がしいバカ騒ぎ。
そして夜が明け、アタシと聖女ちゃんと斧戦士ちゃんはアウタナの山道を進む。
聖地と言われる、アウタナの頂上を目指して。
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