25:メスガキはいろいろ気づく
現状、アタシにできることは少ない。アビリティが使えないから手助けもできない。できることはせいぜい助言ぐらいだ。
アタシの知識で分かることは、仮面斧戦士ちゃんは人間属性への防御力を無視すること。つまり聖女ちゃんや鬼ドクロは防御力0状態で攻撃を受けることになる。聖女ちゃんがHPと聖歌の回復で抑えているけど、おそらく長くはもたない。
「コトネ……逃げ、ロ……。ダー、は」
「逃げません。私達は友達です。絶対に、助けます!」
「で、モ……このまま、ダト」
ベースが軽戦士なので一発のダメージは少ないだろうけど、攻撃回数が多いので驚異的だ。聖女ちゃんの回復量を上回る積み重ねでじわじわと追い込んでるわ。
誰よそんなふうに育てたのは。アタシだけどね!
「……てめぇ、なんで死なない」
そして死神男悪魔。即死攻撃で死なないドクロに驚いている。怒りを抑えるように低い声で問いかけた。
推測なんだけど、あの首を狩る攻撃は即死判定なんで、属性がアンデッドになってる鬼ドクロには効かなかったとかそう言うことだろう。アンデッドには即死が効かないって言うのが<フルムーンケイオス>の仕様だし。
「知るがいい、死神を騙る者よ。我が姿こそ真なる、死。ウサギの如く逃げるがいい。
(訳:で、で、で、できれば逃げてほしいなぁ。ボスっぽいから即死攻撃効かないだろうし。鎌は攻撃力高そうだから斬りあいたくないよぉ! あばばばばば!)」
刀を構え、男悪魔を見る鬼ドクロ。自ら仕掛けるようなことはしない。悪魔の事はある程度知っているのか、慎重になっている。その言葉を受けて、男悪魔はイラついたように叫んだ。
「逃げる!? この俺が逃げるだと……! ふざけるな、ふざけるな人間! 貴様らこそ、無様に泣いて許しを請う存在だろうが!
逃げられるなんて思うなよ。てめぇらはもうここから逃げられねぇ!」
笑みを浮かべて指を鳴らす男悪魔。その瞬間、村全体を包み込むように赤いドーム状の何かが形成される。壁のように外の情報を隔絶した。おそらく、悪魔が作った逃亡防止用の結界とかそういうモノだろう。
「正義がこちらにあるなど想いはせぬ。非道残虐も人の業。罪を負わぬ人はおらず、許しを請えと言われれば止む無き事だろう。
(訳:ここは闇狩人っぽくダークヒーローロールプレイだね。何に怒っているのかわからないけど、こういうときは曖昧にやればいいや)」
男悪魔の叫びに、冷徹に返す鬼ドクロ。悪魔は神に『ステータス』を奪われた。この世界の人間はその罪科がある。男悪魔はそのことを言っている。
「それでもヒトは生きねばならぬ。罪科を背負い、血を吐きながら生きていくのが奪った者の務め。心清らかである物こそ疵の痛みは深く、尽きぬ罰となるだろう。
(訳:とりあえずラノベで見たことを言ってみるテスト。罪とか罰とかよくわからんけど)」
「……トバリさん」
鬼ドクロの言葉に、息を詰まらせる聖女ちゃん。罪科、ということにいろいろ思うところはあるののだろう。……アタシは、何も言えない。手を伸ばそうとして、そっとひっこめる。今はそれにかまってる場合じゃない。そう言い訳して。
「はん、盗人猛々しいとはこのことだな! お前らは死ぬしかないんだよ! 圧倒的な悪魔の前に! 絶望して、泣き叫んで、俺を楽しませて死ね!」
鬼ドクロの言葉に苛立ちが募ったのか、大声で叫ぶ男悪魔。
これは――
「だったらかかってきなさいよ。魂狩? それが効かないんだから、直接殴ってくればいいじゃない」
「んだとこのガキ!?」
「できないんでしょ? あのリーンとかと同じで『許可』がないと自分からこっちに攻撃できない。リーンと違うのは、反撃はできるってこと?」
「…………っ!」
アタシの言葉に何も答えない悪魔。その沈黙が肯定を示していた。
「煽り続けて攻撃してこないってのはそういうわけ? 喋んなきゃ怪しまれもしかかったのに。あたまわるーい。生きてて恥ずかしくないの、天才さん?」
「きッ、サマ……!」
いきなり首斬られたりして驚いたけど、こいつもあの女悪魔と同じなんだ。なら弱点も同じ。自分から人間を攻めれない。だからモンスターを使って人間を襲うのだ。好きなところに現れて、強い力を持っているのならそんなまどろっこしいことはしなくていいのだから。
となると首を斬った行為は攻撃じゃない。ゲームで言えばイベントとかそういう類なんだ。一定の条件を満たすと発動するイベント。逆に言えば、条件を満たさなければ何のことはないイベント。
もっとも、その条件はよくわからない。数値がかかわってるらしいけど、アタシと鬼ドクロはその数値が『100』に達していて、斧戦士ちゃんは満たしてない。
ステータス上の数値? ないない。遊び人のステータスの低さは折り紙付きだ。100に達してる数値はない。そもそもステータスの数値が高いから死ぬとか、そんなのゲームとして酷すぎる。クソゲーどころかハメでしかない。
「そこに至ったか。死の道を歩むならその結論に至るは道理。知恵を回し、その先に進むがいい。
(訳:よくわかんないけど、相手の秘密を看破したっぽいね! ここはオレも知ってたぜロール! そして相手が動けないなら、怖くない!)」
言いながら歩を進める鬼ドクロ。刀を下段に降ろし、男悪魔を見ている。アタシは鬼ドクロに聞こえるように、小声で問いかけた。
「……で、あの死神もどきが言ってた『数値』ってわかる? アタシとアンタは100をこえてるっぽいけど」
「思いだぜ、汝が進んだ道程を。ワシの刃を。そこに答えがある。
(訳:知らない。なんでトーカちゃん考えて。ワシ、そういうの苦手なんで!)」
帰ってきたのはそんな答え。知ってるなら答えなさいよ、この厨二病。
アタシと鬼ドクロの共通点。んなもん知るわけないでしょ。出会ったのだってムワンガの森と湖と今ぐらいで、刃とか言われてもムワンガ相手に即死攻撃してたぐらいしか――
『死神ってよく知らないのよね。有名なんだけど』
『死を司る神は世界各国に存在ます。あの格好は『グリムリーパー』ですね。神に仕える農夫で、罪を犯した魂が悪霊化する前に刈り取って回収すると言われています』
『アタシいい子なのに首刈られたわよ。酷い話ね』
――罪。
『私は……多くの命を奪って強さを得ました。この強さは、歪んだ方法で得た強さなんです』
『アンタのせいじゃないわよ。大体アタシだって山賊とか人間モンスター倒してるんだから。経験点得るってことは命を奪うことと一緒よ』
『そうですね。でも、その人たちはクライン皇子に冤罪をかけられた人達。罪もなく、本来死ななくてもよかった人達です。……それを忘れるわけにはいきません』
…………罪。犯した罪は、ある。
例えば一般プレイヤーには見えない内部データみたいなものがあって、悪魔はそれを見ることができるとしたら? そのなかにそれが記録されていて、その数値が100を超えているとして――
となると斧戦士ちゃんが即死の条件を満たさなかったのは、納得できる。あの子とは弱いころからずっと一緒にいたし、戦ってきた。その戦いの軌跡を知っている。だから、分かる。
「気づいてしまったら、つまんない話よね」
気付いたことを事実と仮定し、脳内でやることを組み立てる。大丈夫、アタシは負けない。聖女ちゃんも、斧戦士ちゃんも。こんな似非死神なんかに負けてやるもんですか。
「10秒耐えて!」
「はい!」
アタシの言葉にうなずく聖女ちゃん。この子が頷いたんだ。だったらこっちは大丈夫。絶対耐えてくれる。
アタシはステータス画面を開いて、スキル欄を意識する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★ジョブスキル(スキルポイント:140→65)
【笑う】:Lv6
【着る】:Lv6
【買う】:Lv4
【遊ぶ】:Lv6→8
【食う】:Lv4
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【遊ぶ】を2レベル上げる。その瞬間に、ぞわりとする感覚が体を襲った。いつもの甘い感覚ではない。背後から這い寄られ、体中をつかまれる。そのままぞわぞわとかだらをまさぐってくる黒い手。足、太もも、背中、お腹、胸、首筋、頬、そして頭の中を犯してくる――
『あああ、あ、ああああ……!』
体はいつもの感覚に苛まれているのだろうけど、今のアタシは肉体がない魂状態。だからこそ感じる感覚。世界そのものに自分自身が変えられていく感覚。魂まで同化した『ステータス』を通して本来の自分ではない何かに組み替えられていく。
『はひ、し、しびれて……ひぐ、あ……、こわ、れりゅうぅ!』
振動が体中を襲い、耐えるとか言う概念すら許さないとばかりにアタシを揺り動かす。一瞬で頭が真っ白になり、それでも止まらない攻め。何をされているのかも認識できない圧倒的な暴力。それがアタシを、壊していく。
『んっっっ……ぁ、め……ら、めっっっ……ええぇぇぇぇ!』
――そしてアタシという魂は体中にまとわりついた手によって分解され、意識を失った。
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