24:メスガキは男悪魔に出会う

 鬼ドクロを咥えたアタシ達は、まっすぐに斧戦士ちゃんのいる場所に向かう。


 フィールドの一角。森の中にある破壊された村。壊れた家や焼けた木々が落ちている場所。かつてはここに営みがあっただろうことを示す場所。村を襲った動物系魔物が跋扈する場所ね。


 だけど今は何もいない。ここにいる存在に怯えて逃げたか、あるいは皆殺しにされたか。


「ここに、ニダウィちゃんが……」

「んでもって、あの悪魔もいるんでしょうね」


 パーティ画面のレーダーは奥にある建物を示している。かろうじて家の体裁を保っている建物。扉などなく、風が吹けばそのまま崩れそうなバランスだ。


「おいおいおい。何しに来たんだ、お前?」


 その家の前に、ヤツはいた。正確に言えば、それまでいなかったのにいきなり現れた。悪魔特有のいきなり登場だ。エフェクトも効果音もない。それまでなかった黒ローブがいきなり目に入る。


「貴方を倒しに来ました。ニダウィちゃんを返してもらいます」

「ニダ……? ああ、あの娘か。いいぜ、ご対面させてやるよ」


 聖女ちゃんの言葉に笑みを浮かべる男悪魔。指を鳴らすと、家の奥からゆらりと何かが現われる。二本の斧を持った褐色の少女。だけどその体は傷だらけ。そして顔には見たことのある仮面を被っている。


 ムワンガ族の仮面。アタシ達が散々倒したあいつらの仮面だ。そう言えば斧も両方ともムワンガアックスになっていている。女性版ムワンガと言えば通じそうな感じだ。


「殴っても蹴っても死にそうになってもなかなか『契約』してくれなかったからな。『ダーは負けない!』『トーカもコトネも、負けてない!』とか叫びやがって。

 首刎ねたやつが生きてるわけないだろうが、バァカ! 頭悪いんだよこのガキ! 弱っちい癖にわけわかんないこと信じやがって! お前らはクズでザコで生きてる価値ないんだから、とっととオレのコマになればいいんだよ! 俺をイラつかせやがって! 苦しめ! 悲鳴上げろ! 泣き叫んで俺を楽しませろ!」


 男悪魔は言って鎌で斧戦士ちゃんを殴る。容赦のない一撃に倒れる斧戦士ちゃんだが、ゆっくりと立ち上がった。その姿を見て、機嫌悪そうに唾を吐く男悪魔。


「しょうがないから、昔作った仮面をつけて黙らせたんだが……そうだよなぁ。お前を自分の手で殺せれば心が壊れるだろうな。ハッ! 俺って天才だぜ!」

「その程度で天才を名乗るか、三流」


 アタシと聖女ちゃんが声をあげるより早く、鬼ドクロが声をあげる。


「何だ、てめぇ? どこのどいつだ?」

「ワシを知らぬか。無理もない。いかなる魔眼をもってしても夜の深さを見通すには至らぬよ。

(訳:知らないのも当然ですよね。初見だし)」

「ああ? わけわからんこと言ってんじゃねぇよ」


 何やら因縁めいた事を言う鬼ドクロ。うん。確かにわけわかんない。


「友人同士に殺し合いをさせて心を堕とす。成程、友愛の喪失は心の疵となろう。

 しかしそれは疵。その価値を損ねることになろう。真に堕とすなら、愛ゆえに堕とすべし。

(訳:戦闘後悪堕ち、イイネ! でももっと尊いやり方があるよ)」


 一歩前に出て、語りだす鬼ドクロ。ちょっと熱っぽい語り。オタクが自分の得意分野を語るアレを感じるわ。


「傷つき弱めたところを堕とすなど三流の証。

 心の弱みを巧みに突くのは二流。

 快楽と引き換えに堕とすは一流。

 真なる悪堕ちは、心を満たして己の意思で闇に回帰させること。

 逢瀬を重ねて信頼を得、その存在の心の隙間を理解する。隙間を広げるのではなく満たし、涙と共に心を流す。悪魔こそ優しく微笑むのだ、三流。

(訳:快楽堕ちとかエロいけど、悪堕ちの真価はイチャラブ! 『ああ。これなら落ちても仕方ないな』と思わせる展開が尊いんだよ! わかれ!)」 


 なんかよくわからないけど、いろいろ熱がこもってるわねー。


「お、俺が三流悪魔だというのか……! リーンみたいにまだるっこしいやり方で時間かけるやり方にも劣るというのか!」

「理解できぬなら己が胸に問うがいい。見たもの感じたものが、結果だ。

(訳:あ、論争とか苦手なんで適当なこと言って切り上げよう)」

「見て、感じたものが……結果……っ!」

「まー、確かにほぼ瞬殺だったもんね。アンタの作ったヤツ」


 アタシの声に、体を震わせる男悪魔。どうやらこの悪魔にもアタシの姿は見えてないらしい。聖女ちゃんでも鬼ドクロでもない声に、驚きの表情を浮かべていた。


「だ、誰だ!? いや、どこにいる!?」

「誰って言われたらアンタに首切られたもんよ。一応、目の前にいるんだけどね」

「あのくそ生意気なガキか! ……馬鹿な、死んだはずだぞ!」

「自分で天才天才とか言っといて、殺し損ねてるんだから世話ないわよね。首切って殺したと思ってる相手が生きてるとか、どんな気分? ねえどんな気分?」


 動揺しまくる悪魔に、ここぞとばかりに言い放つアタシ。


「ふ、ふ、ふざけるなぁ! なんで生きてやがる! って言うか首!? そこに首あるだろうが! ステータスに死を刻んだのに、生きてる方がおかしいんだよ!」


 なるほどね。やっぱりこいつの首切り攻撃は物理的なダメージじゃなくて、ステータス書き換え攻撃なんだ。永続するバッドステータスを与えるとかそんな感じか。ステータスを受け入れているこの世界の人達なら、確かに死んでいただろう。


 と、なるとますます斧戦士ちゃんが首を刎ねられなかったのはわからない。あの子はバリバリこの世界の人間だ。生まれたときからステータスと共にあるはずなのに。


 首切り攻撃は一日一回の回数制限があるとか? あるいは、首を刎ねるには条件が必要? アタシにあって、斧戦士ちゃんにないものがあるとか?


「トーカさんは、生きています。おかしくなんかありません」


 はっきりと言い放つ聖女ちゃん。


「ニダウィちゃんの言う通りです。私達は負けません。当然、ニダウィちゃんもです。貴方に勝って、全部返してもらいます」

「ワシは闇。夜の足跡。故に理解できる太陽のまぶしさ。それを守るために、死を振るおう。

(訳:なんか戦闘開始っぽいので適当にカッコいいこと言っておけ。事情全然分かんないけどね!)」

「勝つだと? たかが人間ごときが、この俺にか! 笑えねぇ冗談だ!

 全員まとめて拷問して魔物にしてやるよ!」


 聖女ちゃんと鬼ドクロの宣言を鼻で笑う男悪魔。実際、スペックも特殊能力も見えない段階で勝ち筋は見えない。


「拷問? だから貴様は三流なのだ。クックック……。

(訳:拷問とかマジやめて!? 苦しいのヤダって言いかけてつっかえた! まじでやめて!)」


 男悪魔の言葉に笑う鬼ドクロ。


「殺さない死神とは、それこそお笑い草だ。名に死を冠するなら、苦痛与えず首を刎ねるがいい。それができぬなら恥をさらす前に冥府に居ねい。

(訳:死神コスプレしてるんだから、拷問やめて! 殺すなら楽に……いや殺さないで帰って!)」


 ドクロヘルムの表情の奥は見えないけど、小刻みに笑うように体を震わせている。……怖くて震えてるようにも見えるけど。


「言いやがったな。だったらてめぇの首から刈ってやる! オマエもあのクソガキ同様100超えてるからな!」


 鬼ドクロの言葉に怒りの声をあげる男悪魔。アタシと鬼ドクロが同じ? 100?


 とか考えている間に振るわれる死神のカマ。鬼ドクロと男悪魔の距離は離れており、カマの届く範囲ではない。カマは空を切り、そして男悪魔は笑みを浮かべた。


 聖女ちゃんの視線が鬼ドクロに向く。アタシを幽霊状態にした攻撃もこんな感じだったのだろう。当たるはずのない攻撃。なのにアタシの首は斬られたのだ。


「なにが冥府だ、このクズが! このオレを三流扱いしやがって。お前こそあの世で後悔するんだな!」

「よもやよもや、いまの準備運動が攻撃のつもりだったのか?」

「なっ……!?」


 鬼ドクロからの声に驚く男悪魔。


「馬鹿な!? 間違いなく【魂狩】攻撃は入ったぞ! 数値に間違いはない! なのになんで生きている!?」


 男悪魔は驚愕の声をあげていた。攻撃は入ったはずなのに、鬼ドクロの首はついたままだ。男悪魔の言葉から、鬼ドクロは即死攻撃の条件を満たしていたような感じだ。なのに、生きてる。


 しかも首はついている。ステータス系攻撃の影響をあまり受けないアタシでも首は斬られたのに。全く影響を受けていない。


「さてな。閻魔に嫌われたか? あるいは偽死神のメッキをはがせと言う勅命か?

(訳:なにがなんだかよくわからないけど、ここはドやるターン!)」

「メッキ……だと! オレは天才だ! 人間ごときが見下してるんじゃねぇ!

 行け『ムワンガジャガー』!」


 怒り狂う男悪魔。そのまま斧戦士ちゃんに命令する。仮面を被った斧戦士ちゃんは両手に斧を持ったまま、こっちに向かって走ってきた。


 世話やかすんじゃないわよ、ったく。サクッと戻してやんなきゃね。

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