23:メスガキは鬼ドクロと合流する

 いろいろ話し合った後、アタシ達は集落を出る。


 集落の人達はアタシ達への感謝と、そしてアタシや斧戦士ちゃんの心配の言葉をかけてきたがその辺は『急いでるので』ってことで適当に対応した。言ってもアタシは幽霊状態で見られることはないので、対応したのは聖女ちゃんだ。


「大丈夫です。皆さんは村の復旧と怪我人をお願いします。ニダウィちゃんが帰ってきたときに安心できるように」


 そう言ってトーテムポールの門を抜けるアタシ達。行先は――


「パーティ状態解除しなくてよかったわ。これがなかったらあの子の場所わかんないもんね」


『ステータス』に表示されるパーティ画面。そこにはお互いの位置関係が表示される。<フルムーンケイオス>でもあった仕様ね。基本固まって行動するからあんまり使うことはなかったけど、こんな形で役に立つなんて。


「急ぎましょう。ニダウィちゃんが魔物にされかねません」


 急ぎ進む聖女ちゃん。ちなみにカンオケは引きずっていない。アタシの体は<収容魔法>内にある。アタシがアイテム扱いされた、っていうのはイラっと来るけど。


 そして首の方は――


「……やっぱり、アタシの首も<収容魔法>に入れとかない? 抱えて走るの、辛いんじゃない?」


 アタシの首は聖女ちゃんが抱えていた。両手に抱くようにして、強く握りしめている。見た目とか結構シュールだ。事情を知っていても、いろいろ怖い。集落の人達も困惑した顔してたし。


「イヤです」


 んでもって、聖女ちゃんは何度言ってもそれを拒否する。頑固モード発動中だ。いつもの『人を助けたい』とかよりも聞く耳持たない。


「見た目的にもアレだし。アタシも自分の首を見るのはちょっとホラーだし」

「イヤです」


 自分の首を抱えて走るこの子の姿は、控えめに言って怖い。鬼気迫る表情というよりも、追い詰められている感じ。首を捨てたり手放したりしたら、世界が終わると錯覚しているようなほどだ。


「トーカさんがいなくなったみたいでイヤなんです」

「アタシここにいるし。見えてないんだろうけど」

「当たり前です。いなくなったら、泣きますから」


 パーティ画面の位置関係情報に、アタシの情報はない。聖女ちゃんの位置情報にもないようだ。この情報の中では、アタシは『存在しない』ことになっている。そう言うこともあって、定期的にこの子はアタシに話しかけてくる。


 一度考え事するために10秒ほど思考に深けてたら、


『いますよね! トーカさん、いますよね! いるって言ってください! おねがい、お願いですから! ヤ、私、ああああ、トーカさん!?』


 ってぐらいにパニくられたので、ほとんど義務的に会話を継続している。


 実際問題として、アタシの状態は異常だ。<フルムーンケイオス>にもないバステ状態。首を斬られて、生きている状態。幽霊。喋る以外の何もできない状態。いろいろ試したけど、本当に見て喋るだけしかできないわ。


「わかったわよ。でもあの悪魔と戦うときは仕舞ってね。武器装備できないし」

「……はい、あいつは全力でぶっ殺します」

「やる気満々なのはいいけど、キャラ変わってなくない!?」


 低い声で殺意前面の聖女ちゃん。アタシの首を抱えていることもあって、マジで別人のようだ。実はこっそり悪魔にステータスいじられたんじゃない、ってぐらいに。


「やんなきゃいけないのは確かだけど、正直どうしたらいいのかわかんないのよね。いきなり首切られた以外の情報はないし」


 喋りながら思考するアタシ。実際問題として、あの男悪魔の事で分かっていることはそう多くない。


 見た目が黒ローブの鎌ってことは、『死神』とかそういう感じのモンスターなんだと思う。顔はドクロじゃないけど、あの格好は何なのかと言われれば死神だ。そしてそれに類するモンスターは<フルムーンケイオス>にはいなかった。


「死神ってよく知らないのよね。有名なんだけど」

「死を司る神は世界各国に存在ます。あの格好は『グリムリーパー』ですね。神に仕える農夫で、罪を犯した魂が悪霊化する前に刈り取って回収すると言われています」

「アタシいい子なのに首刈られたわよ。酷い話ね」


 とにかく警戒しないといけないのは、いきなり首を斬られるあの攻撃だ。防御もダメージもなく一撃死とか、シャレになんない。避けようにも気づいたらやられてたし。あんなの回避特化のアイドルさんや斧戦士ちゃんでも避けれな――あれ?


「……そう言えば、斧戦士ちゃんの首は狩られなかったわね」


 斧戦士ちゃんとあの男悪魔の戦闘の事を思い出す。襲い掛かる斧戦士ちゃんの攻撃を受けてた男悪魔。男悪魔も鎌を振るうけど、斧戦士ちゃんの首は斬られなかった。最終的にはMP切れでバフが切れて斧戦士ちゃんが負けたけど、首が斬られることはなかった。


「どういうこと?」


 あの男悪魔がこっちに手心を加えるわけがない。アタシは一撃死で斧戦士ちゃんはそうじゃないのは、なにか意味があるかもしれない。そこに付け入るスキがある――?


「……貴方は」


 突如足を止める聖女ちゃん。アタシもそれに倣って足を止め、聖女ちゃんの視線の先を見る。


 そこには、鬼ドクロがいた。鬼のドクロ仮面に黒い着流し。仮面で視線はわからないけど、アタシ達の方を見て無言て立っていた。


 そう言えば、ケルベロス? 倒した後にフラりと消えたのよね。アタシ達が急いで集落に戻ったからなんだけど。


「………………。

(訳:え? なんで首抱えて走ってるのこの子!? 死んでるの!? 怖ッ!? えーと、なんて声かけよう! お悔やみ申し上げ……いやいや、下手に刺激すると泣いちゃいそうだし!)」


 無言でこちらを見る鬼ドクロ。何を考えているのか、全く読めない。


 黒い着流しの夜叉ヘルム。それが黒い死神のローブを纏ったあの男悪魔を想起させる。聖女ちゃんもそう思ったのか、警戒心を隠さない声で問いかけた。


「今まで何処にいたかは問いません。何の用ですか? 私たちは急いでいるので、手短にお願いします」

「人の輪に交われぬのが死を告げる鳥の宿命。故に機会はこの時しかない。

(訳:陰キャコミュ障なんで、ワシは集落に近づけなかったんです。集落から出てくるの待ってました)」

「死を告げる鳥、と言うのは……天使の隠語ですね。サリエル、アズラーイール、ヴァルキュルエ……。機会と言うのはどういうことです?」

「博識だな。ならばそれを基に思考せよ。那由他の果てに、真理を得るだろう。

(訳:うわめっちゃ頭いいじゃんこの子。知識負けしそうだから誤魔化しとこう。っていうかそれだけ頭いいんだから、察して!)」


 そんな会話の後に、鬼ドクロは刀を抜く。


「火急の用ゆえに問答は不要。我が刃、我が死神、しばし汝らに預けよう。

(訳:陰キャにこれ以上の会話は無理! レベルアップとかなら付き合うよ)」

「……手伝ってくれる、と言うことですか? 貴方が味方かなんてわからないのに」

「ワシに信憑がないのは重々承知。しかし問答する余裕はなかろうて。

(訳:ですよねー。陰キャはキモいもんねー。でも本当にこれ以上の問答は無理! 勘弁して!)」

「……っ、それは……」

「そうね。ちょうどいいからついてきてもらうわ」


 鬼ドクロの言葉に迷う聖女ちゃん。アタシはその迷いを振り切るように言葉を放った。実際問題、人手は多いに越したことはない。即死特化でボス戦には役に立たない構成だけど、ザコ敵がいないとも限らないし。


 それにこいつがいたら『』が使えるかもしんない。【遊ぶ】のレベル8で覚えるあのアビリティが。


「……ほほう、首だけで喋るか。難儀な業を受けたモノよ。

(訳:シシシシシシャベッタアアアアアア!? 首!? この首が喋ってるの!? 推しが首になってしかも喋るとかマジ怖いんだけど! おおおおおおおおおちおちおちおちつけワシ。素数、素数を数えるだぁ!)」


 ドクロヘルムで表情は読めないけど、アタシの状態に対して短く告げる鬼ドクロ。気合を入れているのか、ぶつぶつと呪文のようなものを呟いている。


「急ぐわよ。アタシをこんな姿にした借りを返してやるわ」

「ええ。脳と心臓に杭を叩き込んでかき回してやります」


 アタシの言葉に低い声で答える聖女ちゃん。だから怖いんだってっ!

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