20:メスガキは集落に戻る
ケルベロス……っぽい何かを倒した後、アタシ達は集落に向かって走っていた。レベルアップはしたけど、ドロップ品とかあさってる余裕はない。
「どうしたんダ!? 何か焦ってたケド!」
「集落が危ないわ」
「別の悪魔の手先が、集落を襲っている可能性があります! 急いで戻らないと!」
短い説明だが、斧戦士ちゃんは理解してくれたようだ。頷き、足を速める。
前日にエキドナの襲撃があり、そして今日も集落近くでケルベロスと出会った。悪魔がアウタナの山頂上を狙っているというのなら、集落は確実につぶしたいはずだ。
トーテムポールのおかげで今まで集落は見つからなかったが、昨日エキドナは集落を見つけた。どんな手段で見つけたかはわからないけど、それにより悪魔は集落の正確な位置を把握したはずだ。だったら次の襲撃は本気で来るはず。
それがおそらくケルベロス。だけど悪魔が扱う封印された魔物がそれだけとは限らない。ここが戦力の注ぎどころとばかりに全戦力を費やすのが普通だ。
もちろんアタシの勘違いや考えすぎの可能性もある。エキドナとケルベロスが二体同時にこのあたりを探索し、偶々エキドナが見つけただけかもしれない。悪魔も
楽観的に考えることはいくらでもできるわ。だけど、
『魔が、来る』
鬼ドクロはケルベロスの襲来を予測していた。ならその考えは捨てたほうがいい。むしろ最悪を想定したほうがいい。その予測を裏付けるように――爆音が響いた。集落の方から聞こえる爆発音とそして雄たけび。
「集落ガ……!」
近づくにつれて状況ははっきりしてきた。入り繰りのトーテムポールは折れ、集落内部に張り込んだモンスターが2体暴れまわっていた。それを見た瞬間、こみ上げてくる嫌悪感。間違いなく、悪魔の生み出した魔物だ。
ともにエキドナやケルベロス並みにでっかい人間。だけどそのフォルムは不気味と言うかサイアクなぐらいに気持ち悪い。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:アルラウネ
種族:ベベYド876
Lv:ガウ%
HP:BTIKYK
解説:ねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむいねむい――
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名前:キュウキ
種族:FU2M7IT
Lv:~#&
HP:ゴNTW
解説:いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい――
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「きひゃあああああああああ!!」
アルラウネ、と表記されたモンスターは背中を丸めてた老人だ。体中しわしわで、眠そうな顔をしている。時折倒れそうになるけどその度に痛みに悶えて目を覚ます。何よりの特徴は、体中に巻き付いた植物の根と、丸まった背中にある巨大なツタだ。
背中から生えた無数のツタが蠢き、周囲を薙ぎ払う。植物が集落の人を傷つけ、血を吸うたびに人間は恍惚とした表情を浮かべた。その後で安らかに寝ようとするけど、狂ったように耳を塞いで暴れだす。その繰り返し。
冬虫夏草。そんなのを思い出す。虫に寄生するキノコ。
そして、
「いたいいたいいたいいたいいたいいたい!」
キュウキ、と表記されたモンスターは牛頭の人間。だけどそれよりも皮膚を突き破ってる骨が特徴的だ。体中から突き出た骨が、まるでハリネズミのように無数に生えている。突き出た部分からは血が流れ、それが歩いてきた地面を濡らしていた。
痛みから逃れるように暴れ、のたうち回るキュウキ。槍のようにとがった骨が、暴れるたびに周囲を破壊していく。まさに骨の嵐。骨はランダムで伸縮し、間合いを図らせない。キュウキ本人さえもコントロールできないのか、破壊の跡もデタラメだ。
「これは……見るに堪えませんね」
さすがの聖女ちゃんもドン引きしてる。そんぐらい見た目がおぞましい。気持ち悪く、痛々しく、何よりも――
「ねさせてええええええ! ころしてえええええええ!」
「いたいいたいいたいいいいい! もうやだああああ!」
当のモンスター自体がこの状況を望んでいない。
『正義の剣を受けよ!』
暗黒騎士おにーさんは本心じゃないとはいえ、一応は心のどこかでアタシに復讐したいという思いがあった。
『このラクアンはヤーシャから独立する。いずれヤーシャを飲み込み、そして世界を統一するのだ』
ナタは子供じみたわがままだけど、自ら望んで魔物の力を受け入れた。
この二体にはそれがない。心の中で臨んだ欲望に従ってるんじゃない。むしろ今を拒んでいる。望まぬ現状をどうにかしてほしいと叫んでいる。
『わたしの、こども……ようやく、あえる』
『でも、おおないっぱいぃぃぃぃ……』
『ごちそうさまぁ、おやすみぃぃ……』
エキドナもケルベロスも戦闘中は狂気じみて、死に際はむしろ安堵していた。魔物となった状況から解放されて、安らかだった。
「何なのよ、これ。悪魔って契約しないとダメとか何じゃなかったの?」
少なくとも自分で望んで魔物になった様子は感じられない。
だけどいまはそれを考察してる余裕はない。一秒ごとに状況は悪化していく。集落の戦士たちは二体の魔物に対応しているが、戦況は芳しくない。集落内に入り込まれ、戦えない人の避難も遅れている。
「行くゾ! トーカ、コトネ!」
「そうね。ここ潰されたらレベルアップの拠点なくなるもんね」
「相変わらず素直じゃないですね」
ナグアルとウェンディゴのレベルアップは美味しいし、そのためのHP回復拠点は大事だもん。アタシが頑張るのはそれが理由だ。そんだけで、ほかに意図なんかないんだからね。
「でもどうすル!? 二体相手はさすがに――」
「大丈夫よ。大体パターンは掴んだわ」
「パターン?」
そうだ、パターン。こいつらには決まった弱点がある。
「今は他の人達を退かせて。戦いの邪魔されたら厄介だし」
「避難誘導と回復ですね。わかりました!」
「任せたゾ、トーカ!」
アタシの言葉を拡大解釈する聖女ちゃん。別に集落の人達がどうなろうが知ったことじゃないけど、まあ殺した相手の分だけ強くなるとかいうギミックがありそうだし、死なないで引いてくれる分には助かるかな。うん。
聖女ちゃんはアルラウネに、斧戦士ちゃんはキュウキに迫る。聖女ちゃんは聖杭シュペインで<足止>し、斧戦士ちゃんは【夫婦剣】【分身ステップ】で回避力をあげて回避盾となって足止する。
「私達が足止めをします! 皆さんは今のうちに!」
聖歌で周囲の人のHPを回復させながら言い放つ聖女ちゃん。アタシ達の信頼は高くないけど、この状況で助けに入った人を悪し様に言う人はいないようだ。集落の人達はすぐに動き出す。
「ニダウィ……!」
「逃ゲロ、ハッスン。こいつはダーが引き受けタ!」
斧戦士ちゃんは腰を抜かした男に背を向け、そう言った。あ。こいつ今朝のレベル15重戦士じゃん。逃げ損ねた?
「うるさイ! 戦士としテ、戦って死んでヤル!」
「無理ダ。ハッスンじゃ、勝てなイ!」
「黙レ! 負けっぱなしデ、戦士の誇りを傷つけられテ、生きてられるカ!」
言って特攻しようとする重戦士に、
「悔しいカ? 戦士の誇りを傷つけられテ」
「当たり前ダ! 死んデ汚名を雪いでヤル――」
「ダーも、その悔しさは何度も味わっタ」
負けたこと。悔しい思いをしたこと。斧戦士ちゃんはそれを誇らしげな表情で認め、口にした。
「無能。役立たず。ザコ。その悔しさガ、ダーを支えタ。
斧を捨てそうになったことなんテ、数えきれなイ。ずっと生まれを呪っテ、生きてきタ」
その日々を、その辛さを、アタシは知らない。それは斧戦士ちゃんだけが持つ傷で、
「それでも斧を捨てられなかっタ。戦士として戦いたかっタ。ずっとずっと諦められズ、ダーは斧を振るい続けタ」
その傷こそが、今の斧戦士ちゃんの性格を構成したのだ。負けず嫌いで、向こう見ず。その傷をバネにして、その傷を楔にして、悪意をこらえたのだ。
「悔しさを認め、負けを認め、そこから初めて強くなれル。
ダーはトーカにそう教えられタ。その時から、悔しさはダーの力になったんダ」
『負けもその積み重ねの一つよ。どうして負けたのか。負けないためにどうすればいいのか。負けを認めない限り、その経験は生きてこないのよ』
……そう言えば、そんなことも言ったわね。あんなの適当に忘れてくれればいいのに。そんな笑顔でそんなこと言われたら、いろいろ恥ずかしいじゃないの。
「ニダウィ……」
「理解できなくてもイイ。今は生きロ、ハッスン! 弟たちヲ、守るンダ!」
レベル15重戦士が斧戦士ちゃんの言葉を聞いてどう思ったかなんてわからない。
だけど無駄な特攻はやめてくれたようだ。立ち上がり、自ら戦場から離れていく。
「ったく、偉そうなこと言ってくれるじゃないの」
戦闘圏内に人がいなくなったのを確認し、アタシは動き出す。
「アタシのレベルアップの邪魔するとか、万死に値するんだからね。瞬殺してあげるわ」
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