クズジョブの遊び人に転生したメスガキは、ゲーム知識で成り上がる! ~あは、こんなことも知らなかっただなんて、この世界のヒトたち頭悪いんじゃない? ざこざーこ。
14:メスガキは蛇女を打破……する助言をする
14:メスガキは蛇女を打破……する助言をする
エキドナ――上半身人間、下半身蛇のモンスター。
名前ぐらいはアタシも別のゲームで見たことあるけど、<フルムーンケイオス>にはいない。そもそもあれが悪魔が未使用データを使ったのなら、人間に融合させているはず。実は蛇のモンスターで、6本腕ナタみたいに形状が変化しただけとか。
とはいえ、あの6本腕と同じように考えちゃだめかもしれない。感覚的なものだけど、あのエキドナはナタとは違う気がする。見た瞬間の吐気が半端なかった。
ナタが気付かないうちに苦いものを飲まされた感覚なら、あれは見た瞬間に鼻につく感覚だ。醜悪さや悪意を隠そうともしない。変な言い方だけど、雑いイメージ。だからこそ一発で気づいたわ。順番が逆なら、ナタの違和感は気付かなかったかも。
戦闘に巻き込まれるか否か。そのギリギリ距離でアタシはエキドナを見る。行動パターン。特性。そして弱点。それを見るのが今のアタシの戦い。聖女ちゃんと斧戦士ちゃんに戦闘行為を任せ、アタシは見に徹する。
「聖なるかな、聖なるかな――」
聖女ちゃんの【人に善意あれ】が展開される。歌の範囲内にいる存在はHPMP自動回復。加えてバッドステータスの効果を無効化する。これは敵であるエキドナも含まれるけど、現状の被害を考えれば味方陣営を立て直すのが最優先。
「アナタは……?」
「味方です。それ以上の自己紹介は後で!」
癒される傷、そしてエキドナの矢面に立つその姿。聖女ちゃんの献身に集落の戦士たちは頷き、立ち上がった。敵ではないということを理解し、今はエキドナを倒すべしと武器を握り締める。
「ほわわー」
「ぷくー」
【守護天使】が毒で苦しむ人を【福音】で癒し、【使い魔】のドクハリセンボンが聖女ちゃんのHPダメージを幾分か肩代わりする。あの子の回復量と防御力を考えればそう簡単にはやられないだろう。
「攻撃はこちらが引き受けます。貴方達は戦闘不能者の離脱と攻撃をお願いします!」
「危険すぎる! あれは悪魔の使いだ。これまで何人の戦士が挑みやられたかわからない!」
「鱗も硬く、傷ついても死ぬことはない! おまけに多くの子を産み、こちらを圧倒してくる!」
「集落のモノが逃げるまで時間を稼ぐ。女子供は引っ込んでろ!」
――信頼を得た、とは程遠い言葉。心配する声。相手のスペックに圧されている声。あからさまに侮蔑する声。それを受けながら、あの子はエキドナを止める。聖杭で吹き飛ばし、倒れている人から遠ざけて。
「コトネはダーの仲間ダ! それを侮辱するのは許さないゾ!」
そんな声を封じるように、斧戦士ちゃんが叫ぶ。声こそ仲間の人間に向けてだが、顔と斧はまっすぐにエキドナに向けられていた。二本の斧を交互に振り回し、相手に斬りかかる。
時に交互に。時に同時に。斧戦士ちゃんの二本の斧は、まるで別の生き物のように動く。攻防一体。片側の斧が攻撃したときには、もう片側の斧は相手の攻撃を弾いている。回転と直線。斬撃と防御。止まることのない二斧のダンス。
「ココ、ダ!」
5秒ごとに継続される【分身ステップ】で相手を翻弄し、12秒ごとに体内を駆け巡る【疾風怒濤】のバフが嵐のように相手を攻め立てる。途切れないアビリティ。無駄のない流れがそこにあった。
「ニダウィ!?」
「父様! 兄様! ダーも戦いまス!」
「その動き……なるほど。良い師に出会ったようだな」
斧戦士ちゃんの動きをみて、そのオジサンは頷く。おそらくあの子が斧戦士ちゃんの父親なのだろう。兄と呼ばれた人たちも指で承認の意図を伝え、笑顔で成長を喜ぶ。
「エ? 師匠としては最低ダゾ、あの遊び人。性格と口悪いシ」
「アンタ、アタシが【ハロウィンナイト】でサポートしなかったらダメージ通らないこと忘れてるんじゃないでしょうね?」
「フン! 頼んだ覚えはナイ!」
斧戦士ちゃんがエキドナにダメージを与えられているのは、アタシが【ハロウィンナイト】でエキドナを人間属性にしているからだ。ムワンガアックスの人間属性の防御無視がなかったら、軽戦士のパワーではダメージが通らないんだから。
そもそも重戦士ですらダメージを通すのに難儀している。【兜割】を始めとした相手の防御力を一時的に削るアビリティを重ねてはいるのだろうが、それでも決定打には至らない。なんなのよこの仕様。ゲーム的にありえないわ。
――これは、もしかして?
「それよりモ、オマエはオマエの仕事をシロ!」
はっぱをかけるように叫ぶ斧戦士ちゃん。サポートなどいらない。それよりも突破口を早く見つけろ。そう言いたげに。何生意気言ってんだか。
「口が悪いのはアンタの方でしょ? 『トーカ様、だーはざこで撃たれ弱いからできるだけ早く弱点見つけてくれるとありがたいんですけど』って素直に言えば?」
「ダーは弱くナイ! ダーより打たれ弱いから後ろにいる遊び人に言われる筋合いはナイ!」
「なによこの川で転んだおまぬけ軽戦士!」
「ずぼらでわがままナ迷惑遊び人!」
「二人とも言い争わないでください! 今は戦闘中ですから!」
口喧嘩に発展するアタシと斧戦士ちゃんを叫んで止める聖女ちゃん。いけないいけない。ついいつものノリで。
とはいえ、ある程度のデータも集まった。こっから反撃開始よ。
「5秒後に尻尾のフルスイングが来るわ。【深い慈悲】に切り替えて!」
「はい!」
アタシの指示に合わせて、聖女ちゃんの聖歌が切り替わる。【守護天使】と合わせたWの広範囲防御バフ。高い魔力による聖なる守りが、周囲の人達を包み込む。振るわれた尻尾の一撃の衝撃は、その守りで防がれる。
「次は両手の口が呪文を唱えてくるから、回復重視! その後で両手を振り回すからね!」
エキドナが動くより前にアタシが指示を出し、聖女ちゃんを中心としてその対策をとる。最初指示を聞いてくれたのは聖女ちゃんと斧戦士ちゃんだけだったが、二人の働きを見て他の戦士たちもアタシの言葉に耳を傾けてくる。
なんで先読みができるかって言うと、気付いたからだ。
「こいつは知性なく暴れてるだけよ! 動物よりも頭悪いから、しっかり見て考えれば対処できるわ!」
このモンスター……エキドナには戦略がない。スペックに任せて動き回るバーサーカーなのだ。考えるというモノがなく、ただ一直線に突き進む。邪魔ものがいるから排除する。それだけの思考しかない。
ぶっちゃけ、無視すれば通り過ぎる嵐のようなものだ。それが人が住む集落に向かっているから無視できないだけ。
バカなので、行動パターンも基本一緒。攻撃されれば魔法で反撃し、多くで攻めれば尻尾でないでくる。鱗を通り抜けるほどの一撃には怪力を振るう。そう考えると、常時展開している<毒>もハッタリの類だ。
目が見えないから、基本受け身なのだろう。それが分かれば先読みも可能だし、ハメることもできる。
「もうすぐお腹を開くから、その中に集中攻撃! 子供の抑えは最低限でいいわ。鱗が硬いなら、直接体内を攻めるのよ!」
そして子供を生むサイクルもその中の一つ。一定時間ごとにお腹を開いて卵を出す戦闘ルーチン。有利不利なんて関係ない。時間が来たら、そうする。それだけの作業なのだ。
そしてそれこそが、最大の隙。最大の弱点をさらしている瞬間。異常な防御力とタフネスに付き合う理由はない。おそらく、ゲーム的にこれが正規の倒し方。シューティングゲームで言えば、ボスのコア的存在よ。
「こどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこどもこども――」
エキドナは口走りながら、自らのお腹を開いて産卵する。複数の卵が地面を転がり孵化する。だけど斧戦士ちゃんを始めとした戦士達は最低限の抑えを残し、エキドナが自ら開いた胎内に攻撃を仕掛けた。
「これで終わりダ!」
「アアアアアアアアアアアアアア! アアアアアアアアアアアア!」
文字通り、腹の中を裂かれる一撃。鱗による防御もなく、無防備に開け放たれた母の場所。そこを攻め立てられ、激しい悲鳴を上げるエキドナ。盲目の瞳から涙を流し、痛むお腹よりも届かないどこかに手を伸ばすように、集落へと手を伸ばしていた。
わたしの、こども……ようやく、あえる。
口がきけたら、そう呟いていただろう。エキドナの大きな唇はそう動き、そのまま動かなくなる。
「おおおおおおおおおおおお!」
「ヤッタ! 悪魔の蛇を、倒したぞ!」
斧を天に掲げ、勝利の雄たけびを上げる戦士達を見ながら、アタシは致命的な失策に気づいた。
「ああああ! アタシ全然攻撃してないから、経験点もらえなかった!?」
「……トーカさん、折角の感動のシーンなのに……」
頭を抱えるアタシに、なぜか冷たい聖女ちゃんのツッコミが飛んできた。
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