4:メスガキは仮面部族を狩る
ムワンガの森――
<フルムーンケイオス>のダンジョンの一つ。名前の通り、森が主体のダンジョンだ。出てくる敵は人間型モンスター。しかも――
「ワホォ!」
「ホロホロホロ!」
仮面を被って腰ミノをつけた原始的な部族達だ。この一帯は彼らのテリトリーであり、中に入ったものは容赦なく襲い掛かる。悪魔の作った仮面に体を操られているとか言う設定で、話し合いは通じない。
「ムワンガ族の森ダト!? 危険すぎル! 父様には近寄るなと言われていルンダ!」
とは斧戦士ちゃんの言葉。彼女たちの部族とも敵対しており、出会えば殺し合い確定の険悪な仲。近寄らないように言ったのはそれ以上に、斧戦士ちゃんの持つお守りがダンジョン内では効果を表さないことが大きいのだろう。
「じゃあここで待ってる? アンタがついてくるメリットはないから待っててもいいわよ。アタシとこの子だけで十分目的は達せられるし」
森の直前で叫ぶ斧戦士ちゃんに言い放つアタシ。ムワンガの森に行くのは、アイテムドロップの為だ。レアアイテムと言うほどじゃないので、少し戦えばすぐに手に入るだろう。斧戦士ちゃんは現状戦力にならないので、いてもいなくてもいい。
「……いや、ついていク。ダーの為に戦ってくれるのに、じっとしているのは良くなイ」
しばらく葛藤したのち、斧戦士ちゃんはそう答えた。
「大丈夫ですか? ニダウィちゃんを戦闘に巻き込むのは危険と思うんですけど」
「そこはアンタのタンク技術の見せ所よ。攻撃はアタシがするから、アンタは守りと回復に徹してて」
心配そうに尋ねる聖女ちゃんにそう言い放つアタシ。実際、ボス以外はそんなに苦労しない相手だ。とある厄介な能力で敬遠されるだけで。
「はい。ニダウィさん、私から離れないでくださいね」
「わかっタ」
「そんじゃ行くわよ」
掛け声とともに森に入るアタシ達。出迎えとばかりに、6人の仮面をつけたムワンガと邂逅する。
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名前:ムワンガシャーマン
種族:人間
Lv:62
HP:118
解説:仮面に魅入られしムワンガ族の呪術師。
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ムワンガには『シャーマン』『アーチャー』『ファイター』のモブと、ボスキャラの『ドラゴ』がいる。今回はボスを相手するつもりはなく、『ファイター』が落とす斧が目的よ。
こいつらの共通事項……っていうか厄介なところは、共通でもっている『仮面の呪い』だ。ありていに言えばカウンター攻撃。ダメージを与えた人間に防御無視の固定ダメージを返してくる。その仕様もあって、狩場としては人気がなかったわ。ダメージ自体は軽微だけど、積み重なると無視できない。うかつに範囲攻撃を仕掛ければ、全員分のカウンターが返ってきて強烈な一撃になる。
HPが低めの遊び人であるアタシも、正直相性が悪い相手だ。ムワンガ自体もアクティブに攻撃してくるし数も多いしすぐ沸くしで、とにかくHPがガンガン減っていくわ。
でも、そうと分かっているのなら戦いようがある。
「その程度の数でアタシをどうこうできると思わない事ね」
言ってアタシは【早着替え】でクイーンオブハートに着替える。ハートを模した冠の女王様姿。そのままトランプを使って【使役:トランプ兵】でトランプ兵6体召喚。シャーマンたちに突撃させる。
「ムグワ!」
「ルルルルル!」
奇妙な叫びをあげながらトランプ兵に対応するシャーマン。アトランプ兵はタシのレベル依存のステータスだけど、シャーマンは魔法特化ステータス。近接距離まで近づかれればトランプ兵に分があるわ。
要所要所で仕掛けるカウンター攻撃も、攻撃したのはトランプ兵だからアタシには関係ない。アタシは高みの見物をしていればいいのだ。らくしょー。
「ンガ!」
HPが0になり、シャーマンの仮面が破壊される。仮面がはがされた彼らは顔を隠しながら走って森の奥に逃げて行った。また仮面を被ってリスポーンするんだろう。
「他愛もないわね」
「命令してただけじゃないカ」
「アタシが出るまでもないってことよ」
生き残ったトランプ兵は聖女ちゃんの聖歌でHPを回復させる。トランプが足りなくなったら【デリバリー】で購入すればいい。お金に任せたパワープレイ最高!
「ホワァ!」
「ホロロロッロ!」
森を進むと茂みからまた仮面が現われる。手に斧を持つ仮面と、弓を持つ仮面だ。
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名前:ムワンガファイター
種族:人間
Lv:63
HP:183
解説:仮面に魅入られしムワンガ族の戦士。
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名前:ムワンガアーチャー
種族:人間
Lv:62
HP:121
解説:仮面に魅入られしムワンガ族の射手。
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「ファイター来た!」
ファイター4、アーチャー3。そんな構成だ。アタシはトランプ兵に命令して突撃させる。後衛ステータスのシャーマンやアーチャーはともかく、前衛ステータスのファイター相手だとトランプ兵はまず勝てない。呪いのカウンターもあって、すぐにやられてこちらに殺到するだろう。
なんでアタシは命令後に【早着替え】してカグヤドレスに着替える。着物スカートのすそをたくし上げ、太ももを見せながら笑みを浮かべた。
「あは。おにーさん、トーカのココ、見てるのなぁ? なにかくれたら、もー少しスカートあげても、イイよ」
「ワホホッホ! オッホホホホ!」
【姫の要求】による<魅了>とアイテム盗み効果。ファイター4体に<魅了>を仕掛けた。<魅了>効果でファイター達は互いに戦いあい、防御力とHPが低いアーチャーは斧の一撃を受けてダウン。ファイター達も同士討ちで倒れていく。
「きゃー。お疲れさま。がんばったお礼に、見せてあげるね」
「はしたない真似はやめてください」
顔を赤らめながらツッコミを入れる聖女ちゃん。見せる気はないんだし、いいじゃない。そうこう言っている間にも、傷ついたムワンガファイターはトランプ兵に倒された。顔を押さえて逃げていく中の人(?)を見送って、ドロップ品を確認する。
「さすがに一回の戦いでドロップしないか」
そしてその内容にため息をつくアタシ。手に入ったのは『仮面の欠片』と言われるムワンガの通常ドロップ品が主だ。売ってお金にするしかない換金アイテムね。
「……ミュマイ族の敵なのニ、あんな情けない倒され方するナンテ……」
「なによ。アンタも正々堂々と戦わないとダメとかバッドステータス卑怯とかそういうクチ?」
「違う方向のやるせなさだと思います」
肩を落とす斧戦士ちゃん。どういう形であれ、勝てばいいのよ。殴るたびにカウンターしてくる相手にまともに付き合うつもりはないの。
「ま、部族の因縁とかドラマとかは適当に解決してちょうだい。アタシも『ムワンガアックス』手に入ればそれ以上戦う気はないし」
「その斧をニダウィさんに装備させれば、何とかなるんですよね」
「そっからは斧戦士ちゃんの頑張り次第っていうのもあるけど、最低限の準備はそれで行けるわ」
ドロップ確率は128分の1。ムワンガ族は結構な頻度で沸いてくるので、時間をかければそんなに難しくない。
「んじゃまあ、どんどん行きましょ」
狩りは始まったばかりだ。気合を入れるのとMP回復のために、アタシはジュースを口にした。
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