3:メスガキは斧戦士を説得する

「断ル! こんな奴に教えてもらう事なんてナイ!」


 斧戦士ちゃんはアタシを指さしてそう言い放った。


 聖女ちゃんが『強くなりたいのでしたら、私達が力になりますよ。トーカさんがいろいろ教えてくれますから』と言った1秒後の答えである。


「こんなヒラヒラした服着た遊び人ニ、戦士の強さが分かるはずがナイ!」

「落ち着いてください、ニダウィさん。確かにトーカさんのジョブは遊び人で、戦士とは遠いかもしれませんけど――」

「戦士の誇りはミュマイ族の戦士の誇り! その誇りを穢すことなど許さないンダ!」


 聖女ちゃんの説得をかたくなに拒む斧戦士ちゃん。戦士と言う立場を重んじ、神聖視している。おそらく尊敬する戦士がいるのだろう。代々土地を守ってきたんだっけ? 親や兄弟が強い戦士と言う可能性はある。


「まあ、その戦士は遊び人に負けたんだけど」

「うぐぅ!」

「戦士の誇りはミュマイ族の誇り? じゃあ戦士が負けたらミュマイ族も負けたのね。ざーこざこ。ミュマイ族よわよわー。悪魔に負けちゃうわー」

「ミュマイ族は負けてナイ! 負けてナイ!」


 アタシの煽りに、顔を真っ赤にして殴りかかってくる斧戦士ちゃん。聖女ちゃんがそれを止めて、アタシに鋭い目を向けてくる。


「トーカさん。言いすぎですよ」

「売られた喧嘩を買っただけよ。遊び人弱いとか言われたらカチンと来たの」

「遊び人よりもソレイユさんの服を馬鹿にされたことも怒ってるんでしょうけど」


 聖女ちゃんの言葉を聞こえないふりして、斧戦士ちゃんに指を突き立てる。


「次は勝ツ! ミュマイ族は必ず勝ツ!」

「口ではいくらでも言えるわね。負けてない。油断してた。次は勝つ。もう一度やれば勝てる。そうやって今負けた事実を忘れるつもりなの?」

「なんだト!?」

「次は勝つ。いい心がけね。だけどそれは負けたことを認めてから言いなさい。アンタはアタシに負けたのよ。負けた負けた負けたー。手も足も出ず、どころか川ですっ転んで泣きべそかいてたニダウィちゃーん。泣き虫戦士ちゃーん」

「泣いてなイ!」

「ですからトーカさん言いすぎです」


 聖女ちゃんのストップがかかったので、話を軌道修正する。


「いい? 勝つっていうのは数多の思考と研鑚と行動の結果よ。口だけの勢いと無駄な特攻で得られる勝利はないわ。力押しにしてもその地力が必要だし、力で負ける相手には頭を使わないといけない。どれだけ緻密に計算しても、石につまずいて不意になることもあるわ。

 負けもその積み重ねの一つよ。どうして負けたのか。負けないためにどうすればいいのか。負けを認めない限り、その経験は生きてこないのよ」

「負け……ハ、恥じゃない……ノカ?」


 アタシの言葉は斧戦士ちゃんにとってショックだったようだ。負けることは恥である。負けと言う傷がついたら、もう戦ってはいけない。そんな決めつけが心にあったようだ。


「勝負なんて最後に勝てばいいのよ。そして相手を思いっきり罵って見下して、相手が悔しがる顔を見て『ざーこ』って笑ってやるの。気持ちいいわよー」

「トーカさん変な事を教えないでください」

「なによぅ。苦労して買ったんだから報酬は必要でしょう? 報酬効果とか言うじゃない」

「失敗から学ぶとか、いいこと言ってたのに……」


 ツッコミの後にため息をつく聖女ちゃん。アタシからすれば努力して勝利して、相手を罵るまでがワンセットなのに。


「……ダーは、悪魔に負けられなイ。負けたら、聖地が奪われるカラ……」

「その悪魔に負けないために、ニダウィさんは強くなりたいんですよね?」

「そうダ。ダーは強くなル。悪魔に負けないためニ。ミュマイ族を守るためニ」

「確かにトーカさんは戦士ではなく遊び人です。ストイックとは程遠く、口も悪くてだらしなくていろいろ腹立たしくなるのはわかります」

「さりげなくアタシの事ディスるのやめてくれない?」


 聖女ちゃんがアタシを睨む。『違うんですか?』っていう圧を感じて、目をそらした。アタシは自由なだけだもん。


「ですが知識は深く、そして優しいヒトです。

 困った人を見捨てず、手を指し伸ばした相手を一生懸命助けてくれます。ニダウィさんが強くなりたいと願えば、トーカさんは全力で応えてくれるでしょう」


 聖女ちゃんの言葉に、目を逸らしたまま頬をかくアタシ。何よこの子のアタシに対する信頼は。もー、もー!


「別にアタシ優しくなんかないもん」

「素直じゃないですけど」

「アタシ素直だもん」


 何言っても勝てる気がしないので、これ以上は何も言わない。何が勝ち負けとか、自分でもよくわかんないけど。


「信じて、とは言いません。私達はまだ出会ったばかりで、お互いの事を知りません。なのでできるなら一歩、踏み出してもらえませんか?

 私もトーカさんも、その一歩に応じます」


 真摯な聖女ちゃんの言葉に、斧戦士ちゃんは不承不承ながら頷いた。


「……わかっタ。ダーは強くなりたい。そのために、できることを教えてくレ」


 言って差し出した手を、アタシは握り返した。


「しょーがないわね。トーカが助けてあげるわよ。感謝しなさい」

「感謝するのハ、強くなってからダ。信用できないと分かったラ、頭を勝ち割ル」

「へへーん、弱いままだとそれもできないくせにー」

「どこでもいいカラ、ぶった切ル!」

「落ち着いてくださいニダウィさん! トーカさんも煽らないで!」


 聖女ちゃんが割って入り、斧戦士ちゃんの暴走が止まる。喧嘩が収まった後で、アタシは腰に手を当てて斧戦士ちゃんにステータスを見せてもらうように声をかける。


「そんじゃ、ステータス見せて。そっから育成考えるわ」

「ん」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★ニダウィ・ミュマイ


ジョブ:軽戦士

Lv:1

HP:13/13

MP:3/3


筋力:5

耐久:4

魔力:2

抵抗:1

敏捷:7

幸運:1


★装備

トマホーク

かわの服


★ジョブスキル(スキルポイント:50)

なし


★アビリティ

なし


★トロフィー

なし


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「予想はしていたけど、思いっきり初期状態ね。しかも軽戦士かぁ……」


 河原でアタシ達に攻撃してきたときに、通常攻撃しかしてこなかったからもしかしてそうかなと思ったけど……。しかも軽戦士か。斧使ってるから重戦士かと思ったけど『かわの服』だしなあ。


「軽戦士だと問題なんですか?」

「このあたりのモンスター相手だと、軽戦士のアビリティだとダメージ通らないのよね。重戦士なら【兜割】で相手の防御力削っていけるんだけど……」


 軽戦士の戦い方は速度と手数だ。一撃は小さくても、それを積み重ねることで相手を倒していく。また速度を攻撃力に足せるなどもできるが、このあたりのモンスターの防御力を抜くことは不可能だ。


「ミュマイ族? その人たちがこの子に戦わせなかった理由が分かったわ」


 おそらくその部族の人達は重戦士かそれに類するジョブなのだろう。強い戦士と共に戦い、大量の経験点を一気に得てレベルアップ。いわゆるパワーレベリングだ。


 推測だけど、斧戦士ちゃんはそれをしてもレベルアップができなかったのだろう。このあたりの敵にダメージを与えられず、経験値を得られなかった。だからモンスター避けアイテムを渡されたのだ。


 重戦士なら【兜割】で防御力を削りつつ、ダメージを与える。1点でもダメージを与えれば、戦いに貢献したとして経験点は与えられる。それが<フルムーンケイオス>の仕様だ。逆に言えば、ダメージを与えなかった相手には経験点は入らない。


 ついでに言えば<フルムーンケイオス>はレベルが15以上離れると、パーティを組んで経験点譲渡ができない仕様になっている。斧戦士ちゃんとアタシ達のレベル差はその3倍以上。パーティに入れて、経験点を割り振るやり方はできない。


 つまりアタシが斧戦士ちゃんをレベルアップさせるには、モンスターを斧戦士ちゃんに倒してもらうしかないのだ。


「普通に考えたら一旦オルストシュタインスタートちてんまで戻って雑魚敵狩るとかかなぁ?」

「ダーはこの地を離れたくなイ! アウタナを守らないト!」

「うん。アタシもそれは面倒なんでパス」


 地道にレベルアップとか、やってらんないわよ。


「じゃあクリティカルが出るまで殴らせる? でも幸運低いしなぁ。軽戦士に確定クリティカルアビリティないし。分が悪いけどそれしかないかなぁ……?

 ……あ。アレがあった」


 散々思考したアタシは、とあるダンジョンのドロップアイテムを思い出す。場所もここから近い。都合良く、アウタナへの寄り道程度だ。


「行けるわね。一気に強くしてあげるわよ」

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