4章 遊び人と山を守る戦士

1:メスガキは斧戦士と出会う

 ラクアンの壁を越えて魔物の領域を南下する。林の中にある道。舗装も整備もされていない川沿いをアタシ達は進む。


 壁が見えなくなったあたりからモンスターの強さは激化して生き、レベル60から70あたりの強さが散見される。それも複数体。


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名前:ノインテーター

種族:アンデッド

Lv:67

HP:181


解説:埋葬後9日目に復活した吸血鬼。疫病を広め続ける。


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 説明文に疫病とあるように<猛毒>持ちのアンデッドね。吸血鬼と言うこともあり、ダメージを与えたら一定確率でHPが回復するという厄介な存在よ。アタシ達のレベルが50後半。しかも二人だけ。そんな状態で戦えば痛い目を見るのは必至――と言うのは素人考え。


「ねえ、そのおっきいのちょーだい」


 カグヤドレスによる【姫の要求】で相手が持っているアイテムを盗み、同時に<魅了>する。盗んだアイテム自体はドロップ品程度だが、<魅了>で同士討ちしてくれるのは大きい。


「聖なるかな、聖なるかな――」


 そしてアンデッドに対しては聖なる技が有効。聖女ちゃんの【人に善意あれ】でじわじわと削っていく。その間にアタシは<魅了>を中心としたバステでコントロールし、弱ったところを【笑裏蔵刀】で一気にとどめを刺す。


「らくしょー」


 このあたりに出る敵の種類は全部覚えている。聖女ちゃんにもどう動けばいいかは伝えてあるので、連携はばっちり。躓くことなくアウタナに向かうアタシ達。


<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>


<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>


 んでもってレベルも上がる。そうなるとスキルポイントもたまり、アビリティゲットできるようになるんだけど……。


「悩みどころなのよねー」

「珍しいですね、トーカさんが悩むなんて。こういうことはスパッと決めるタイプなのに」


 腕を組んで悩むアタシに、聖女ちゃんが声をかける。


 実際、アタシはどうスキルポイントをとるかを事前に決めておいて、そこから逆算して攻略するタイプだ。<フルムーンケイオス>の事はよく知っているので、最善最短の選択を知っている。


 その流れに従うなら【笑う】を8レベルにして【笑う門には福】をとることになる。レアアイテムドロップ率上昇のコレクター垂涎アビリティ。これがあるとないとでは、攻略にかかる時間が大きく変わる。スキルポイントも十分にあるし、取るべきなんだけど……。


「なんかアタシ悪魔に狙われてるみたいだから、それ考えるとやれること増やしたほうがいいかなって考えてて」


 言ってアタシはステータスを呼び出す。そのスキル欄を見た。


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★ジョブスキル(スキルポイント:85)

【笑う】:Lv6

【着る】:Lv6

【買う】:Lv4

【遊ぶ】:Lv6

【食う】:Lv4


 サブジョブ

【笑う】:Lv2

【食う】:Lv2


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「【食う】を6にしてMP吸収属性付与の【精吸収】をつける? でもその前に【買う】を6にして【キラキラしてる!】で宝石が装備できるようになって……サブジョブをあげて効果をあげるのも……ああ、でもレアアイテム狩りしないとどうしようもないし……!」

「何を言っているのかよくわかりませんが、岐路に立っているのはわかりました」


 悩むアタシに対し、聖女ちゃんは専門外だと一歩引いたように答えた。実際、アタシが悩んで決めないといけないことだ。


「そういうアンタはどうなのよ?」

「今スキルポイントが109なので、あと1ポイントで【聖人】を4から6にできます。他のスキルをあげなくていいんですか? 【聖武器】や【従僕】をあげなくても」

「いいわ。【聖人】6で覚えられる【守護天使】がえげつなく強いから」

「はい。話を聞いて確かに強いと思いました」

「【聖武器】レベル4の【加護】も悪くないけど、癒しタンクやりたいっていうんならまずそっちね。あと1レベルをサクッとあげてましょう」


 目的地のアウタナまではまだまだある。向こうに着くころには二人とも60代になっている感じだ。


「この川の先がアウタナよ。近くに集落があるから、そこを拠点に狩りするわ」

「アウタナ……。ベネズエラの山ですね。伝説では、そこに巨大な木があって倒れた木が巨大な川になったとか」

「アンタなんでも知ってるのね」


 常識ですよ、と言う聖女ちゃんにナイナイと手を振るアタシ。そもそもベネズエラってどこよ?


「かつて欲深い人間が木からの恵みを独占しようと切り倒して、その怒りで大雨が降って大洪水が起きたとか。多くの人間が死んで、倒れた木から新たな生命が生まれたそうです」

「古今東西、欲で身を亡ぼす話は尽きないわね」

「生き残った人たちはその山を聖地として、踏み込むことなく過ごしているとか。オーストラリアのエアーズロックやヒマラヤ山脈のクンビラ山みたいに崇められているようです」

「ホントなんでも知ってるわよねー」


 エアーズロックとか名前ぐらいは聞いたことあるけど、そんなふうに信仰されてるとか初耳ね。


「確かに<フルムーンケイオス>でもアウタナは大きい山ってだけで、登ったりはできなかったわね」

「現実の伝承を忠実に表しているんでしょうね。ゲームの事はよくわかりませんけど、名前元に対する尊敬なのでしょうか?」

「ウィキで調べてそのまま使ったか、あるいは山のマップ作る余裕がなかったから無理やりその伝承を当てはめたとかじゃない?」

「なんでトーカさんはそう悪し様に捕らえるんですか……」


 肩をすくめる聖女ちゃん。でもゲーム作製ってそんなものじゃないのかな? よくわかんないけど。


「でも入っちゃいけない、って聞くと余計に入りたくなるわね」

「やめましょうね、トーカさん」

「なによぅ。ゲームじゃできなかったことができるんだから試してみたくなるのが人情じゃない。アウタナの上に何があるかとか、気にならない?」

「それとこれとは――」

「そこを動くナ、不敬者!」


 話が別です、という聖女ちゃんの言葉は予期せぬ大声で止められた。


「ダーの耳はしっかり聞いたゾ! 貴様達、アウタナの頂上を穢そうとする不敬者ダナ!」


 声の主はすぐに分かった。アタシ達が進む川の対岸。そこに立つ褐色肌の少女。アタシと年齢はそう変わらないだろう体躯。鳥の羽を使った民族衣装に片手斧を構えている。


「えーと、誰?」

「ダーはニダウィ! ミュマイ族の戦士! アウタナを守る戦士だ! 山を穢すモノはダーの斧で切り裂いてやる!」

「山を穢すとかちょっとエロくない? それはともかく、確かに入りたくなったって言ったし気になるけど冗談で――」

「黙レ! 外の人間の言葉など、信用できるカ!」


 言うと同時に跳躍し、襲い掛かってくる。手斧を投擲し、同時に跳躍して両手に斧を構える。最初に投げた斧はアタシ達の足元に刺さり、アタシ達の気勢を止めた。その隙にその子は川を渡ってアタシ達への間合いを詰め――


「わぶぅ!」


 ――ようとして、川の中腹ですっ転んだ。もう豪快に、すってーんと。


「卑怯者! ダーの足を掬うとは、面妖な術ヲ!」

「あの、大丈夫でしょうか?」

「いろんな意味で大丈夫じゃないと思うな、アタシ」


 それがこの子、ニダウィとの出会いだった。


 

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