34:メスガキは勲章を受ける
騒動が終わり、ラクアンの兵士達が駆け込んでくる。悪魔によってステータスをいじられたんだけど、もうそんな様子はない。アタシ達がナタと戦ったことを知っているのか、敬礼までしてくれた。とーぜんだけどね。
「ナタ兄様……」
ラクアンオバサン――スーだっけ? とにかくオバサンは倒れてぶつぶつ何かをつぶやいているナタを見て、ただそう呟いた。そこに込められた感情は、アタシが理解できるものじゃない。おそらくは誰も理解できないだろう。
ただそこでナタを逃がしたりするようなことはない。数名の兵士達に連行されるナタ。肉の塊になった時に精神がぶっ壊れたらしく、反応らしい反応もない。
「ボクは……ラクアン……ラクアンを……ボクは……」
ただそれだけを呟いていた。このラクアンを継ぐはずだった領主の息子。横暴な態度でそれを失い、そして返り咲くことだけを目的に生き延びた。その執念は大したものだと思う。迷惑以外の何物でもなかったけど。
「終わったらいろいろ気が抜けたわ。ちょっと休むわね」
「そうですね。私も……」
「ええ、ゆっくり休んでください。兵士達への報告は行っておきます」
HPやMP的には大した減少はないけど、戦いが終わった瞬間に眠気が襲ってきた。聖女ちゃんも同じなのか、眠そうにあくびをしている。おねーさんも眠そうだけど、目をこすりながらそう言ってくれた。
「徹夜は慣れていますよ。子供はよく寝てよく育つことが仕事です。
……でも、本当に育ってしまうのが正しい事なのでしょうか? 幼い子供が育つ。それ自体はいい事なのですが、心のどこかで成長よ止まれと願っているワタクシが! ああ、アンビバレント!」
いつも通りのおねーさんの暴走を聞きながら、アタシ達は兵士達に案内されてベッドにもぐりこむ。着替えるのもおっくうになって、そのまま倒れこんだ。その横に聖女ちゃんも倒れこむ。
「いつもは着替えないといけませんよー、って怒るのに」
「たまにはいいじゃないですか。もう、限界……」
魂からマジメな聖女ちゃんが服も着替えずに寝るのは結構珍しい。そんなことを思いながら、アタシは眠りにつく。自覚はなかったけど、肉の塊に囚われた際にかなり疲弊したらしい。主に精神的に。なんだかんだで一人の時間が堪えたようだ。
「…………お?」
窓から入る日の光で目が覚める。寝たと思ったらすぐに目覚めた感じだ。ぐっすり眠れたらしく、心地よい目覚め。軽く伸びをして、疲れを全部振り払う。
「あ。起きたんですねトーカさん」
先に起きていた聖女ちゃんが、寝ている間にあったことを説明してくれた。
ナタが……というか悪魔が操っていた兵士は全員元に戻ったようだ。ラクアン市民も同様。ただ『ステータスを弄られていた』ということは公表していないという。ナタが怪しい術を使って皆を洗脳した、と言う方向にするようだ。
「なんでよ?」
「この世界の人達は皆『ステータス』の恩恵を受け、それがあるのが当然の状態です。その『ステータス』に弊害があると世間に発表すれば、パニックが起きます。発表は慎重に機を見るようです」
アタシの感覚で言えば、スマホを使うたびに洗脳されるとかそういう感覚だ。確かに反感されかねない。とはいえ、無視していい問題でもないのもわかっているのだろう。混乱が起きないように、国レベルで話し合って対策を練るのかな? そのあたりはアタシがどうこう言う問題じゃない。
「ナタはヤーシャの法律で裁かれるそうです。極刑は間違いないかと」
「ま、当然よね。国に対して反乱起こしたようなもんだし」
「ヤーシャからすれば敵国を導こうともしましたからね」
ちなみに『極刑』って具体的にどんなの? って聞いたら聖女ちゃんは言葉を濁して教えてくれなかった。曰く『凌遅刑……その、かなり残酷な処刑です』とか。
「あとはヤーシャから勲章がもらえるそうです」
「要らないわよ、そんなの。役に立たないバッジでしょ。意味ないじゃん」
「そんなこと言わないでくださいよ。国を救った英雄を讃えて、それを見た人達が希望を持つんですから。セレモニーにも意味があるんですよ」
「めんどくさーい。代わりに出てよー」
「だ・め・で・す。トーカさんが嫌がるだろうから、祝賀パーティ出席はどうにか断ったんですから」
うん。パーティにも出てください、とか言われたら絶対逃亡してた。別にコミュ障じゃないけど、偉い人に囲まれるとか絶対ヤダ。そういうのはアイドルさんに任せる。
「全く。壁の向こうに行くイベントやるためにラクアンに来たのに、とんだ足止めよね。
ナタも倒した扱いじゃないみたいだから経験点にならなかったし。レベル3桁ボスと戦ってレベルアップなしとか骨折り損よ」
「いいじゃないですか。おかげで多くの人が助かったんです。
アミーさんは事件解決を祝ってチャリティコンサートを開くとか大忙しみたいですよ。ソレイユさんもトーカさんの服を作ったとかでいろいろ引っ張りだこみたいです。トーカさんも望めばラクアンで地位は得られますよ」
「アタシがそんなの望まないとか分かってるでしょ。とっとと壁抜けてアウタナに向かうわよ」
もともとラクアンはトラ三連戦して魔物領域に向かう通行許可を得るための通過点。とっととイベント終わらせて、次の狩場に向かわなくちゃ。なんでできるだけ無駄な事は省きたい。
「あ、いい事思い付いた。トランプ兵に勲章授与させてアタシはトラと戦う、っていうのはどう?」
「トーカさん」
「はいはい。ほんとアンタマジメよねー」
「トーカさんが我儘なだけです」
「効率化って大事と思わない?」
「イヤなことを避けることを効率化とは言いません」
いろいろ諦めて、肩をすくめるアタシ。ここで聖女ちゃんと言い合っても勲章授与しないといけないことには変わりない。これでもいろいろ妥協したんだろうことはアタシにもわかる。
まあそんなわけでヤーシャの偉い人から勲章をもらうことになったんだけど、ここでひと悶着が起きた。
「できれば……お召し物はもう少し清楚なものをお願いしたいです」
アタシがカグヤドレスで式に出ると言ったら、ヤーシャの方からストップがかかったのだ。もう少しきちんとした服を着てほしい、と。
「なんでよー。この子は聖衣ローラでオッケーなのに」
「イザヨイ様の聖衣は教会が認めるもので……TPOを鑑みてもその服は……」
口を濁すけど、要するにこのドレスは勲章授与の場には合わないからやめてくれと言う話だ。
「やーよ。アタシが勲章をもらえるのはナタを倒したからでしょ? この服がナタを倒した決定打になったんだから、この服で出るのが道理よ」
「理屈は通っていますが……その……」
「これ以上ごねるなら勲章受けないわよ。別にそんなもの貰っても嬉しくないんだし。アイドルさんがいるんだから式典はできるでしょ」
「そ、それは困ります! アミー様もクシャン様もトーカ様が受けないなら辞退するとおっしゃってて……ああ、少しお待ちを!」
ゴネにゴネていろいろすったもんだがあった挙句、かなり渋い顔をされながら了承された。
「ソレイユさんの渾身の一品ですものね。陽の目を見せてあげたいトーカさんの気持ちはよくわかります」
「他に着る服がなかったのよ」
「キョンシー服があるじゃないですか。文化的にあの服が一番合いますよ」
「あーあー。きこえなーい」
別にこういう場所でおねーさんの服を宣伝してあげたいとか、そんなことぜーんぜん思ってないんだからね。
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