4:メスガキはオーガと遭遇する
アタシと聖女ちゃんの岩山でのレベリングは続く。
「次はビックスネイクね!」
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名前:ビックスネイク
種族:動物
Lv:31
HP:82
解説:2mをこえる巨大な蛇。毒を持ち、弱らせた得物を丸呑みする
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その名の通りの巨大な蛇。単体で出没するけど、その分レベルは高い。あと<毒>のバッドステータス持ち。
「と、トーカさん!? その、ヘビ、べビ……!」
「あー、爬虫類とか苦手?」
「苦手っていうか、そのこの大きさは流石に」
まあゲームとか知らなかったら、こんなに大きな動物視るだけでも驚くよね。うん。ましてやそれが自分を狙ってくるというのなら。
「一撃は耐えてね」
「ひいいいいいん!」
そう言う作戦で、それを覚悟していたとはいえやっぱり怖いものは怖い聖女ちゃん。【深い慈愛】を謳いながら、胸を守るように防御の構えを取る。
「爬虫類は、凍らせてっと」
ペンギンローブに【早着替え】し、凍結させて動きを封じる。爬虫類系は氷属性の攻撃に弱く、凍結のバッドステータスも長時間解除されない。動きを封じて、狼パーカーに着替えて一気に決めるわ。
「おっしまい。らっくしょー!」
凍結して動けない間に一気に決める。スネークダガーを数度降り、トロフィーのダメージ上昇が乗った攻撃で削り倒す。
「はうう……。怖かった……」
「休んでる暇ないわよ。あっちからロックハンドが来たわ」
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名前:ロックハンド
種族:魔法生物
Lv:35
HP:55
解説:邪悪な魔力が岩に宿った存在。拳の形を取り、宙を舞い襲い掛かってくる。
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一言で言えば『空飛ぶ岩の手』。手首から先の形をした手が殴りかかってくる。オジサンたちは『ロケットパーンチ!』とか言ってたけど、何なんだろう? ロケットとか関係ないのに?
「ちなみに攻撃はグーで殴るのと、ビンタしてくるのと、目つぶししてくる3モーションあるわ」
「意味あるんですか、それ……?」
知らない。作った人のお遊びなんじゃない?
「痛い痛い痛い痛い!」
「こいつら防御力高いからクリティカルしないとダメージ通らないのとね……【笑裏蔵刀】っと」
宙を舞うおててに笑いながら刃を振るう。
「水着の女の子を襲うやらしー手。そういう趣味なの?」
言いながら武器を振るい、確定クリティカルでロックハンドを破壊していく。……手の一つが『Yes!』とか言いたげに親指立ててたけど、見なかったことにするわ。きっと見間違いね。
「うーん、いい流れ。思ってたよりはスムーズで楽に行けそうね」
「私は、流石に、少し休みたい、です」
散々ダメージを受けた聖女ちゃんが根を上げる。ずっとダメージ受けたり歌うたいっぱなしだもんね。そろそろ限界か。
「そうね、一旦休みましょ。いざという時に回復が不十分だったら目も当てられないし」
言って近くの岩場に腰を下ろすアタシ。聖女ちゃんもすぐ隣に腰掛けた。HPとMP回復ポーションを飲みながら、一息つく。
「…‥今更ながらですが、液体状の薬を飲んで傷が癒えるのはどういう原理なんでしょうか?」
「歌とかで傷が癒えるんだから、それ言うのほんと今更よね」
「ですよね。あと、これだけお水飲んで、その……おトイレとかは、どこですれば」
アタシは無言で人のいない岩場の影を指差し、聖女ちゃんは顔を真っ赤にしてアタシの肩を叩いた。バシバシと、何度も何度も。
「イヤですよ。その、そんな、はしたないことはできません!」
「じゃあどうするのよ?」
「我慢します」
鉄の意思を込めて聖女ちゃんは言いきった。うわ、本気だ。
「大体トーカさんだってそう言うことを外でするのは恥ずかしくないんですか!?」
「アタシ、今回ダメージ受けないようにしてるからあんまりポーション飲まないし」
「ひ、卑怯です!」
「んふー。我慢できなくなった時に助けを求められて、おもらししちゃうかトイレに行って見捨てちゃうか。聖女ちゃんはどっちをえらぶのかなー?」
「うううう……! もしそう言う二者択一になったら、私は……!」
羞恥か人の命か。その二者択一に悩む聖女ちゃん。
アタシなら迷わず他人を見捨てるけどね。
「た、助けてくれー!」
遠くから聞こえてくる声。そちらを見れば、ボロボロの格好のおにーさん。岩に溶け込むような色の長袖に革靴。弓にリュック。どうやらレンジャー系のジョブのようだ。……ようだ、って言ったのは四男オジサンの例があるから。
「――どうしたんですか!?」
その声に跳ね上がるように腰を上げ、走っていく聖女ちゃん。そして歌を歌い、その傷を癒していく。アタシが歩いて後を追いかけると、おにーさんが口を開く。
「オーガが……オーガが徒党を組んで……!」
おにーさんを追いかけるように走ってくる3mほどの巨大な人間型モンスター。腰に動物の皮を撒いた程度の簡素な装備。その腕はアタシの胴体よりも太く、振るうだけで岩を砕くだろう。
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名前:オーガ
種族:幻獣
Lv:50
HP:148
解説:人を喰らう人型幻獣。圧倒的な腕力で全てを駆逐する。
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オーガ。人を喰らう存在。パワー系のモンスターで魔法こそ使わないが、その力と体力は圧倒的。攻撃力増加のアビリティをもち、数によってはレベル40のパーティでも全滅しかねない。
傷を癒してもらったおにーさんは、お礼を言って走って去って行く。薄情なように見えるけど、矢もMPも尽きてるのならむしろ足手まといだ。
っていうか、あのおにーさんはそう言う役割のNPCなのである。ヒールしてくれた人に経験点とドロップ品を渡すプログラム。こういう所が<フルムーンケイオス>のこだわりと言うかなんというか。
「オーガ4体。うわー、さすがにキッツいわ」
それが4体。こっちは遊び人と聖女の2人。普通に考えれば、逃げの一択。
「トーカさん……!」
「行くわよ。アンタが初撃を耐えれるかがキモだから、回復は十分にね!」
「はい!」
聖女ちゃんと言葉を交わし、戦闘準備に入る。お互い、やるべきことは理解している。とにかく最初の攻撃に耐えられるかどうか――
「聞きなさい、人を喰らう鬼たちよ! 私の名前はイザヨイ・コトネ! 異世界よりこの世界を救うために遣わされた聖女です!
人の営みを守るために、貴方達を討たせてもらいます!」
朗々と響く聖女ちゃんの声。うわー、ノリノリ。
……ちがうわね。この子の場合、素でそう思ってるのか。本気でこの世界の人達の生活を守ろうとしているのだ。
「この戦いは人の未来への一歩。わが友、アサギリ・トーカと共に人の世を切り拓かこう!」
「いや、アタシは別にこの世界の未来とかどーでもいい――」
「いざいざ、参られん!」
アタシのツッコミを無視して【深い慈愛】を歌い、防御力をあげる。うーん、この真面目なノリにはあまりついていけないわ。
でもまあ、気合は入ってるみたいだしやってることは作戦通り。オーガ4体も『赤い稲妻』によって聖女ちゃんに狙いを定めた様ね。
「オレ右腕食う。ちぎって食う」
「じゃあオデは太もも。潰してひき肉」
「あの胸、柔らかそう。そのままマルカジリ」
「脳みそはマズそうだから、潰していいよな?」
オーガの特殊アビリティ【ハングリースタイル】だ。さっき言っていた攻撃力増加のアビリティよ。
「トーカさぁぁん……その、会話が怖いんですけど……!」
オーガの会話に、心折れそうになる聖女ちゃんだった。
アタシだったら絶対逃げてるわね、これ。
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