3:メスガキは岩山につく
そびえたつ岩山。そのふもとにアタシたちはやってきた。
この山に名称はない。強いて言うならチャルストーン近郊の山、ぐらいだ。隣国ヤーシャとの国の境目で、巨大化した蛇や空飛ぶ魔物などが生息している。そこそこ稼げるけど、ダンジョンほどじゃない。そんな狩場だ。
ただ単独で出てくるオーガがこの近郊ではありえない強さで、そして高い経験値を持っている。ぶっちゃけ、他のモンスターを放置してもいいぐらいだ。
「あの……! 本気ですか!? 本気なんですか!?」
アタシの隣で聖女ちゃんが顔を真っ赤にして叫ぶ。
『赤い稲妻』
その名の通り、赤いビキニアーマーである。胸部、臀部を金属部分で覆い、それを繋げる布部分も赤。それ以外はなんもない防具だ。
そう呼ばれるビキニアーマーを見て目を疑い、それを着ると聞いて二度驚き、そして着てみた自分を見て三度驚き、その格好のまま街を移動しようとしたらガチで拒絶されて。仕方ないから山の麓で着替えてもらったわけである。
胸と腰を守るだけの装備。ビキニの名に恥じぬ露出度。服で隠れていたボディラインが露わになり、それを隠そうともじもじする聖女ちゃんがまた男のアレコレを誘惑しそうだ。
そしてなんというか……大きい。いや、何がとは言わないけど! 別に敗北感なんか感じてないけど!
「だから説明したじゃない。もう一回言おうか?」
「ええ、作戦の内容は理解しています。この鎧はモンスターを引き付ける鎧で、私がモンスターを引き付けている間にトーカさんが攻撃する。そういう役割分担だってことは」
うんうん。その通りだ。
『赤い稲妻』は着ている人間がモンスターに狙われやすくなる効果がある。専門用語で言うと、ヘイト率上昇だ。これで防御力が高ければ性能的に神防具なんだけど、そんなことはない。防御力は見た目通りの裸同然よ。
「そ。アンタは【深い慈愛】で自分を守りながらその攻撃を受ける。アタシもそのバフを受けながらやってきたモンスターを倒す。大雑把に言えばそんな所ね」
「ええ、何度も説明されましたしタイミングとかも教えてもらいました。それは頭に入ってますし理解もしています。
ただ、その……この格好は……! せめてもう少し、隠したいんですけど……!」
ビキニアーマーに慣れていない聖女ちゃんの抵抗は高い。……まあ、こんな格好に慣れてるとかよほどだと思うけど。
「駄目よ。これが現状で一番の作戦……っていうか他の方法はないの」
これはウソじゃない。オーガが複数出没する状況で、アタシと聖女ちゃんが取れる戦術はこれ以外にはない。
単にヘイトを稼ぎたいなら、聖女ちゃんが先に殴りに行けばいい。だけど相手が複数いるなら、話じゃ別だ。全員を殴っている間に殴った相手に反撃を喰らうだろう。戦士系じゃない聖女ちゃんがオーガに殴られれば、長くはもたない。素の聖職者装備でも、もって三発ぐらいか。
なので複数名のヘイトを一気に稼ぎ、同時に防御力を高めてもらう必要がある。その為の『赤い稲妻』でその為の【深い慈愛】だ。
【深い慈愛】の防御バフの上昇率は魔力値に依存する。聖女ちゃんの魔力なら、問題ないわ。
「うううう……!」
その辺の説明は事前にしてあるし、困惑する聖女ちゃんを『ヤならやめてイイのよ? アタシは別にオーガを倒したくないんだし』とやめてもいい的な進言もした。
……まあ、ちょっと挑発的だったのは否定しない。それで逆に火がついちゃった所はあるけど、着替えた後で少し後悔したみたい。
「分かりました、やります! これで多くの人が救えるのなら、私はその道を進みます!」
おー、羞恥を無理やり使命に塗り替えて乗り切った。メンタル強ーい。
「おっけ、そんじゃ行くわよ。パーティ組むから、はいってよね」
「えーと……こうですか」
ステータス画面を操作して、パーティ申請をする。聖女ちゃんの方にも通知がいったらしく、恐る恐る指を動かして操作する。
パーティ申請すると、パーティ内で倒した経験点が平等に配布されるわ。今回はアタシがアタッカーで囮役の聖女ちゃんはモンスターを倒さない。だけどそれじゃ
アタシだけに経験点が入ることになるの。だけどそれは不公平って事で。
「あ、先頭はアンタが歩いてよね。ヘイト稼ぐ壁役なんだから」
「分かってはいますけど、歩くのは恥ずかしい……」
そんなこんなであたしたちは岩山を進む。
『キピャアア!』
早速モンスターのお出ましね。腕が羽根になっている女性型の鳥モンスター。ハーピーよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:ハーピー
種族:幻獣
Lv:29
HP:67
解説:女性の上半身と鳥の下半身をもつ鳥型の幻獣。その爪で人を掴み、巣に攫う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
叫び声をあげながら、三体現れた。そしてその狙いは聖女ちゃんに向けられる。
「聖なるかな。聖なるかな――」
それを確認して歌い出す聖女ちゃん。作戦通り、防御力をあげる【深い慈愛】だ。歌っている間は動けないけど、範囲内の自分を含めた仲間の物理と魔法の防御力をアップするバフ。
「うわ、いい感じ!」
アタシは『狼パーカー』に【早着替え】して、スネークダガーをもって切りかかる。【カワイイは正義】で火力をぐっとあげての攻撃よ!
この状態だと受けるダメージがかなり上がるけど、そもそもアタシは攻撃対象に入っていない。斬りかかったら幾分かハーピーの怒りもこっちに来るけど、そうなる前に倒しちゃえばいいのよ!
「ほいっと!」
アタシよりレベルが高い相手なんで、『格上殺し』のダメージ上昇がしっかり乗るわ。狼パーカーの攻撃力上昇も含めて、十分なダメージね。
「きゃあ。痛い……!」
ハーピーに爪でひっかかれた聖女ちゃんが悲鳴を上げる。【深い慈愛】の効果がかかっているとはいえ、流石に無傷とはいかない。ビキニアーマーは防御力はないに等しいもんね。
「後ろがら空きっ!」
その背後から切りかかるアタシ。服の力で強化された身体能力で跳躍し、アドレナリンを爆発させるようにナイフを突き刺す。一度で仕留めきれなかったので、もう一回。それで力尽きたハーピーは地に落ちた。
残り一体も同じように処理をする。ほどなくして戦闘は終わり、ふうと息を吐くアタシ。
「鳥の分際でアタシに歯向かうなんて、身の程をわきまえるのね」
「せめて魂に安らぎが訪れんことを」
ハーピーを見下ろし言うアタシと、ハーピーの遺体に祈りをささげる聖女ちゃん。
「あんまり大したもんはもってないわよね。爪と羽根ぐらいかー」
「それがこの世界の常識だと教えられましたが、遺体からものを奪うのは抵抗がありますね……」
ハーピーの遺体から素材を剥ぐアタシに、聖女ちゃんは眉を顰める。
「もー。何度も言うけどここで腐らせるよりは利用した方が世のため人の為なの。豚や牛のお肉を食べるのと一緒なの」
「ええ。ただカルチャーショックなのは、その」
聖女ちゃんも分かってはいるけど、色々耐えがたい所はあるようだ。
「ショックで言えば、その格好ほどじゃないでしょう?」
「まあその……。とりあえず効果のほどは確認しました。その、すごい勢いで襲ってこられて、すごく怖かったです」
「こんなので怖がってたら、この先耐えられないわよ。
蛇が体に巻き付いてきたり、狼に押し倒されたり、オーガの巨体にアレコレされそうになったりするんだから」
嫌らしく指を動かしながら、アタシは聖女ちゃんに脅しをかける。
ちょっとは臆しやがれー。そんな悪戯心だ。
「う……。ですけど、それでオーガの脅威を払えるのなら、私はやります」
アタシの脅しを理解したうえで、聖女ちゃんははっきり頷いた。
「何があってもトーカさんが守ってくれるって、信じてますから」
信頼を込めた、混じりっ気のない言葉。
「あ、っそ。そんじゃ次行くわよ」
予想外の反撃を喰らって、アタシは聖女ちゃんに背を向けた。……ちょっと顔が熱いのは、岩山が暑いから。そうに決まってるんだからね!
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