27:メスガキは絶望の中で友を得る
「起きろ。試合だ」
殴られたような衝撃で目を覚ます。
あの後なんだかんだあって、この暗い部屋――懲罰房に送られてそのまま気を失ってたみたいだ。
体中が痛い。石の上で寝たこともあるけど、暴れてた時に兵士に強く押さえられたみたい。ずきずきと痛みが残る。
「試合?」
「そうだ。聖女様との試合だ。
これに勝てば貴様は無罪放免。負けても罪は聖女様に雪がれる。どちらにせよ、貴様の罪は浄化されるのだ。良かったな」
全然よくないわよ。
叫んでやろうかと思ったけど、なんかどうでもよくなってきた。どうせ言っても聞いてくれないし。
「そういう事なので、今回はそのまま闘技場に出てもらう」
いつもの武器選択のセリフはない。囚人服のまま、闘技場に行けと言われた。
アビリティも自分から攻撃もできない状態で。武器も防具も何もない状態で。
「……そ。そういうことね」
これは試合なんかじゃない。試合という名を借りた処刑なんだ。
罪人にもチャンスを与える、なんて大ウソ。全部は皇子の手のひらの上。あの皇子が白って言ったらシャドウビーストも白になる。
「今度こそあのガキの最後だ!」
「散々ナマイキ言ってたが、もう何もできまい!」
「聖女様に罪を雪いでもらうんだな!」
「泣け、叫べ、命乞いをしろ!」
会場のボルテージもマックスだ。
自分達の思い通りにならなかった子供。散々自分達を馬鹿にしてきた生意気なガキ。その最後を見れるのだ。
かくして悪い子はイイ子に罰されてましたとさ。めでたしめでたし。そんな心境なんだろう。正義は我にある。悪は酷い目にあえ。無様な最期を遂げれば、俺達はスカッとするんだ。
「ほんと、大人ってばーかなんだから」
アタシの言葉は興奮の濁流にのみ込まれて、消える。
「静粛に! クライン皇子と聖女コトネの入場であるぞ! 者共、控えよ!」
そんなアナウンスと共に、皇子と聖女ちゃんがアタシの反対側の位置口から入ってくる。
皇子はアタシの姿を見て笑みを浮かべ、聖女ちゃんはどこか虚ろな目で歩いてきた。
「オルスト皇国の国民達よ。拝聴するがいい。
皇国の外は魔王の手下が跋扈し、私が召喚した数多の英雄達がこれの駆除に当たっている。しかし中にはこうした愚物が混じる事もある。これは私の恥ずべき汚点。この点をここに反省しよう」
先ずは謝罪。あえて下手に出る事で警戒心をほどき、次の言葉を受け入れやすくする手法。
「しかし、ここに悪は討たれる。下劣なる思想を萬栄させる遊び人なる存在は、清らかなる乙女の顕現ともいえる聖女コトネにより打ち払われる。罪はここに浄化され、英雄たちはさらなる飛躍を遂げるだろう。
そしていずれ、魔王<ケイオス>を倒す一矢となるのだ。この戦いの後に、聖女コトネは魔王を倒す四英傑の一人となるだろう!」
皇子の宣言とともに大きく沸く会場。四英傑とかよくわかんないけど、要するにその踏み台にされるのだ。アタシは。
「おおおおおおおお! 聖女コトネ様の始まりの一歩だ!」
「その旅立ちに立ち会えるなんて、素晴らしい!」
「聖女! 聖女! 聖女!」
そして起こる聖女のシュプレヒコール。
「はん。魔王倒すのにこのレベル帯の聖女に武器持って攻撃させるとか、育成ミスってんのよ、アンタは。
そんな事も分からないとか、頭悪いんじゃないの?」
そんな音の波に逆らうように、アタシは口を開いた。
「っていうか子供殴ったり魔法で洗脳したりしないということ聞かせることが出来ないなんて、どっちがガキよ。身体は大人で頭は子供? あーあ、人生終わってるわ。
いっそ引きこもって妄想に浸ってくれた方がまだ迷惑かけないだけマシよ。ワガママ皇子に付き合わされて、周りの人達もかわいそうね」
「このガキが! …………それが遺言か」
ナントカ皇子は何か言いたげに叫ぼうとするけど、皆が見ていることに気付いて言葉を納める。余裕を取り戻し、笑みを浮かべた。
「貴様は何もできまい。そのまま聖女コトネに罪を払われるがいい。その無教養で汚らしい口からどんな命乞いが出てくるか、楽しみだ」
言って距離を取る皇子。そして壁際に用意された席に座る。突貫工事で作られたんだろう席。アタシが何もできずに殴られていくのを間近で楽しむために、作らせたのだ。趣味悪いわー。
ムカつくけど、何もできないのは事実だ。
囚人服の効果は<封印><無力>。アビリティも攻撃も防御もできない。殴られたら殴られっぱなし。サンドバッグ同然だ。走って逃げることができるのがせめてもの救いだ。
だけど闘技場から逃げる事はできない。いずれは追い詰められる。
「終わったわね。なーんもできないや」
アタシがこれまで勝ってこれたのは、<フルムーンケイオス>のことを知っているという事と事前準備を怠らなかったことだ。遊び人に出来る攻略法を知っていて、それを使っていただけにすぎない。
だけど、こんなのは<フルムーンケイオス>にはなかった。悪意でイベントを歪められて、つまんない欲望で他人を支配して。
こんなのどうしようもない。アタシはせめて悲鳴を上げないように口を食いしばって――
「トーカ殿! 諦めてはなりませぬ!」
そんなアタシに声が聞こえてきた。
「吾輩のようなものを救えるほどのトーカ殿の知恵をもってすれば、この状況を打破できるはず! 吾輩は信じております!」
四男オジサンだ。必死に声を振り上げて、もー。
やめてよね。折角貴族になれたんらから、こんなことで不意にしないでよ。頭悪いんだから。
……ん?
ステータスに通知ありの赤丸がついた。なんか、フレンド申請が来てる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★フレンド申請
ゴルド・ヘルトリング 様から、フレンド申請が来ています。
承認するなら、『承認』ボタンを押してください。
この申請は一週間後に消滅します。フレンド承認が不要の場合、このメッセージを消去してください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
見たら、四男オジサンだった。……NPCでも出せるんだ、これ。
バッカみたい。アタシみたいなのにフレンド申請とか。何期待してるのよ、オジサン。
「トーカはそんな目じゃなく、もっと鋭く上から目線で見てほしいブヒヒン!」
……は?
よくわからない声と同時に、またステータス欄に通知ありの赤丸が付く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★フレンド申請
コイル・カーマイン 様から、フレンド申請が来ています。
承認するなら、『承認』ボタンを押してください。
この申請は一週間後に消滅します。フレンド承認が不要の場合、このメッセージを消去してください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ロリエルフ衣装をまた着てください!」
「今度は改造浴衣をお願いします!」
「その目で罵って踏んでください!」
アタシを罵倒する空気の中、確かに聞こえてくる声。その度に増えていく赤丸。
確認すれば、見たことも聞いたこともないおにーさんやらおじさんからのフレンド申請が来ていた。
アンタたちバカでしょ? 何考えてるのよ、まったく。
アタシは申請してきたフレンド連中を全部承認し、チャットモードで罵った。
「ばーか。アンタらの要望なんかトーカが聞くはずないじゃない。頭悪いの?
この試合でアタシの囚人イベントはこれで終わり。もう闘技場で戦うことなんてないのよ。精々この試合を見て妄想してぶひぶひ言ってなさい。く・ず」
『はい、喜んで!』
『ありがとうございました!』
……なんか、よくわからないけどお礼いわれた。ちょっとヒくわ。
<条件達成! トロフィー:『大切な友達』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>
…………はい?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★トロフィー
大切な友達:フレンド合計が10名になった証。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
片っ端から承認してたけど、よく見たら20人ぐらいいたわ。
こんなんでスキルポイント15点貰うとか、ないわー……。
ああ、でも。
「大人って、ホント馬鹿しかいないのね」
折れてた心は元に戻った。
おかげでいつものアタシらしく、やれそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます