13:メスガキはザリガニと出会う
ガルフェザリガニ。
このガルフェ湿地帯の名を冠する赤い殻を持つ巨大なザリガニよ。本体と右ハサミ左ハサミの三つからなる多部位ボスで、本体を倒せば両方のハサミも動かなくなるわ。
本体の大きさは5mほど。とてもオジサンの【投げる】では投げれそうにない。
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名前:ガルフェザリガニ(本体)
種族:動物(ボス属性)
Lv:46
HP:709
名前:ガルフェザリガニ(右ハサミ)
種族:動物(ボス属性)
Lv:41
HP:212
名前:ガルフェザリガニ(左ハサミ)
種族:動物(ボス属性)
Lv:41
HP:212
解説:ガルフェ湿地帯に住む巨大なザリガニ。硬い甲殻と鋭いハサミを持つ
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右左のハサミと本体を合わせてHPは約1100。本体を倒せばハサミも一緒にたおれるので、実質HPは700ほど。だけどガルフェザリガニ本体は装甲が硬く、並の武器とかではまずダメージが通らない。
じゃあ魔法で攻めればいいんじゃない、って思うのがトラップで、
「サ、【サンダーボルト】!」
どこかの英雄が放った稲妻の矢がザリガニに直撃する。湿地帯のモンスターは水属性が多い。なので雷属性は有効な一打だ。実際、ザリガニにダメージを与えてる。だけど――
「よし、もう一発――ぐはぁ!」
右ハサミから錐状の水矢が放たれる。矢は魔術を打った英雄に高速で飛んでいき、その肩を貫いた。
高火力の物理攻撃。物理防御力の低い魔法使い系は、この一撃に二度も耐えきれない。呪文詠唱時間よりも矢の準備が早く用意され、まともに打ち合えば勝ち目はない。回復アイテムを使っている間に、追撃の矢が飛んでくる。
憐れ引き際を誤った魔法使いさんは、二度目の矢で力尽きた。
「ほ、本当にこれに挑むのか……?」
「とーぜんよ! っていうかここで怖気づいたとかやめてよね、オジサン」
「う、うむ。こ、ここまで来たのだから逃げも隠れもせぬぞ。しかし、その、本当にどうにかなるのか? あれを【投げる】のは無理だぞ」
「分かってるわよ。さあ【投技】のスキルレベルを一気に6にしてちょーだい」
四男オジサンの【投技】スキルレベルは3。湿地帯につく前に余っていたスキルポイントは15。
そこからレベルが3つ上がってさらにスキルポイントがプラス15。そして『格上殺し』『勇猛果敢』のトロフィーで45ポイント。合計でスキルポイントが75点あるはずだ。
それを全部消費すれば――
「こ、これが【投技】の隠された力……! Foooooooooooooo!」
一気にジョブのレベルを6まで上げたことで、いきり立つオジサン。やーねー、盛りのついた犬みたいで。みっともなーい。
……でも、アタシも同じような感覚を味わって、悶えそうになってたんだよね。しかも山賊オジサンの目の前で。あんな風にはしたなく。
やん。わすれよう。
イケナイ何かに目覚めそうになる。
とりあえずオジサンが目覚めたアビリティは、この2つ。
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★アビリティ
【当身投げ】:近接攻撃を受けとめ、投げつける構えをとる。自分より巨大な相手には通じない。格闘武器以外の武器を装備している時は使用不可。MP10消費。
【投げ打ち】:【投げた】時に近くにいるモンスターを巻き込む。格闘武器以外の武器を装備している時は使用不可。常時発動。
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【当身投げ】は攻撃してくる相手を掴んで【投げる】カウンター系だ。ダメージを半減する効果もあるが、逆に言うと半分は喰らう。
(敏捷に特化してHPが低い格闘家には不向きなのよね、このアビリティ)
前にも言ったけど、格闘家は筋力と敏捷を伸ばす傾向にある。【拳打】や【飛翔】は間違いなくこの2点伸ばしでアタッカーとなりえる。攻撃を喰らわず避け、手数を増やす。それがコンセプトだ。
だけど【投技】は違う。特にこの【当身投げ】は攻撃を避けずに受けることが前提だ。筋力と敏捷に割り振って、防御は回避頼りの格闘家のコンセプトには相反する。【投技】が不人気だったのもこのためだ。
「これこそ……これこそ体を鍛えた吾輩にぴったりの戦い方! 攻撃に耐え、そして投げる! ヘルトリング家ご先祖の如き『聖女』を守る盾とならん!」
だけど、四男オジサンは暴走して間違い、耐久をあげていた。加えて硬いけど重いプレートアーマーまで着ている。防御に依ったオジサンなら、【当身投げ】で受けるダメージも微々たるものだ。
問題は結構MP消費量が大きいことだけど――
「MP回復アイテムはもってるわよね!」
「無論! 吾輩に抜かりなし!」
いや、アタシの指示だからね。MPアイテム多く買っててね、ていうのは。
「シジャアアアアア!」
奇妙な叫び声と同時にハサミを腕から外して飛ばしてくるガルフェザリガニ。切り離した左ハサミが弧を描いてオジサンに迫るけど、
「キャッチ! アンド! フォォォォル!」
オジサンはそれを掴んで受け止める。そのまま地面にたたきつけた。
「ガギャアアアアア!」
そして【投げ打ち】。叩きつけた際に発生した衝撃波がザリガニ本体を巻き込む。防御力は有効だが、『格上殺し』と『勇猛果敢』、そしてオジサンが鍛えた筋力が乗って装甲の上からでもかなりのダメージを与えてる。
「おー、マッチしてるわね」
筋力と耐久をひたすら鍛え続けたオジサンならではの戦法ね。
投げる事も【当身投げ】することもできないザリガニ本体から尻尾攻撃もあるけど、オジサンのHPと鎧の防御力なら一発は耐えられる。
「ふはははははは! 見るがいいこの勇士、このパワー!
吾輩の名はゴルド・ヘルトリング! かつて聖女ラーナ様を守りし7聖騎士の一人グラムス・ヘルトリングの血を受け継ぐもの! さあ魔物よ。死を恐れなければかかってくるがいい!」
――いい気になっているオジサンだけど、ハサミがギリギリ投げられるサイズだからできるやり方で、取り巻きを連れていない巨大なボスにはまず通じないから。ついでいうと、遠距離攻撃してくるボスとかは近づく前に殺されてるわね。
つまり、あのザリガニと【当身投げ】&【投げ打ち】の相性の結果なのよね。この無双は。
「オジサーン。HPとMPは自分で管理してねー」
「分かっているとも! そーら、捕まえたぞー!」
投げたりしながら合間合間を見てポーションを飲んでるオジサン。
【当身投げ】がMP10を使い、オジサンは戦士系なのでMPは20もいかないはずだ。なので【当身投げ】の時間が切れると同時にMPを回復しないと追いつかない。
「でもま、この様子なら大丈夫か。巻き込まれないように少し離れとこっと」
最初は恐る恐るだった四男オジサンの動きも、慣れてきたのかスムーズになってきていた。回復のタイミングと【当身投げ】のタイミングをミスれば一気に崩れ落ちるけど、その心配はなさそう。
「……ん?」
ガルフェザリガニから離れたアタシは、岩陰からオジサンの戦いを見ている英雄を見つける。さっきアタシにごちゃごちゃ言ってた3人のおにーさん達だ。
「なあ、あの投げ鎧の格闘家? 強くないか?」
「んなわけないだろう。【投げる】だぞ。強いわけないだろうが」
「でも、ボスを圧倒してるぜ」
おにーさんたちの脳みそは自分の知らない事は受け入れられないのかなぁ? 自分が絶対正しいって勘違いしているのかなぁ?
とか言ってやろうと思ったけど、『あまり波風立てないほうがいい』って四男オジサンも言ってたし、我慢してあげる。うん、トーカえらいっ。
「どういうことだ? 実はあのザリガニ弱かったのか?」
「かもな。だったら俺達も殴りに行こうぜ」
え?
「そうだな。あのおっさん、貴族とか言ってたからこの世界の人間ぽい。現地人にボスを倒されたら、英雄として召喚された俺達の立場がない」
「ちょっとおにーさんたち!? そんな武器じゃ無理だから――!」
止めるよりも先におにーさん達は剣と槍を構え、突撃する。
だけどガルフェザリガニの装甲は厚く、剣と槍はあっさり弾かれた。アビリティを駆使するけど、有効打には程遠い。
そして攻撃してきた相手に向き直り、はさみと尻尾の攻撃を繰り出す。
「ひぃ!?」
あーあ、あんなうっすい皮鎧じゃ2撃でサヨナラね。かわいそーなおにーさん。
右ハサミはおにーさんの首を断とうと迫り――
「ひぃ、だって! あはははははは、おにーさんおかしー!」
ハサミはペンギンローブを着たあたしの攻撃で凍り付き、おにーさんを襲う前に動きを止めたのだった。
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