11:メスガキは湿地帯でカエルになる
オジサンと合流して、アタシ達はガルフェ湿地帯にやってきた。
<フルムーンケイオス>のゲーム仕様に慣れてきた人達がやってくる狩場で、レベル25あたりから5名パーティで安定して狩れるようになる。
出てくる敵もカエルや魚介類系といった水にちなんだ敵ばかりだ。
「うっはー。ジメジメするぅ」
熱気に当てられた湿地帯は肌に纏わりつくような湿気が漂っていた。まだ薄着のアタシはともかく、重装備のオジサンは少しあてられたのか、無口になっている。
「オジサン暑くない?」
「暑いが……それよりも、ここに集まった者達は皆我々よりも強い。吾輩のようなものが混じって大丈夫なのだろうか?」
おじけづいたのか、そんなことを言ってくる。出かける前にもぶつぶつと似たようなことは言っていたが、いざ目の前に着てそれが再燃したみたい。
「おい、何だあいつら?」
「重騎士と遊び人の2人パーティ? レベル22と16?」
「死にに来たのか? やめてほしいよなぁ、ああいうの。自分の実力をわきまえろっていうんだ」
聞こえてくるのはそんな言葉。その重圧をうけたオジサンが身をすくめていた。
「やはり出直した方がいいのではないか? 山賊相手ならまだ何とか……」
「イ・ヤ! こっちの方が効率いいのよ。っていうかオジサンのレベルで山賊狩ってたらどんだけ時間かかるのよ。時間ないんでしょ、オジサンは」
<フルムーンケイオス>はレベルがしたのモンスターを倒しても、貰える経験点にマイナスの補正がかかる。逆にレベルが上の敵を倒せば、経験点にプラスの補正がかかるのだ。
なのでレベルを早く上げたければ、レベルが上の相手を狩るのが一番である。このガルフェ湿地帯はそういう意味ではうってつけなのだ。
「さあ、湿地帯デビューよ! 長居する気はないけどね!」
とにかく目的はオジサンにボス――ガルフェザリガニを倒させることだ。その為の下準備として、もう少しだけオジサンのレベルアップが必要になる。
「基本は、アタシがターゲットしてオジサンが倒す。おっけー?」
「吾輩の方がHPと防御力が高いのだから、吾輩が盾になるのではないか?」
「無理無理。オジサンのざこHPじゃ、すぐに力尽きるわ」
アタシの言葉に一瞬反撃しそうになったけど、言葉を押さえるオジサン。
確かにオジサンの方が耐久力強いけど、この狩場じゃあまり変わらない。一撃で倒れるか二撃で倒れるかの違いだ。よわよわという意味では、オジサンもアタシも変わらない。
そして山賊に使っていた【微笑み返し】はこの狩場ではあまり役に立たないわ。<困惑>はかなりの確率で抵抗される。山賊のオジサンみたいに確実に効くわけじゃないので、戦いの主軸に置くのは危険すぎる。
「見てなさい。トーカの華麗なるランウェイを」
言って沼地から生えた巨大な貝殻に近づいていく。アタシとほぼ同じ高さの白い巻貝だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:アーチャーシェル
種族:動物
Lv:31
HP:79
解説:大きな貝。硬い甲羅を持ち、水を吹き出して近寄る敵を攻撃する
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いきなり大当たりが来た。やりぃ。
アーチャーシェルは『遠距離攻撃持ち』『魔法物理の二連続攻撃』『殻が硬い』とガルフェ湿地帯でも相手をしたくないモンスターの一角だ。
幸い貝の特性なのか自ら動くことはなく、近寄らなければ無害な存在だ。HPはこのレベルで最低ランクだけど攻撃や魔法に対する防御力も高く、苦労に対する実入りも悪いので無視される流れとなっていた。だけど、
「今のトーカ達にとっては大当たりよ。幸先いいわね」
アタシはずんずんと貝に近づく。巻貝が少し傾いて、赤くて丸い瞳がこちらを見た。同時に水が弾丸のように射出される。
魔法属性と物理属性の二種類の水鉄砲を同時に放つ。物理特化防御だと魔法の一撃で倒れ、魔法防御特化だと物理攻撃で倒れる。耐久と抵抗のステータス二種類をバランスよく育てないと、大ダメージ。
言うまでもなく、アタシがまともに食らえばどっちでも死ねるわ。
「やーん、トーカ濡れちゃいそう」
モ・チ・ロ・ン、まともに受ける気なんてさらさらない。
【早着替え】で<フロッガーハット>に装備変更! 瞬間移動の魔法の如く、アタシの服装が入れ替わる。緑色のカエルを模した帽子と、緑色のアイマスク。緑と白の縞々シャツとホットパンツ。
「かえるさーん、けろっけろ。ってね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★アイテム
アイテム名:フロッガーハット
属性:服
装備条件:ジョブレベル13以上
耐久:+1 抵抗:+1 敏捷:+3 <耐性>水属性:50% <弱点>火属性:50%
解説:カエルを模した服。両生類の力を得ることができる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして【カワイイは正義】も発動! 『装備:服』の能力修正値を2倍にするわ。
そしてこの『2倍』は属性防御にも適応される。耐性も弱点も
つまり、水属性からの攻撃耐性が100%になるので……。
「きゃー。つめたーい。やだぁ、服透けちゃうー」
アーチャーシェルの水鉄砲攻撃は100%カット。アタシは無傷のまま、アーチャーシェルの前に立っていた。
「なぁ!? なんであの遊び人無傷なんだ!」
「カエル服でも半分はダメージ受けるはずだぞ!?」
ふっふっふ。遊び人のアビリティを良く知らないざこたちが吼えてるわね。
このままアタシが殴ってもいいんだけど、今の目的はオジサンのレベルアップ。サクッと投げてもらおう。
「オジサン、今よ!」
「うおおおおおおおお!」
アタシの掛け声と同時に、オジサンが走り出す。そのまま一気に掴みかかって、アーチャーシェルを持ち上げる。
「まさか、【投技】だと!? 重戦士じゃなかったのか!」
「アーチャーシェルを抱えたまま高く持ち上げ、背中を大きく逸らしたぁ!」
「あれは、伝説の!」
「「「パワァァァァァァァ、ボォォォォォォム!」」」
「「「バスタァァァァァァァァ!」」」」
……なんか、ノリがいいわね、ギャラリー。アタシには悪辣だったのに。
叩きつけた後、さらにもう一度持ち上げて【投げる】オジサン。それでアーチャーシェルは沈黙した。防御力は高いけど【投げる】はそれを無視する。貝のHPが低いこともあって、その二撃で倒すことが出来た。
「おおおお、なんと。一匹倒しただけなのにレベルが3も上がっただと……!」
そしてオジサンはアーチャーシェルを倒した恩恵で一気にレベルが上がったようだ。相手はレベル31。オジサンのレベルが16だから、相当実入りはいい。これまで格下の山賊を相手にしていたこともあり、あまりの効率の良さに信じられないようだ。
「これが格上を相手するという事よ。トロフィーも二つ入ったでしょ?
「うむ。『格上殺し』と『勇猛果敢』だな」
アタシも持っているレベルが上に対する相手への攻撃補正が付くトロフィーだ。これで打撃力は問題なくなる。
「これで準備は終わったわ。サクッとザリガニ狩りに行きましょ」
「も、もういいのか!? もう少しレベルを上げた方がいいと思うのだが……」
一気に3レベル上がったオジサンだが、やはりガルフェザリガニを狩りに行くのは不安があるようだ。
「いーのよ。レベルなんてボスが出る間で狩ってたら勝手に上がってくわ。
サクッと見つけて、サクッと終わらせましょ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます