第33話 呪いの解き方
シルスに褒められ、気分が良くなったのか無料で皆を占ってくれると言うメレディス。
「タダで!?じゃあ、見てもらおう!一番手はオレで!でもさー、占いなんてのは『あなたは晩年お金が貯まる!』とか、『あなたは最近、失くした物がある!』とか言っときゃいいんだろ?」
「それ、占いって言わないです。そんなコト言ってたら罰当たりですよ、ファイスさん!」
メレディスが水晶の瞳で数秒間ファイスを見つめて目を閉じると、ポツリと呟くように占いの結果を述べた。
「そこの無駄に元気そうなにーちゃん……んー、オマエは……よくバカだと言われる」
「お~、当たってるね」と、シュレス。
「当たってますね」と、シルス。
「当たってるな」と、ルディフ。
無言で頷くファルナルーク。
「みんな、俺をなんだと……それって、占いと関係なくない?じゃあ、次、ファルみてよ」
同様の手順でファルナルークを見るメレディス。
「ネコミミ金髪娘……キミには………んー、オトコ運が無い。うん、無い……えーと……無い……無いわー。キレイな顔してるのにねえ」
「
占いの結果にたまらず抗議するファルナルーク。
「次、あたしー!こーゆーのはさっ!無心にならなきゃ!」
揚々とシュレスが進んで名乗り出る。
右斜め上を見上げ焦点を定めず、ぽかんと口を開けて無心の境地に。
「……朱毛娘……オマエは……んー……なにも悩みがないな……昔はモヤモヤしてたようだが、今は吹っ切れてるね」
「ほら!ね!」
「ね!じゃないですよっ!それじゃ占いの意味ないじゃないですか!」
「占わない占いって新しいよなっ」とファイスがおバカな事を言う。
「それじゃ商売にならないし、ただのぼったくりじゃん。じゃあ次、俺みてよ」
「……オレンジメッシュ……キミは……人を疑う事に慣れすぎ、だな……それが、キミ自身を救い、苦しめてもいる」
「へえ……マトモな事言うじゃん。占いっていうより、本性暴いてるみたいだな」
「え、じゃあ、オレってバカなの?」
「なに、知らなかったの?」と、シュレス。
「知らなかったんですか?」と、シルス。
「………」哀れむように黙って首を横に振るファルナルーク。
「マジかー!そうだったんだな!そうか、これが気付きってやつか!」
「ファイスっち……なんか違うんじゃない?魔女サン、結構ズバズバ当てるのになんで売れないんだろうな?」
「ファルの男運無いってゆーのは当たってるのかなー?」
「それはハズレてるんじゃない?オレがいるじゃん!」
「不安感を
根拠無く何故か自信満々のファイスをジロリと見るファルナルーク。
「ハイハイっ!最後、わたしです!」
「ハーフエルフ……オマエは……?」
メレディスが呼吸を止めてシルスをじっと見つめ……
「オマエは……何者だい?」
長い間をおいて出したメレディスの答えがそれだった。
「え……フツーのハーフエルフですけど……」
「普通のハーフエルフには、そんな魔法紋様はないだろう」
「魔法紋様……?なんだそれ」
いぶかしげなファイス。
「見えるんですか!?」
「式の羅列がなっとらんな。私からすれば、そいつはまだまだ未熟者だな」
誰にも見えない筈の魔法紋様がメレディスには見えている。
――シェラーラの師匠さんだからかな?スゴいや……
――魔法紋様?今まで全然気付かなかった……正体を隠すヤツか?……何かを偽装してる?
さらにルディフの不信感が高まる。
――……これは……
ルディフの中で、一つの結論が固まりつつあった。
「それじゃあ、本題に入ろうか。ここからは有料だよ。先払いでよろしく」
「本題……なんだっけ?」とファイス。
「ファルナルークさんにかかった呪いを解いて頂くんです!その為にはるばる旅してきたんじゃないですかっ!」
「そういえばそうだっけ……よし、ここは!オレがファルの分を出してあげよう!太っ腹ー!」
「へー、いいとこあるじゃん。ファイスっち」
「この旅で最後まで馬車借りなかったからなー。浮いた分だし!」
「だってさ!ここはファイスに乗っといてもいーんじゃない?ファル」
ファルナルークは眉間にシワを寄せて葛藤する。
後でよからぬ要求をしてくるのでは?と。
「……どスケベヘンタイに借りを作る訳にはゆかぬ!」
「ゆかぬ!って、信用ないなー」
結局、代金はファルナルークが支払う事に。
「毎度ありー」
メレディスからは、客への愛想笑いさえ出てこない。商売人として向いていないのでは、とファルナルークは思うが口にはしない。
「では、呪いの症状を簡単に教えてもらえるかな?」
ファルナルークにかけられた三つの呪い。
『思考と喋り方がチューニになる』
『熱湯を冷水に、冷水を熱湯に感じる』
『ネコの習性を真似たくなる、な行がにゃ行になる』
「………なんだ、そのおかしな呪いは。見せてみなさい」
ファルナルークの空色の瞳をじっと見つめるメレディス。
見つめ合うこと十数秒。結論はすぐに出た。
「ヒトのかけた呪いは解ける事もあるが……私はエルフの呪いを解く術はわからない」
「……え!?」
思わぬ答えに固まるシルス。
「私には無理だが……それが出来るのは、キミだよ、ハーフエルフ君」
「え……わたしですか!?」
「オマエさんは半分だがエルフの血を引いている。よほど高位の魔術師ならともかく、エルフの呪いを解けるのはエルフだけだ」
「でも、ネコエルフと太陽エルフって、系列が違うんじゃないの?」と、シュレスが問う。
「そのネコミミはネコエルフの呪いのせいか。系列が違えど、種族は同じだからね。ハーフエルフ君にはその資格がある。呪いを解くなんて簡単な事さ。逆の事をすればいいんだ」
「逆の事……?」
「呪いの逆、祝福、だな」
「祝福……」
「簡単に言えばキスだ。祝福のキス」
「キス!?……キッス!!マウストゥマウス!!」
「……口と口である必要はないぞ。心を込めて額にだな……聞いてる?」
「キッス……!ファルナルークしゃんとキッッッス!!」
「……落ち着け。本当に効き目があるかは、試してみないとわからない、というのが本音だよ」
「あれっ……でも……わたしが呪いを解く……ってコトは……」
――誰かを救う……救済する、ていうコトだよね……
『創造』『破壊』『救済』
未来に影響を与えかねない、重大な禁止事項としてシェラーラから言い渡された3つの項目。
その内の二つは、推測ではあるが旅の初日で破ってしまっている。三つ目の『救済』まで破ってしまうと、未来にどのような影響を及ぼすのか、シルスには想像すら難しい。
――どうしよう……ファルナルークさんの呪いを解くチャンスは今しかない……わたしが呪いを解くなんて……でも!……わたしの初めての……キスで!ファルナルークさんの呪いが解けるなら……!
わたしの初めてを!
ファルナルークさんに!
捧げるコトができるなら!!
「やります!!」
「えっ!?」思わず声が出るファルナルーク。
「そうこなくっちゃ♪」
シルスのやります発言に驚くファルナルークをニヤニヤしながら見るシュレス。
「観念しなさいな、ファルぅ。呪い、解きたいでしょお?」
「ちょっ!え!?」
「ほれほれ、そこに座ってー、身長差あるんだからさっ」
立ったままだと、シルスの顔はファルナルークの胸の位置にある。シュレスは椅子にファルナルークを座らせて差分を無くし、逃げないように後ろから両腕を押さえた。
メレディスは何も言わず黙って見物。男二人も手助け無用と判断して静かに見守っている(見物とも言う)。
「準備よし!ぶちゅっといこう!シルスちゃん!」
「えっ……!心にょ準備がっ」
ファルナルークの身体が思わず強ばる。
「ファルナルー、ク……さんっ……♡」
「こらっ!目を潤ませるにゃっ!」
「ファルナルークさあああん……♡♡」
「………!!」
――わたしの……初めての……キスで……ファルナルークさんの……呪いよ……消えて……!
ツヤツヤサラサラの前髪。
吸い込まれそうな空色の瞳。
きゅっと目を瞑って少しだけ震える長い睫毛。
日焼け知らずのキメ細やかな白い肌。
一目惚れした人が目の前にいる。
呪いを解けるのは自分しかいない。
シルスは目を閉じ、願いを込めてそっとファルナルークの額にキスをした。
「……?」
「……何も起きないね……ぴかーって光るとか、煙がモクモク出るとか、ぼーんってバクハツするとか!」
「なんか悪霊めいたもんでも出るかと思ってたけど……ギャー!ってさっ」
シュレスとファイスが言うように何の変化も効果も無いように見えたが、それが一番分かるのはファルナルーク本人である。
「何か感じる事はないかい?」
「特には何も……」
メレディスの問いかけに静かに答えるファルナルーク。
「ふーん……ねー、ファル。『野の菜の花、名も無き根無し草』って3回言ってみて」
「え……野の菜の花、名も無き根無し草。野の菜の花、名も無き根無し草。野の菜の花、名も無き根無し草。……なに?」
「ちゃんと言えてる……ちなみにシルスちゃん、言ってみて」
「はい!野のにゃにょはにゃ、にゃも無きにぇにゃしぐさ、にょのにゃにょはにゃ、にゃもにゃきにぇにゃしぎゅしゃ……あれっ?」
「あっははー!シルスちゃんは早口言葉、言えないだけだねー。ネコエルフの呪いは解けたみたいね」
「あ、ネコミミ、無くなっちゃいましたね」
「ホントだ。無くなっちゃったねー。可愛かったのにねー」
「なんでシュレスまで残念そうなのっ」
いつの間にかファルナルークの紫色のネコミミは消え、な行の発音も元通りになり、チューニな喋り方も消えていた。
いとも簡単にあっさりと、呪いは解けたようだ。
「なんだ。ファル、フツーに喋れるじゃん?あのヘンな喋り方、地だと思ってた。今まで時々ナニ言ってるかわかんないコトあったからなー、良かったなっ!」
「呪いのせいだって気付かないワケ!?あんなイタイ喋り方思い出すだけでも恥ずかしいわよっ」
「黒歴史なんて誰にもあるものです!わたしはカッコいいって思ってましたよっ」
「カッコよくはなかったんじゃない?……くろれきし?」
「じゃあ後は、水、だな。冷水を熱湯に感じる、ってヤツな」
メレディスに水を分けてもらい、おそるおそる人差し指で触れてみる。
「熱くない……冷水、だよね……」
コップの水を一口、口に含み、こくん、と飲み、
「冷たくておいしい……!」
ファルナルークがまともに水を口にしたのは久し振りの事だった。
シルスと出会う前、シュレスと共に旅をしていた時に呪いにかかってしまったのだから、実に約3ヶ月ぶりである。熱湯を冷水に感じていたとはいえ、本当の冷水とは少し感覚が違うようだ。
「よかったですねっ!ファルナルークさん!」
「あ……あり……が……」
「あっ、そうだっ!わたしっ!折り入ってメレディスさんにとっても大切なお話があるんですっ!」
ファルナルークが何か言いかけたが、シルスは最も重要な案件が残っている事を思い出しメレディスに向き直った。
「うん?なんだい?」
「あの、ここじゃ、ちょっと……」
「ふむ」
――……皆には聞かれたくないのかな?
シルスにそっと耳打ちで問う。
シルスが小さく頷くと、メレディスはシルスに奥の部屋へ行くように促し、寛いでいきなさい、と4人を残して部屋を後にした。
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