メレディスさんはスゴい魔女さんです
第32話 ようやく出会えたその人は
お気楽御一行『7月組』は25番区に到着。
スリ、置き引き、ひったくり。食い逃げ、ポン引き、ぼったくり。
外壁に近く外門から離れた20番代の区はしょうもない犯罪発生率が高い傾向にあるが、エルフ失踪事件は起きていない。
そもそも、気位の高いようなエルフが寄り付かない土地柄であるから、そのような事件が起きようもない。
派手な看板、奇抜な装飾の店構え。
いかがわしい店がちらほらと見え、肌の露出が多い女性が昼間から客引きをしている。
昼日中から飲んだくれているのか、誰もいない壁に向かってくだを巻いている者や、死んだように動かずに仰向けに爆睡する者もいる。
こういった『やさぐれたオトナ』の場所に来るのが初めてのシルスにとっては、見るもの全てが新しく物珍しく映る。
「『スケスケぱふぱふ』って何のお店ですかね?変わった名前ですねー」
「見ちゃダメだよー。教育上、シルスちゃんにはよろしくない場所みたいだねー」
「なんなら入ってみる?社会勉強にさっ!」
どすっと肘で小突かれるファイス。
「いて!なんだよ、ファルっ」
「キサマには節度とか節操というもにょはにゃいにょかっ!」
「もし、まかり間違って二人が一緒になって子供が出来たら、教育方針でモメそうだよねー!あっははー!」
と、シュレスが軽く笑い飛ばす。
「それは絶対にありえません絶対にです」
ファルナルークより先に真顔でシルスが言う。
「えー、わかんないじゃん?」
「絶対に
ファルナルークもシルス同様、真顔である。
「あ、あった。あれだよね」
怪しげな店の並びに紛れるように、小さな看板が掲げられている。シュレスが見つけなければ素通りしたかもしれない。
『ザ・メレディスルーム~よく当たる占い師!アナタも今日からハッピーライフ!~』
「……これはお世辞にも繁盛しそうにない店名だねー」
「土地柄のせいもあるだろうけど、黒姫サン言ってたな。売れない、って。占いブームなのに、なんでだろうな」とファイス。
「……この張り紙のせいじゃん?」
ルディフが指差すその先に。
『今、店の会員になれば水晶石プレゼント!金運、恋愛運、仕事運だけじゃない、友達運、くじ運までも爆上がり!これであなたも人生の勝ち組!』
「……わざと人寄せ付けないいうにしてるのか?」と、裏を読むルディフ。
「そうかなー……これで入会する人は、よっぽど好奇心旺盛か騙されやすいんだろうね。鵜呑みにしちゃダメだよ、ファイス?」
「えっ!しないし!」
「……キョーミあるみたいだね」
「入ってみましょう!意外といい人かもしれませんし!ファルナルークさんにかかった呪いを解いてくれますよ!」
――……こんな場所に店出すような魔女の事を、なんでシルったんが知ってるんだ?
一度、疑念を持つとそれが晴れるまでには時間がかかる。晴れの方向へ向かうどころか、ルディフの中の猜疑心は膨らむ一方だ。
建付けの悪いドアを開けると、カランコロンと意外と爽やかな音のカウベルが鳴る。
『ようこそ、メレディスルームへ。御用の方はこちらへ~』
と、受付に置いてあるスラッシュピンクの頭蓋骨が喋る。他所の店でも色違いのものをいくつかみかけたが、ここまで派手な色使いのものは見かけなかった。
「魔女のイメージそのままだなー」
「ファイスさんのイメージは偏ってますよっ。魔女さんは怪しい人ばっかりじゃないですー!」
シルスの脳裏に、遠く離れた場所にいるシェラーラの顔が思い浮かぶ。
シェラーラも風変わりなセンスの持ち主だったが、ピンクのドクロの置物などは見た事がない。
薄暗い廊下にぼんやりと赤く光る矢印に従い進むと、濃い紫色に塗られた扉に突き当たった。
「なんか、緊張しますねっ」
シルスがノックしようとすると、
「入りたまえ」
入室を促す女性の声が扉の向こうから聞こえてきた。
低くハスキーだがよく通る声だ。
「失礼しま~す……」
おそるおそる、シルスが扉を開ける。
中は意外と広いが窓は無く、換気用の小窓が一つだけ。灯りはろうそくが数本のみの薄暗い部屋の奥に、魔女メレディスはいた。
その姿を見てシルスが驚く。
「え……っ、シェラーラ!?シェラーラも『ピー』から来たの!?」
「……インチキくさっ」
メレディスを見て思わずぼそっと本音を言ってしまうファイス。
「失礼だよ、ファイスっ」
小声でシュレスが嗜めるが、必死に笑いを堪えるように肩が小刻みに震えている。
「……初めまして、ハーフエルフ君。私はメレディス。君の知るシェラーラという人と似ているのかな?」
魔女 メレディス
長い黒髪の毛先を朱から紫のグラデーションに染め、耳には三日月や星の形のいくつものピアス。
すらりとした細身の身体に、胸元が大きく開いたパープルピンクのヒラヒラナイトドレス。
重なりあうとしゃららんと綺麗な音がする色とりどりの複数の腕輪。長く細い指には全て色違いのマニキュア。
インパクトのある第一印象だが、派手な外見よりなにより一番目を引いたのは、ろうそくの灯りに淡く妖しく水色に光る瞳である。
「え、っ、あ。スミマセン……ソックリだったので、つい……えと、わたしの名前はシルスです。メレディスさんにお願いがあるのと、あと伝言を伝えに来ました!」
「……ふむ」
客ではないなら出ていけ、とか、仕事の邪魔だ、とか言われるかもと懸念していたのだが、すんなりと話を聞いてくれるメレディスに、シルスはほっとした表情を浮かべる。
――……さっきのおかしな音はなんだ?聞き取りを出来なくしてる……音声阻害ってヤツか?何の為に……?
空耳でも耳鳴りでもない、おかしな阻害音に不快感と疑念を抱くルディフ。
アールズに来てから、ルディフがシルスに対する不信感は事あるごとに大きくなっていく。
「目が光ってますね……魔法、ですか?」
「私は目が良くなくてね、瞳の中の水晶体に魔水晶石をブレンドしてあるんだ。あんまり、じっと見ちゃダメだよ。水晶の魔力に魅入られちゃうからね」
「澄んだ湖に映った空の色……スゴくキレイです!」
「おや、嬉しいコト言うコだね。ありがとね」
「オレにはインチキ臭い占い師にしか見えないけどなー」
「またそんなコト言ってもお、失礼ですよファイスさん!」
「そうだね……この瞳がインチキじゃないってトコロを証明してみせようかね。オマエ達4人はマジクスだろ?
マジクスにはその証として小さな赤い斑点がある。何系のスキル持ちなのかと、赤斑点の場所をこの瞳で見抜いてやろう」
「へー、そんな事分かるんだ。でもオレは数に入んないかな。右耳のが丸見えだしな」
「そうか。それじゃあ……オレンジメッシュの兄ちゃんは、情報系スキル使い。赤斑点は右肩の鎖骨にある」
ルディフを一瞥しただけで、赤斑点の場所とスキルの系列を言い当てるメレディス。
「おー、やるねえ……シュレスっち、なんでニヤニヤしてんの?」
「いやー、別にぃ」
と、ファルナルークの方をチラッと見る。
ファルナルークは真っ赤になってじろりとファイスを睨み付けた。
「えっ?なになにっ?オレ、なんかやらかした!?」
「キサマが余計にゃ
「三つ編み娘の赤斑点はうなじ。髪の生え際。オレンジメッシュと同じく情報系スキル使い」
「へー、見えにくいトコですねー。シュレスさん、情報系なんですねー」
次いでファルナルークを見るメレディス。
「ネコミミ金髪娘のは……ほほう」
「えっ、なになに何処にあんのっ!?」
どすっ!とファルナルークに肘打ちを食らうファイス。
「いてっ!なんだよファルっ!」
「貴様には
ファルナルークから怒りのオーラが立ち昇る。
「赤斑点にょ事はどーでもよいっ!コムスメっ!ここに来た理由を
「えっ、あ、ハイ!リョーカイです!」
ー……コムスメ、かあ……わたし、まだファルナルークさんに名前で呼ばれてないや……
シルスはメレディスの瞳を真っ直ぐに見つめて言う。
「ある人から伝言を預かってきたんです。誰かは言えないんですけど……」
「ふむ、言ってみな」
「あの、怒らないで下さいね?」
「内容にもよる」
「え~……えっとですね……『師匠よ、自分で考えろ』です」
「……それだけ?」
「ハイ!」
「へえ……」
すうっとメレディスが眼を細めると、水晶の瞳が淡く妖しく光ってみえる。
「ふうん……時の魔女、ね」
「え……っ!なんで……?」
「私の弟子は……いや、止めておこう。これからの出会いの楽しみはとっておかないとね」
「メレディスさんて……もしかして、スゴい魔女さんじゃないですかっ?」
「おや、また嬉しいコト言うコだね。じゃあ、特別に、皆をタダで占ってあげよう」
シルスの素直な感想に目を細める。
メレディスはどうやら、誉められると気分が良くなるタイプのようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます