第130話 収穫祭に向けて 其の五

 ヘルガさんと動きの確認を繰り返した後、プランをより詳しく書き換えていると、師匠が帰ってくる。日はもう昏れかけていて、空は茜に染まっていた。


「コルネくん、マシューさんの家には行けたかい?」

「はい、二曲とも聴かせていただいて──今プランをもう少しで詰め終わるので、これが終わったらちょっと付き合ってもらってもいいですか?」

「もちろん、僕の部屋にいるから終わったら声かけてね」


 急いで最後の部分を書き加える。ここはこうで…………最後は、こう!


 師匠を呼んでから、また道場の裏に向かう。そこで、俺は大変なことに気付く。


「師匠は、まだ曲を聴いてないですよね?」

「えっ? いや、マシューさんのところに決まったときに聴かせてもらったよ。僕は出かける予定があったから、ここで聴いとかないとと思って」


 よかった──曲を一度聴いたことがあるのとないのでは、今からの練習が全然違ってくるから、師匠が聴いてくれていて本当によかった。ナイスな判断だ。


 さっきまで使っていた木刀を拾い上げ、片方を師匠に渡す。そして持ってきたメモを見て──見づらいな……ヘルガさんとやっていたときはまだ明るかったが、もうかなり暗いのだから当然か。


「ブライト!」


 出力を弱めた「ブライト」を使って、手元を照らす。師匠の「おおー」という声が傍らから聞こえる。


「最初は太鼓の音が八拍なので、そこは俺の光の魔法剣を使います。その後、俺が雷に切り替えて打ち込むので、師匠は土の魔法剣で受けてください──今は木刀なのでできませんが。そこからは、型稽古の炎から始まるのと同じように──まずはここまでやってみましょう」

「は、はい」


 師匠はどうやら緊張しているようだ。


「俺が動きに合わせてカウントを取るので、一度いつもより少しゆっくり動いてみてください」


 そう言って俺は木刀を正面に構え、カウントを取り始める。


「ワン、ツー、スリー、フォー……」


 八つ数えたところで、カウントを取りつつ、俺は師匠に向かって木刀で打ち込む。


「……ツー、スリィィィイィィィィイィィイ、フォー──」


 ところどころカウントが伸びてしまうところがあるが、一回目だから仕方がない。いつも行っているものだから、師匠も俺も動き自体はとてもスムーズだ。


 一つ目の型稽古の終わりまでやったが、カウントに合わせてやるのは意外と難しいかもしれないと思った。


「二つ目のスリーの部分──受けてから押し返す部分は、もっと早くていいですね。それと三つ目の部分は少しゆっくりめに。他の部分は一定の間隔で動くことを意識してください」


 そう言ってもう一度カウントを取り始める。暗い中やるのは師匠に申し訳なく思うが、時間がそんなにないので、少しでも早く動きをインプットしてもらいたいのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る