第95話 レオンの剣術道場 其の六(ヨーゼフ視点)

「今度、ロンドのところからコルネという弟子が来るから、案内をしてほしいのじゃ」


 そうお師匠様がおっしゃったときは、正直面倒だと思った。付け加えられた「わしの客人としてな」という言葉でさらに面倒臭さが増した。


 きっとお師匠様は最近俺が行き詰っているのを知っていて、これは「その弟子から何かヒントが得られれば」という心遣いなのだとは思ったのだが、面倒なことに変わりはない。


 話を聞けばそのコルネという弟子は、まだ子どもだというではないか。お師匠様に言われたからするしかないのだが、その子どもを客人として扱うのは少し癪だった──俺もまだ子どもと呼ばれる年齢だから人のことは言えないのだが。


 俺を含めて多くの剣士は、おそらく魔法剣士のことをあまりよく思っていない。魔法剣士が戦うところを実際に見たことはないが、剣に魔法を纏わせるという不思議な戦い方だと云う。


 のみならず、戦闘中に単なる魔法を使うこともあるらしい。これが特に剣士の反感を買っているのだ。


 剣士たるもの、剣一本と己の肉体だけで勝負すべきであり、そこに魔法を混ぜるなど剣術の美学──のようなものに反する。魔法も体から出すものなのだから、肉体といえば肉体ではあるがそうではないのだ。


 まだ未熟者の俺が美学を語るなどあさましい気もするが、純粋な剣術を追い求めている者として、俺には受け入れられそうにない。道場で魔法剣士の話題が上がったときの周りの反応を見るに、同様のことを考えているようだ。


 だからこそ、牽制の意味で客人扱いするように言ったのだろう。


 そして、あまり歓迎という雰囲気ではない中、その弟子はやってきた。第一印象は落ち着いていて、年齢の割にしっかりしているようだというものだった。


 お師匠様のもとへ案内したときには、急にお師匠様が飛び出してきて驚いた。少しお茶目な部分はあるが、あのような言動をする方ではない。


 同時に、俺は一瞬で理解した。あの反応は、「普段は遠方に住んでいて会えない孫が久しぶりにやってきたときの祖父」だと。


 物静かな祖父が、孫が会いに来たときだけ別人のようになって孫を甘やかす。このような現象を耳にしたことがあったが、それがまさにこれだろう。


 お師匠様は同じSランク冒険者ロンドとは歳が離れているが、仲が良い。その様子はまるで親子のようだったと、二人が話しているのを見た他の弟子から聞いたことがある。


 つまり、子ども(のように思っている冒険者)の弟子は────実質孫!


 彼を客人扱いするように言ったのだって、孫に嫌われたくない気持ちも多少は含まれているに違いない。


 お師匠様にもこのような一面があったとは……これはみんなで共有しなくては。俺は見えないところで、静かにほくそ笑む。

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