第12話心配した
今回の対戦相手、宮城スーパースピードとの世界が交差するスポットは
親切市の中心地からやや郊外へ入り、山間の地に踏み込む手前にその場所は位置していた。
東北有数の都会である親切市の中心地から郊外のニュータウンへ、遠くに豊かな山林が見えてくる。
徐々に景色を移しながらチームバスは走った。
バスはやがて古さを残す集落に入る。
木造の日本家屋が多く残る場所、寂れている訳ではない。
集落の規模は大きく、日本家屋の街並みの中に新しくお洒落な看板や建造物が混じり馴染んでいる。
有名な不親切温泉の温泉街である。
ご存知でない方に説明をすると、不親切温泉は日本名泉百八選に選ばれる人気温泉地であり、親切市の名前の元になっている事でも知られる。
名前の由来は手拭いや桶等の、所謂アメニティ類を一切置かなかった事からきていると言われている。
この地で湧く湯は神聖とされており余計な物を持たず身一つで只々、湯を堪能するのが正しいとされた。
かつての温泉街はもっと質素で食事をとれる所も僅か、浴場の場所も分かり難かったりまさに不親切であったという。
近年は町おこしの名目で店を誘致し街並みも整備され、随分賑わいを見せている。
とはいえ不親切の精神は浴場に生きており、桶や手拭いは基本置かれていない。
最後にこれは語り手の私見であるが、不親切温泉街の人々はとても親切である。
そもそも観光地の住人は一部例外を除き、オープンで親切な方が多いので安心してご利用いただきたい。
話は大幅に逸れてしまったが、チームバスは真っ直ぐ目的地に到着した。
木造日本建築で風光明媚な温泉街にマッチする旅館風の建物である。
只とにかくデカい。十五階建てで面積も広く、そのデカさだけで情緒ある街並みから浮いてしまっている。
今回の舞台、
未練には心配があった。この試合でバッテリーを組む海鈴である。
海鈴は未練の実力を全く認めていないようで、事あるごとにきつい言葉をかけてくるし馬鹿にした態度をとる。
要は関係が上手くいっていない訳だが、それだけならまだいい。
関係が悪いあまり海鈴は未練の球を未だ受けたことがなく、プレイの面で不安があるのだ。
きつい事を言われるのは嫌だったが、背に腹はかえられない。
勇気を出して話しかけた。
「お前の糞ボールなんて練習いらんわ、タコ」
案の定である。
「つーかなんでお前出てんの? お呼びじゃないんだけど」
未練も与えられたチャンスに必死である。
海鈴の態度にイラついてはいたが、なんとか食い下がって海鈴との投球練習を実現しようとした。
「しつけーんだよ。ストーカーかよ」
ストーカーで結構、未練は更に食い下がる。
未練の粘りが功を奏し、海鈴は渋々求めに応じる事となった。
時間がない、さっさと始めなければ。
スタジアム外の離れにあるブルペンで投球練習をスタートする。
初球ストレート、問題なく捕球。
未練は少し安心した。海鈴は未練のボールに上手く対応している。
二球目ストレート、問題なく捕球。なんだ心配は杞憂だったか、と未練は考え始めた。
少し神経質過ぎたかと。
視線を感じる。
未練はチームメイトからの腫れ物扱いには慣れていたが、海鈴にとっては気になるようだ。
投手数人がチラチラと見ていた。
その中で美々が複雑な顔をしている。
あまりジロジロ見たくはない、が好奇の目が抑えられないといった顔。
キャッチャーマスクを被った海鈴の表情は窺い知れないが、マスクの奥から未練を睨み付ける眼光だけは確認出来る。
「もういいだろ、他の奴のボールも受けたいしバッティング練習もしたい。じゃあ試合でな」
いやまだ二球……未練を無視して海鈴はさっさとその場を離れた。
東京野球競技部隊
1(遊)熱原夏美
2(三)大谷川清香
3(二)五村圭介
4(一)鬼清勝
5(捕)
6(右)
7(中)
8(左)
9(投)岡本未練
宮城スーパースピード
1(中)ッ
2(右)ピュン
3(遊)ギュルンッ
4(三)キューンッ
5(左)ビューンッ
6(投)シュッシュッシュッシュッ
7(二)スン……
8(捕)キーーン
9(一)マッファ
両チームのスターティングメンバーが発表された。
まもなく試合開始、神も姿を現し今か今かと待っている。
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