『狼よさらば』
チャールズ・ブロンソン主演のガン・アクション。ブロンソンの映画はどれも面白いが、現時点における最も好きな作品である。
幸福や平和を築くのは至難である。それは生涯をかけた大事業だ。ブロンソン扮するポール・カージーは人生の成功者と云っていいだろう。仕事は順調。妻のジョアンナとは良好な関係が続いている。娘のキャロルは嫁に行った。まったく問題がない。
まるで、絵に描いたような円満風景だ。しかし、ある日突然、カージーの絵は残酷に引き裂かれる。人面の鬼畜と呼べる無法者三人によって。
ジョアンナは殺害された。キャロルは精神を破壊された。回復の見込みはほとんどない。捕らえざまに焼き殺してやりたいところだが、三外道の行方は皆目わからない。追い詰め、仇を討ってくれる筈の官憲もあまり頼りにならない。
この映画は「闇の処刑人」に変身したカージーの孤独な戦いを描くものだが、いきなり狼に変身するわけではない。むしろ、それまでの過程が真の見せ場と云える。暴力嫌いのカージーが「一線を越える」瞬間に着目してもらいたい。
変身後のカージーの行動は「異常」と云う他はないが、彼の苦悩を知る俺たちは、そうは思わない。同情と共感を覚えつつ、彼を応援する。ブロンソンの個性が、疑問や理屈の大半を吹き飛ばしてしまうのである。まったく凄い役者だ。
現代の俳優にブロンソンを求めるのは無理であろう。先にも後にも、ブロンソンは存在しないのだ。名優とはそういうものである。
カージーを追跡するオチョア警部(ヴィンセント・ガーディニア)もなかなかいい役だ。刑事コロンボの影響でもあるまいが、滑稽味を帯びたキャラクターで、深刻な表情を崩さないカージーと好対照をなしている。
処刑者カージーに対して、警察は総力戦で臨んでいる。同じ情熱で彼の仇を追ってくれたら、捕縛に至ったのではないかと思わせるほどだ。名誉や面目を病的に重んじる官憲の体質がよく出ている。秀逸な脚本である。
映画の後半に、カージーに窮地を救われた市民(目撃者)が、彼をかばうシーンがある。殺伐たる巨大都市にも、人間の心を持つ者はいるのだ。オチョア警部に問い詰められても、偽りの返事を重ねる。それを承知で見逃す警部も相当な度量だ。ニューヨーク版『勧進帳』である。
もし仮に、自分が目撃者の立場だったら、ウソをつき通すことができるだろうかと、観る度に思う。〔3月1日〕
[おねこ。さんのコメント]
難しそうな映画ですね(ノ_・。)
[闇塚の返信]
そうでもないですよ。難解な場面はひとつもありません。エンタメ映画として、気軽に楽しんでください。
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