『必殺4 恨みはらします』
面白い映画である。テレビ時代劇を劇場用としてスケールアップさせたものだが、結果的に「面白くなっちゃった」という感じである。
深作欣二が別の映画で使おうと考えていた(と思われる)アイディアを惜しげもなく、投入したからだろう。必殺の枠を飛び越えて、深作好みの異形時代劇に仕上がっている。これはまさに深作映画である。
その意味では、宮崎駿の『カリオストロの城』に似ている気がする。必殺ファンの中には、不満を覚える人がいるかも知れないが。
我らが千葉ちゃんが漂泊の仕事人〔わらべや文七〕を演じている。木枯し紋次郎と子連れ狼を組み合わせたようなキャラクターである。渡世人風の衣装がよく似合うし、刀の扱い方もさすがに手慣れている。
文七に対抗するキャラクターとして登場するのが、蟹江敬三演じる九蔵である。普段は「バカのふり」をしているが、その正体は、凄腕の殺し屋である。蟹江さんの狂気を帯びた表情と眼差しがいい。巧い役者である。こういう人がいないと活劇は撮れない。
文七と九蔵の決闘は、終盤に用意されている。この映画の(事実上の)クライマックスと云える。ゴーストタウンと化した「おけら長屋」をぶっ壊しながら、延々と斬り合うのだ。JACのやり手を動員して、迫真の見せ場を作り出している。
CGの発達は映画の可能性を広げてくれたが、やはり、生身のアクションにかなうものはない。可能性は広げたが、同時に、活劇の醍醐味を殺してしまったのが、CGの功罪ではないかと俺は思う。
千葉ちゃんの愛弟子、真田広之が本格の悪役に挑戦している。美貌の新任奉行、奥田右京亮である。端整な容姿の裏側には、どす黒い感情が渦巻いており、目的を果たすためには、いかなる手段も厭わない。
サイコパスの一種であり、画面に現れる度に禍々しい気配が漂う。あるいは、この男、沢田研二が演じた天草四郎の「江戸に転生した」姿かも知れない。
ある悲劇が右京亮を「歪んだ方向」へ走らせたわけだが、本当にそうなのか?どうも俺には「初めから歪んでいた」ように感じられる。土壇場の怪演も含めて、真田さんのベストワークのひとつだと考えている。
ゲスト陣の印象が強烈過ぎて、主人公であるはずの中村主水の影が薄くなっているのは否めない。だがそれは、スペシャル版特有の現象であり、必ずしも弱点とは云えない。主水が右京亮のルーツを探る場面が好きだ。〔12月24日〕
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