帝国を与えられし王
第59話 勝利と彼らからの歓迎
モンゴル帝国首都カラコルム
終戦交渉から5日後、長篠(ながしの)昇(のぼる)は、モンゴル帝国首都カラコルムに入った。
彼は、終戦交渉の後も一部の地域では戦闘が継続されていたため派遣された日露仏連合陸軍第22機甲師団第1戦車連隊と共に戦闘が終わっていない地域に向かい行動していた。
そして、戦車の燃料及び弾薬補給の為に物資集積所で待機していたところ兵士に呼ばれカチューシャの居るカラコラムへと向かったのである。
「…。」
車から恐る恐る降りた昇は、辺りを見回した。
目の前には、コンクリートの外壁と鉄鋼で出来た大きなゲートがあった。
さながら、軍の基地のようなもので兵士がゲートの横に立っていた。
「お待ちしておりました!」
「ごくろう…では、私はここで…。」
「はい!」
車に降ろされるやいなや車はどこかに言ってしまった。
「長篠昇伍長ですか?」
「はい。」
礼装を纏った日仏露連合の兵士がそう声をかけてきた。
彼らとは対照的に戦闘服を着ているので少し戸惑っていた。
階級章を見ると中尉だったため緊張した。
そんな彼らは、俺のことなど知らないように気さくに声をかけてきた。
汚れは、落としたものの海のような匂いと石鹼の匂いが服には残っていた。
「カチューシャ様がお待ちになっています。それと、服も用意してありますのでまずは身体をお清めください。」
「はい…その…なぜ、私は呼ばれたのでしょうか?」
「カチューシャ様、直々の命令なのでなんとも…。」
「…そうですか。」
「少しお疲れのようですが、どうかお願いします。カチューシャ様より案内するよう言われておりますので今は、階級を忘れ気をお休めください…。…もし、良ければ女性の隊員をお呼びしますが…どうでしょう?」
「いえっ…大丈夫です。その…中尉…あなたの名前は?」
「錦戸(にしきど)Ренат(レナート)と申します。」
「では、錦戸さんとお呼びしてもいいでしょうか?…あっ…その…今だけですが…。」
「ええ、かまいません。では、案内いたします。」
錦戸ともう一人の兵士と共にゲートをくぐり、石造りの宮殿のような建物へと道を歩く。
そして、部屋に通された俺はシャワーを浴び用意されていた白い礼装に着替えカチューシャの元へと錦戸中尉に案内された。
「この部屋です。それでは、私共は扉の前で控えておりますので…。」
「わかりました。」
「それでは…。」
俺は、扉を開き中に入った。
すると、そこにはドレスを着ていてメイクもしていたカチューシャが居た。
訓練の時とは違い長い金色の髪を束ねては居なかった。
「久しぶりね、昇…。」
「ああ、久しぶり…カチューシャ…。」
「元気そうで良かったわ。」
「ああ、…うん。」
「とりあえず椅子に掛けなさい…って、そこじゃなくて私の横に…そう、そこでいいわ。」
部屋には、木製の楕円形の椅子が置かれていたので俺はカチューシャの反対側の椅子に掛けようとしたがカチューシャに呼ばれ彼女の左側の椅子に座った。
「その…ええっと…何か用事でも?」
「…せっかく戦争が終わったのに何でそんな暗そうなの?」
「少し疲れているみたいで…。」
「そう…それは、さておき…怪我は無いみたいね。」
「ああ…。」
「その…何か戸惑っているみたいだけど、どうしたの?」
「何というか…ここに居るのが場違いなような気がして…。」
「…どういうこと?」
「なんていうか…その…。」
「それって、私がカチューシャ様とか言われているせい?」
「それも、あるけど…なんでまたこんなところに?」
「…それも、そうね。まあ、あまり考えないことよ。」
カチューシャは何も関心がなさそうにそう言った。
「…そっか。ところでなんで俺をここに呼んだの?」
「あなたに会いたいって、人が居るのと私からあなたに送り物があるってところね。ところで、Ppsh-41は使えた?」
「使えたよ。」
「そう…でも、捨てたみたいね。」
「…あはは…ごめん。」
「トカレフは?」
「持ってるよ。」
「見せてくれる?」
「ああ…でも、手入れしてなくて…」
「どれどれ…あ~…ダメね。預かっておくわ。」
「怒らないの?」
「所詮、配備数が追い付いていないだけだから希少ではあったんだけどね。あなたが無事ならそれでいいのよ…。」
無茶苦茶怒っているのを感じながら昇は、トカレフをカチューシャに渡した。
弾が無くなってからも持ち歩いていたし、トカレフ本体はというと泥や血が付着してしまったので布で拭いたりしたがやはり傷がついていた。
「その…カチューシャ…聞きたいことがいくつかあるんだけど…。」
「C分隊のみんなのこと?」
「そう…Barlow(バルロー)曹長や、木村軍曹は…。」
「全員、生存は確認できているわ…。」
「そっか…。」
「でも、坂上伍長は良くはないわ…。だから、もう少ししたら会いに行きなさい。」
「よっぽど酷いの?」
昇は、カチューシャに恐る恐る尋ねた。
カチューシャは言いだしづらいのか顔を縦に振った。
「…そのね…今日、あんたを呼んだのには理由があるの。まずは、あなたの安否確認、それと新しい武器とボディアーマーの支給…最後にこれから来る二人との会談。…私からは、それだけ…。」
「新しい武器って?」
「M1897…使い方は教えたでしょ?」
「…新しい武器っていうより既存の武器じゃないの?」
「ふふっ…あはは…。」
「えっ…いやっ、あのさあ…。」
「そりゃ新しい武器って聞いたら新兵器だと思うわよね…残念、そんなことはないわ。次の戦場のための装備よ。まあ、ボディアーマーの方は現段階での最新装備だけどね…。」
「はあ…。」
「まあ、落ち込まないで…あんたにはこれから3ヶ月間休暇を与えるわ。好きに過ごしなさい。」
「3ヶ月…って、そんなに!」
「ええ、もちろん。」
「…まだ、帰れないのか…。元の世界に…。」
「少なくとも年単位になりそうね…。」
「そんな…。」
「とにかく、そういうことも含めて気晴らしに何かしなさい。今回の作戦で艦艇の修繕や新しく武器、弾薬を生産しなければならいし何より本土とこの国を行き来する船も足りないの…。」
「それは、わかるけど…。」
「あんた達が元の世界に帰れるように調整はしているの、でも、まだそれには時間がかかるの…。」
「わかったよ…。」
俺と、ドルマーの話が一段落したところで扉が音を立てて開かれた。
扉の近くには錦戸中尉が居たはずだったのだが…。
「誰!」
カチューシャがそう立ち上がって叫んだ。
「これは、失礼。」
彼はそういうと部屋に入ってきた。
「カチューシャ様、申し訳ございません。」
「まったく…せっかちですね。」
「あまり待てない性分でね。ドルマーも入りなさい。」
「なっ、お待ちを!」
「錦戸、通しなさい。」
「しかし…。」
「いいから…引き続き見張ってなさい。」
「は!」
部屋に入ってきた男とどこかであったような少女が俺の座っている席の真っ正面に腰をかけた。
「初めまして、長篠くん。私はЧингис хаан(ジンギス・カン = チンギス・ハーン)だ。…そう警戒はしなくていい。敵だった、君らを元の世界に返すという目的ではカチューシャや、山本と同じだ。」
「…本当ですか?」
「本当よ…紹介するわ。ジンギス・カンさんと隣に居るのはDolmaar(ドルマー)よ。」
「初めまして…というより、夢の中でお会いしましたね。」
「…やっぱり…それじゃあ、君は…カチューシャやジャンヌ達と同じで…。」
「ええ、色々知って居ますよ。」
「さて、ひとまず私の目的はほぼ達成できた。ドルマー、後は頼んだよ。」
「はい、それじゃあ行きましょうか…。」
「えっ…どこへ?」
「休暇に決まっているでしょ?」
「3ヶ月後にまた会おう、昇君。私からの贈り物も貰ってくれ。」
「荷物は、後で錦戸中尉に送って貰うわ。楽しんできなさい♪」
俺は、そうカチューシャに言われるとドルマーに引っ張られながら部屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます