第47話 遥かなる戦地へ
「Atlas(アトラス)6、地表付近に白煙を確認。」
「こちらからも確認している、くまなく探せ。」
「了解。」
先ほどの攻撃以降、付近の探索を行ったが敵は発見できなかった。
そして補給のため、空港に戻ろうとしていた時だった。
「上空の味方機、聞こえますか?」
無線機から女性の声が聞こえた。
「こちら、アトラス。聞こえている。」
「了解、こちらは連合海軍軽巡洋艦巌流島。味方地上部隊から支援要請です。敵部隊の発見及び鹵獲された中戦車を発見撃破をお願いします。」
「その戦車の特徴は?」
「塗装はそのままだそうです。また、砲塔後部に機関銃を積んでいません。」
「了解、発見ししだい攻撃する。」
「はい、お願いします。」
軽巡洋艦からの無線が切れた。
「海軍はもう交代の時間か…俺達も早いところ帰りましょう。」
「ストラト、敵戦車は発見できたか?」
「…できていません。」
「こちら、ハンター。戦車を発見。空港を目指しています。」
「ハンター、そのまま攻撃をしてくれ。」
「…了解。」
俺は、機体を2番機が見える位置に移動させる。
俺は、視界に2番機を捉えると2番機は、降下を開始した。
「イーター、追撃する。」
「了解、ストラト、イーターに続け。」
「了解。」
「こちら、ハンター。初弾命中。」
俺は、視界に黒く焼けた戦車を捉え機関銃で銃撃する。
攻撃後、すぐに機体を上に向けて上昇する。
「全機聞こえるか?敵戦車への攻撃は成功した。あとは、地上部隊に任せる。」
「イーター、了解。」
「ストラト、了解。」
「ハンター、了解。」
「ハンター、巌流島への攻撃成功の報告を。」
「はい。」
「…イーター、聞こえるか?」
「はい、聞こえます。」
「今日の感想は、基地で聞く。いいな。」
「はい!」
「気負抜くなよ!」
俺の部隊は、空港への帰路についた。
離陸を終えた、俺の手は小刻みに震えていた。
攻撃地点付近
「…バルロー曹長。」
「…レフの様子はどうだ。」
「左腕を切り落としました。」
「ひじから下か?」
「はい、処置は終わり安定してはいますが…早くに基地に戻った方が…。」
「伍長、戦車に手榴弾を投げ込んでおけ。軍曹、帰還する。」
「はい、杉澤、木下。レフを運んで!」
レフは追撃の際に、車載機関銃に腕を撃たれた。
幸い、他の部位に当たることなく腕だけで済んだ。
しかし、当分の間。レフには休みが必要だった。
「あまり気持の良いことではないな…。」
「どうされましたか、曹長?」
「急ぐぞ。」
「はい。」
与那国島空港にて
俺とロラは、港に着いた後バルロー曹長達を探した。
装甲艦波照間は、船から積荷を降ろし、兵士はトラックに積荷を載せていた。
俺とロラは、彼らを横目に空港へと向かった。
「盛り上がっていますね。」
「ああ、そうだね…。」
空港では、ささやかながら食事と酒が用意されていた。
すでに、お酒を飲んでいる人達がいてしんみりとした様子ではなかった。
「…伍長!」
「ん…あっ、杏樹だ。」
俺とロラは、急いで杏樹の元へ走った。
杏樹は丸い立ち飲み用のテーブルの横でフライドポテトをつまんでいた。
「杏樹!」
「…昇に、ロラ。」
「伍長、曹長たちは?」
「曹長と軍曹は司令部に報告に行ったわ。木下と杉沢はレフの手続きを行っているわ。」
「杏樹は、何をしているんだ?」
「…あんたのお祝いよ。生還おめでとう、昇。」
「…。」
「何、しんみりしているの?作戦は成功したんだから喜びなさい。」
「ああ…。」
「私の最初の時はこんなんじゃなくて…まあ、それは置いといて…。とにかく、今は笑って食べて踊って酒におぼれなさい!いい、これは命令よ!」
「…あ、うん。」
「よしっ、それじゃロラ、そこら辺からビールを持ってきなさい!」
「了解しました!」
ロラは、ビールを探しにどこかへかけていった。
「レフのことは、心配ないわ。軍のクリニックセンターで治療を受けられるしそれにリハビリを終えたらまた、私隊の部隊に戻ってくるわ。」
「ああ、それは聞いたけど…。」
「もし、あの時…一緒に行っていればとか…考えてない?」
「…何で、わかるんだ?」
「軍の心理学論文にも同じようなことが書かれているからよ。あなたは、統計学的に見てだいたい過半数くらいの単純な思考パターンだったってことよ。」
「…。」
「単純ね。」
「二回も言うなよ。」
「でも、その思考は大切にした方がいいわよ。」
「…どうかな。」
「お待たせしました。」
ロラがビール瓶とジョッキを片手に持ってやって来た。
俺は、ロラが脇に抱えていたビール瓶を取った。
「伍長、私が入れますので瓶を…。」
「いやっ…いいって…。」
「昇!ロラは、あなたを気遣っているのよ。いいから、飲みなさい。」
「いや、持ってくる頼んだのは…杏樹じゃん。」
「何、私の酒が飲めないの?」
「…すいません。」
「はい、どうぞ伍長。」
俺は、ロラからビールを渡された。
「はい、これ。」
「杏樹、これは?」
「アルコール分解促進薬。脳の細胞の破壊を防ぐための薬よ。」
「…そんなのがあるの?未成年者用よ。」
「もともと女児スパイのなんか媚薬関連の研究してところで作られた薬よ。」
「…なんかやばい単語しか出なかったような。」
「民間でも出回っている薬よ。漢方成分由来だから大丈夫。」
「わかった…とりあえず飲むよ。」
「ロラ。」
「はい、お持ちいたします。」
「…。あのさあ、ロラの扱いひどくない?」
「あの子あんたに気があるみたいよ?」
「…えっ?」
「さっさとくっついちゃえ。」
「…それ今、言うこと?」
「どうかしら…。」
「はあ…というか何でそんなことを?」
「女の勘よ。」
「無茶苦茶外れそう。」
足に痛みが走る。
「あらっ、ごめんなさい。暗くて足元がよく見えなかったわ。」
「絶対、わざとだろ!」
「それで、どうなの実際?」
「…何が?」
「ロラのこと…。」
「いきなりすぎるかな…そんなことお前から言われてもしっくりこないし…。」
「恋は一瞬で燃え上がるものよ…。」
「どうかな…。」
「伍長、お持ちしました。」
水を取りに戻ってきたロラが戻ってきた。
「ありがとう、ウォーリー。」
「…はい、伍長。」
「…なるほどね。」
何かを察したのか杏樹はそうつぶやいた。
だげ、俺とロラの間には何もないので完全に杏樹の勘は外れている。
しかし、そう告げたところでさらにややこしくなるため言わないようにしていた。
「ロラは、薬は?」
「もう服用しています。」
「そう…じゃあ、昇。飲んじゃって…。」
「ああ…。」
俺は、杏樹から貰った薬を飲んだ。
「さて、それじゃあ乾杯といきましょう。」
「はい。」
「…やっぱ、飲むの?」
「当たり前です。」
「…何というか、伝統みたいなものなんです。」
「そういうことだから、いいから飲め。」
「…ああ、わかった。」
とはいえ、何というか罪悪感があるが飲むことにした。
とりあえず、ジョッキを手に取る。
「それじゃあ、長篠昇の初出撃と与那国島奪還成功を祝って乾杯!」
「乾杯。」
「乾杯!」
ゴクッと一思いにビールを口にする。
ほろ苦い味と共にほどよい感触が喉に当たる。
「伍長、いきなりはダメですよ。」
「はあ…まあ、そんなことだろうかと思ったわよ。」
「へっ…。」
「伍長、さっきの薬はアルコールの分解を促進できますが急性アルコール中毒は防げません。」
「…うーん、とりあえず水でも飲ませるか。はい、昇。」
「…何か色違わない?」
「…坂上伍長…それはビールです。」
「あっ…まあ、飲んじゃって。勿体ないし。」
「…。」
「…与那国島の奪還には成功したけど、まだこれからよ。」
「それは、わかっているよ。」
「今度は、死者が出るかもね…。」
「今回も出ているからな…。」
「…上の予想では、今回の比じゃないレベルよ。補給線の問題だってあるし。」
「今度は、生きて帰れるかわからないってことか…。」
「残念ながらね…明日からまた船に乗って移動よ。」
「モンゴルか…。」
「ええ、遠い旅ね…。」
その後も、3人でお酒を飲んでたわいのない話をした。
俺は、いったいどこに行くのだろうか…。
果てしない航路がこの先にあるのか…。
少しずつあの世界のことが夢のように思えてきていた。
翌日、俺達はモンゴルへと向かった。
レフは、補給船に乗り近くの基地へと向かった。
「…。」
「どうしたの昇?」
「ここから見ると、綺麗だなって…。」
「そうね…。」
与那国島はただそこに佇んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます